65.祭壇☆
その後は拍子抜けする程、何事もなく、予定通り三日目に祭壇の広場に着いた。
政晶が通う中学校くらいの広さだ。
七合目付近の斜面が平らに整地され、広場の中央に祭壇が設えられていた。
石畳の広場を囲んで石造りの建物が三棟ある。いずれも平屋で窓は小さい。
石畳には一枚ずつ複雑な文様が刻まれ、遠目に見ると、全体でひとつの魔法陣を描いていた。
振り向くと、眼下にムルティフローラ盆地が広がっている。
彼方に小さく王都が見え、都を中心に街道が放射状に伸び、一本の大河が盆地を貫いて走っていた。手前の村から夕餉の煙が細くたなびいている。
見上げれば、山頂は薄く雲を纏い霞んでいた。登山道は祭壇の前で終わり、それより上を目指すなら、自ら道を切り拓かなければならない。
火照った頬に触れる風が冷たい。
遠く西に目を遣ると、空は茜に染まり、東から夜が近付いていた。
王都の北に聳える主峰に連なる山々が、夕日の色を映して輝いている。
石畳の広場は南向きで、東西北の三方を建物に囲まれていた。
夕日が落とす長い影が、広場を覆っている。
初老の男性が、向かって右、東の建物から出てきた。
政晶の胸にふと疑問が浮かんだ。
……ここって、今までの山小屋みたいに、安全な場所なんかな?
〈城と同じだ。少し三界の眼を開くぞ〉
……えッ? ちょっ……いきなりッ?
視たいと言った時には視せてくれず、今になって急に視せると言うことに、若干の腹立たしさはあるが、政晶は剣の柄に手を添え、目を閉じた。
〈汝は魔力を持たぬ故、我の力を解放するのは本番だけだ。今は、心の準備の為に力の一部を暫し解放する。よいな〉
政晶は小さく頷き、ゆっくりと目を開けた。




