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三十五話

 『模擬決闘』から一週間。

 俺は放課後、ほぼ毎日日参しているレカリール・クラニッツァ先生(三十二歳、独身)の教員室でお茶を頂いていた。うん、やっぱりこのほうじ茶風のお茶を飲むと、前世の日本人的心が和むなぁ……。


「ぁむ、ん、んむ。」


 そして目の前では、お茶請けに持ってきた一口サイズのチーズケーキを頬張るクールな女教師の姿が。ちなみに前世でも今世でも、チーズケーキは俺の好物の一つです(どうでもいい)。

 見た目によらず、というのは失礼かもしれないが、彼女は甘い物好きで、しかし甘過ぎる物は好まないようだ。

 無意識なのだろうが、お茶請けを口にする時に毎回唇が綻んで、咀嚼する姿がどうにもギャップとなって可愛い。可愛いは強い、可愛いは正義である。

 よって俺はその光景を視界に捉え、ほっこりとした気分になりながら、彼女手ずからのお茶を味わうのだ。完璧だね!(何がだ)


 口の中のケーキを食べきって、彼女がお茶を一口して息を吐いた所を見計らい、本日の来訪目的を口にする。


「あれから、男爵への対応はどうなりましたか?

 今日まで何も無かったと言う事は、上手く処理出来たのだと思うのですが。」

「ああ、準備期間を相応に取ったおかげでな、対策は万端だったぞ。」


 聞けば、本来の『模擬決闘』の手続きには、一日もあれば可能だったそうだ。

 しかし、その結果次第で現地チート野郎なアドヴェンチェル男爵との一悶着が予想された為、それを未然に抑える為の人員を学園と王家が連携して召集したらしい。それに必要だった時間を稼ぐ為に、手続きを長引かせたのだと。


「王太子殿下の国内巡察に同行されていた王国騎士総団長、女神教団神殿騎士総長、そして王都から最も近い深層ダンジョンを要する街の冒険者ギルドから、現役の特級冒険者。

 誰もが男爵と同等かそれ以上の化け物三名を置いて、王城での経緯説明を行った。

 流石に男爵も、二人までなら不意を打った各個撃破なら可能性もあるが、三名も同等以上が揃えば無茶をする気にもなれなかっただろうさ。」

「そこまで厳重警戒でしたか……。」

「彼には自身に非が無かったとはいえ、感情のままに暴れた前歴があったからな。陛下もその様な事で彼を処罰する様な事態は望まれなかったという事だ。」


 そういえば、今生陛下も若い頃は大分無茶をしたお方だったという話しだしな。豪快な相手を好まれるのだろうか。俺は相手にもされないだろうなぁ、性格的以前に、そもそも実力も才能もないし。されたいとも思わないが。


「最後までむっつりとした様子で聞き終えた後、『我が息子ながら女の取り合いで騒ぎを起こし、あまつさえ叩きのめされるとは。不甲斐ない。卒業後は、一つ本腰を入れて鍛えてやらんといかんですな。』と漏らしたそうだ。

 あの男爵がまともに誰かを鍛えられるとは思えんから、エリクオル君には試練となるだろうな……。」

「ご愁傷様、と今から送っておきますか……。」


 ま、彼の未来がどうなろうと構わないが、可能ならば偉大な父親に順ずるくらいの強さを手に入れらればいいけどな。

 ん、なんでかって?

 今の男爵が生きている間はアドヴェンチェル男爵家は安泰だろうが、その死後が怖いんだよ。あの家は門閥貴族からの恨みを大分買っている。

 主人公君、と呼ぶのもすでに相応しくないから、略してエリク君とでも呼ぼうか。父親の庇護である『絶大な戦力』を失った時、恐らく徹底的に叩かれると容易に予想できるからね。


 母君が降嫁された元王女殿下だから、直接的に生命を奪うなどはされまいが、盗賊に扮した物的人的破壊活動、臣下の暗殺、商家への圧力や関所の通行税値上げによる物流阻害に経済制裁など、いくらでも手札は尽きないだろう。

 最終的には借金漬けにして、その抵当に領内の様々な権利を取り上げられる事になるかもしれない。飼い殺し貴族の一丁上がりだよ。

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