三十七話
明日が休みになったので、二話更新しております(σ'∀')σ
これは一話目。
まずは確実な先攻による効果を確認。
レカリール女史は、初撃に一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに態勢を整えて見せた。普段通りの冷ややかな表情を取り戻し、頷いてみせる。
「それ位ならば、まあ可能な範疇だろう。それで、どうすればいい?」
「はい、ではそのまま動かないで下さいね?」
「う、うむ……おい、何故立ち上がる、何故こっちに来る。」
「いや、抱きしめて貰うんだから、傍に行かないと駄目でしょう?」
「それは、そうか。」
現在対面で掛けていた応接ソファから俺だけが立ち上がり、ローテーブルを回り込んで女教師の傍に行く。
落ち着いているようで、こちらの動向一つに過敏に警戒を見せる彼女へ『何も疚しい事などないですよの微笑み』追撃を入れて、納得した瞬間に次の行動へと移した。
「なん、だと?」
「ふふ、これで同じ高さで顔が見れますね♪」
「いや、まて、まてまてまてまてっ!?
何をしれっと人の膝の上に腰掛けてるんだ! かかかっ顔が近い近いちょっ、一旦離れたまえっ!?」
相手の意表を突くのは、戦術の基本である。
まだ十三歳の俺の体は年相応の平均よりやや細身で軽い。逆に先生は女性としては高身長であり、冒険者上がりとして鍛えられていた事も相俟って軽々と俺の体重を支えてくれた。
が、精神的負荷はちょっと過重そうである。突然陥ったこの状況に慌てて俺を突き飛ばすように、しかし大して力が入っていた訳ではないのだが、俺はそれをわざと利用して派手に転げ落ちてみせる。
「あっ。」
「うぐっ!」
この時点で護衛であるレイセルは、主君に危害を加えられた事態に対して本来は動かねばならないのだが、ここに来る前に言い含めていた事もあって静かに推移を見守っていた。若干眉が動いていたようだが、後でフォローしないとなぁ。
ともかく、背中から転げ落ちた俺は呻き声を上げた後、ゆっくりと体を起こして『ダンボールに入れて捨てられた子犬が主人を求めて切なげに鳴くような雰囲気と表情』を醸し出して、悲しげに彼女を見上げる。
「い、いや、すまない、そこまで力を入れたつもりは……。」
「……先生は、俺を利用するだけ利用して、こんな仕打ちをされるんですね。」
「ふぐっ!?」
暗く切なげに、しかし甘い毒を込めた声音を震わせて、訴えかけるように。
少しばかり彼女の良心を責めてみたつもりの一撃は、思いの他効いたようで明らかにレカリール女史は胸元を無意識に押さえて怯んだ。
「ち、違うっ!」
「俺は利用されたのだとしても、貴女に褒めてもらえるなら、それだけでよかったのに……こうまで、されるほどに、嫌われていたのですか……。」
「そんな事は決してないぞ! ただ行き成りだったから、ちょっと驚いてしまっただけで、お前を嫌っている訳ではないっ!」
「本当ですか……?」
「本当だ、女神に誓えというなら誓おう。」
女神教を国教とするオルトニクス王国に置いて、その宣誓は重い意味を持つ。判り易くいうと、彼女は自分で自身を後に引けない立場に追い込んだと思って貰えればいい。
この時点で俺の勝ちが確定したようなものだった。割とちょろいなこの人(苦笑)。
「じゃあ……さっきと同じようにして、抱きしめてくれますか?」
「うっ……うむ、いいだろう、ぜんぜん構わないぞ。さ、さあ、来たまえ!」
若干やけくそ気味に見えるが、堂々と胸を張って迎え入れるように両手を広げてくれた女教師の膝の上に、『恐る恐る様子を伺うようにして近づく人見知りの子猫』ぽい感じで、躊躇いながらという振りをしつつ、再び彼女の膝の上に腰を落ち着ける。
「っ。」
「……近くで見ると、やっぱり先生は綺麗ですね。」
「っっ、ば、馬鹿なことを言ってないで、やるぞっ。」
「はい、お願いします。」
『受け入れて貰った事が嬉しくて嬉しくて堪らない、憧れの人を見つめるようなうっとりと信頼しきった瞳と蕩けるような微笑』を意識して作りつつ、恥ずかしげな雰囲気も出して囁くように台詞を吐く。
ひゅっと息を詰めて慌てて顔を背けて口元を押さえる反応を見せた彼女に、俺はいぶかしげに小首を傾げて見つめていると、すぐに動揺を振り払うように威勢を上げてこちらに向き直った。
「じゃあ、だ、抱きしめてやる。ほ、ほら、これでいいんだ、な?」
「……あぁ、嬉しいです、先生。」
「くぅっ。」
『瞳を閉じて、全てを委ねきり安心した笑み』を浮かべ、膝に横向きに座っていた為、横抱きに体を抱きしめられた状態で、女史の肩に頭を預ける。
前世なら間違いなくセクハラ案件だこれ、と本当は現在進行形で内心の慄きに震えていたりする俺であるが、これは必要な演技で経験だと自身に言い聞かせて継続する。
実際に傍から見たら恐らくだが、幼い少年に手を出した女教師という逆セクハラ案件になりそうなので大丈夫。俺の方はね!(卑劣)。




