67.嫉妬☆
日之本帝国では、ありふれた雰囲気の若者たちだ。
ひねた青年は、中二病にありがちな醒めた目と、反抗期にありがちな周りの全てを敵と看做し、つっかかる敵意。
赤い大蛇の彼女は、恋人への独占欲と、恋人が関心を寄せたものへの嫉妬。
政晶のクラスにも何人もいる。
前者は、居ないクラスを探す方が難しいだろう。
後者も、学校で一度見たことがある。
いつだったかの放課後、校舎一階の階段下スペースで、何人かの女子が揉めていた。
女子の一人が、学年で人気のある男子に告白したらしい。
成否は不明だったが、抜け駆けを咎められているらしかった。
グループのリーダー格が、「みんなの勝原君に手ぇ出してんじゃないよ。糞ビッチが」と凄んだ声に足が震えた。
偶然通り掛かっただけの政晶は、彼女らに気付かれないよう、そっと校舎を出た。
階段の陰になって姿は見えなかったが、あの子たちはきっと、クロエを睨みつけていた赤い大蛇の彼女と、同じ顔をしていたに違いない。
……えーっと……ここって、あぁ言う恐いもん、溜めてあんねんな?
〈そうだ。心を強く持って臨むのだぞ〉
……うん、まぁ、そら相当、気合い要るやろなぁとは思とうけど、あれ、咬んだりとかするん? それとも、触っても別にどないもない? こう……物理で。
〈何の為の鎧だと思っておるのだ?〉
……普通の人には視えへん癖に、咬むんや……
政晶はうんざりしながら、鍵の番人の後について、建物に入った。
東に建つ宿泊棟は南北に細長く、広場に面した廊下に沿って食堂と小部屋が並んでいる。
「慈悲の谷様は持ち場にお戻りで、欺く道様は、巡回なさっておられます」
政晶に「宿舎の管理者」と名乗った初老の男は、鍵の番人とは顔見知りらしい。再会の挨拶を交わし、導師達の所在を報告する。
鍵の番人は、それに素っ気なく応え、すぐに退がらせた。
宿と同じ部屋割で、〈雪〉〈雪丸〉の従兄妹が北の端、政晶たちはその手前の部屋に落ち着いた。
〈斧〉が魔法で灯を点す。
荷物を降ろすと、窓の外はすっかり闇に包まれていた。
麓のような虫の音はなく、風の呻りだけが聞こえる。
月に照らされた灰色の雲が、西から東に流れて行った。
食堂は、水瓶と調理台と、四人掛けの食卓が七つあるだけの簡素なものだった。他の若者達は既に食べ始めている。
政晶は、ドブ水の青年と赤い大蛇の娘を見た。
特に変わった所はなく、普通にスープを飲み、普通に堅パンを齧っている。
……あの人ら、そんな悪い人っぽく見えへんのになぁ。人は見かけによらんもんやねんなぁ。
〈人前に出す表の顔と、真の顔が異なるのは、ままあることだ。人は本音と建前を使い分けるものだからな。尤も、モノには限度と言うものもあるが……〉
……あの人ら、限界超えてまいそうなん?
〈さあな? ここでひとまず、現在抱えておる穢れは祓われる。しばらくは超えぬだろうが、本人次第だな〉




