十話
やってきました入学式当日。
ん? 入学試験? 無いよそんなもの。
基本的に貴族は、実家で家庭教師を雇って修学は済ませてるからね、普通は。だから学園でのメインは、やっぱり社交の予行演習に重きを置かれているそうなんだよ。
とは言え、授業はちゃんとあるんだけどね。何でかというと、王家が優秀な人材を発掘する目的があるからだとか。
何しろ王立学園だから、学生の成績は当然に王家に筒抜けな訳で。プライバシーの保護?何それおいしいの?ってのがデフォルトな封建社会ですしお寿司。
それが判っているから、野心のある奴はここで頭角を表そうと躍起に成ったりするらしいんだがね。正当不当の手段問わずにさ。
「ほう、中々良い見目ではないか。おい、お前、今夜は俺の伽を役る事を許す、付いて来い。」
「え、えっ? い、いきなりなんですか? ちょ、いや、はなしてっ!? だ、だれかっ!」
えー、馬車で乗りつけた学園の入り口から玄関まで、ちょっとした距離を徒歩で歩かないと行けないんだけどね。
うん、いきなりイベントっぽいのが発生してましたよ。テンプレかよ。
性格が判りそうな傲慢で嫌らしい笑みを浮かべた、ちょっと小太りのお子様が、取り巻きを引き連れていた所で目に止まった令嬢に絡みだしたらしい。
入学生だから同い年なんだろうけど、貴族の子息は性的な教育が早いからなー。対して令嬢は貞淑が求められるというなんとも不平等な慣習な訳で。
そら温度差が当然あるわなぁ……。
「おい、何してるっ! その子は嫌がってるじゃないか、離せよ!」
そして登場する主人公っぽいイケメン少年が。あ、俺じゃないよ?
何しろ凡才だからね、通りすがりのモブ宜しく、気配を殺して目立たぬようスルー気味に遠くから眺めてましたよ、ええ。
「処で、その掌のものはなんですか、坊ちゃま?」
「ああ、これ? ナッツの残りだよ、小腹が隙いたから食べようと思ってさ。」
「なるほど。てっきり指弾を飛ばされるのかと勘違いしてしまいましたよ。」
「あはは、ないない。凡才はああ云うのに関わらないのが、平穏に過ごす秘訣だよ。」
「ふふ、そうで御座いますか。」
うん、モブはモブらしくしないと。分不相応な真似をして、格上の貴族から目を付けられるなんて御免だよ。俺は平穏無事に二年間過ごして、故郷に帰らないといけないからね。
とかなんとか、学園内お付として一緒に登校したレイセルとだべっていたら、イベントはどんどん進行していたらしい。
「貴方達、何をしていらっしゃるの?」
「あん、誰だ、この俺を邪魔を――っ!? こ、これはイディア様っ、ご機嫌麗しく。」
「ええ、先ほどまではね。折角の入学式当日に、この様な場所で騒ぎを目にしなければ、もっとよろしくてよ?」
「はははっ、騒ぎなど何も御座いませんよ。ええ。
わ、私めはこれで失礼致します、ご挨拶は改めて、又後ほど。お、お前たち、行くぞ!」
身分をひけらかして、侮辱だ決闘だと騒いでいた小太りと取り巻き。
恐らく爵位が低いのだろう主人公と令嬢が劣勢に成ったっぽい処で、颯爽と現れたるは、多分更なるお偉い所のご令嬢なんだろう中々の美少女。
途端に小太り子息の腰が低くなり、そそくさと尻尾を巻いて逃げてったわ。なっさけねー、ぷーくすくす。
しかし件のご令嬢、ひらひらと優雅に扇を口元に挿頭しながら、お供を何人も引き連れてまぁ、典型的だなー。そしてお約束のドリル。ドリルですよ奥さん!
いや、実物をはじめて見たわ。あれどうやってセットしてんの? 天然じゃないよね?
といった感じでボーっと眺めていたら、令嬢は主人公君や絡まれていた令嬢と二言三言交わしてから、また優雅に歩いて行かれましたよ。
さて、俺も急いで式場まで行かないとな。




