帰らせていただきます
幼なじみのショウ君が電信柱の陰からゴミ捨て場を見ている。
男の子というのは、割と訳の解らないことをする生き物だ。
コンクリートに囲まれたゴミ捨て場には人形が置いてある。ショウ君の家で見た記憶がある。
ショウ君がゴミ捨て場を凝視していて、私には気づいて無いみたいなので、少し遠回りして帰ろうかなと思ってたら、眼があった。
しょうがない。
「なにしてるの?」
「しっ!」
人差し指を口に(黙れ)のサイン。
さらに、こいこいと手招きする。
めんどくさいな~
こっそりと(どうしたの?)と口の動きで伝える。
あたしの肩に手を掛けると路地に入る。
馴れ馴れしいなこいつ、男と女の区別もろくに出来てないオコサマなんだろうな~
「あの人形さ、うごくんだぜ!」
ものすごい秘密を打ち明けるように、瞳を煌めかせて囁く。
こっちはドン引きである。
「あの人形、どこに捨てても必ず家に戻って来るんだ。」
それって普通呪いの人形っていうよね。
「見てろよ、そのうち動き出すぜ!」
やです!
「ごめん、あたし用があるから・・・」
そういって離れると。
「ちっ! だから女って奴は・・・」
聞こえてるよ。でも今ほど女に生まれて良かったと思ったことはない。
私はそのまま家に帰りました。晩ご飯はシチューでした おしまい。
翌朝、教室に先に来ていたショウ君が、昨日の人形が帰って来たと言ってきた。
朝郵便受けに入っていたそうだ。
「ずっと見てたんじゃなかったの?」
「オヤジに見つかっちまったんだよ!」
「へ~」
へたれ。
でもそれっておじさんが持って帰ったんじゃないの?
「今日こそ最後まで見届けるんだ!」
「頑張ってね。」
あたしを巻き込まない範囲で。
その日の夜、窓の外に耳を引っ張られながら家に帰るショウ君がいました。
ほんとどうして男の子って・・・
しばらくして冷蔵庫を開けると、牛乳がなかった。まだひとパックあったはず。
「お父さ~ん、牛乳知らな~い?」
「ん~ 飲んだぞ~」
「寝る前にホットミルク飲みたかったのにぃ~」
そう思ったら、妙に眼がさえてきた。
コンビニまでは二百メートル。
ゴミ捨て場の前を通ると、あの人形が置いてあった。
あと、ゴミ捨て場横におでん屋台がでてた。
コンビニから帰ると、人形が無かった。
いや、あった。
おでん屋台で、お酒呑んでる。
「すいません御嬢さん、こっちの御嬢さん
連れて帰ってもらえません?」
屋台のおじさんが言う。
おじさんは眼がひとつだった。それも顔の真ん中に口よりも大きなのがひとつ。
一瞬身体が強張ると、屋台が消えていた。
手の中には人形の感触があった。
濃厚なおさけの匂いも、屋台の裸電球も無くなって、冷たい人形の感触だけが・・・
捨てたい、そう思ってそっと人形を見ると睨まれた。
いや、ただ眼があっただけなのだが、なぜかそう思えた。
五十メートル、五十メートルだけ、たったそれだけ余分に歩くだけ。
そう思ってショウ君の家まで行って人形を郵便受けにいれる。
「ひっ!」
家の中から、ショウ君が見てた。
気が付くと自宅の冷蔵庫の前だった。
飲む気になれない牛乳を冷蔵庫に入れると、歯だけ磨いて寝た。
翌朝教室でショウ君と遭う。
とても気まずい。
「わかってるから!」
いきなりショウ君が言う。
「大丈夫、全部わかってるから!」
何がわかってるのかこっちにはさっぱりわからないままだった。
昼休みに昨夜の出来事をショウ君に話した。
「うんうん大丈夫、わかってるから!」
なぜだろう、私にはぜんぜんわからないのだ。
困った私は夕ちゃんに相談した。
「ナルホド、ナルホド、怪奇体験を除い
て考えてみようか?
夜遅くに男の子の家に、男の子のために、男の子の人形を持って行ったと・・・
ウン、オメデトウ。」
「なんでよ~っ!」
「ショウ君のためって言ったほうが良かった?」
「何よそれ~っ!」
おもいきり痛い娘じゃない。
「で、言い訳がオカルト。」
「いっそ殺して・・・」
そう言えば、私の話を聞くあいつの眼、なんとなく生暖かかったような・・・
本当に最悪なのはそれからだった。
私はショウ君のことなんか好きでも何でもないと、態度で示した。
逆効果でした。
何かするたびに、こっちが意識しているのがわかってしまうようで・・・
それに、気になる相手にちょっかいを出す女の子バージョンだと思われているようだ。
勇気を振り絞って、あの夜の話をもう一度した。
「大丈夫、わかってるから!
それにもう俺オカルトなんて信じてないし。」
万策尽きた私は、再び夕ちゃんに相談した。
「ほとぼりが冷めるまで待つしかないんじゃない? あたしまで三角関係とか思われたくないし。」
思った以上にアテになりませんでした。
二十年が過ぎた。
あの呪いの人形を拭いている。なぜだろう最近やたらと汚れているのだ。
ショウ君は今、旦那になっている。
ずっとずっとウザかったが、それでも私をお姫様扱いで、本人は懸命にナイト役を頑張ってきた。
女の子ですから、嬉しくないわけではなかった。
なんとなくほだされて、結婚した。
プロポーズのときは、白いスーツに薔薇の花束で『愛しています。貴女のことを必ず幸せにします。貴女の為なら何でもします。結婚して下さい。』という台詞を十回言わせてOKした。ちなみに二回目からの九回分は携帯に録画して、パソコンのファイルに保存して、CDにも焼いてある。もし私を本気で怒らせたら親族友人集めて上映会である。
「母さ~んメ~シ~」
息子が帰ってきた。育ち盛りの食べ盛りで、最近生意気なのだ。
人形を座らせると、今日のオヤツをレンジに入れる。




