117.桃源郷1
天の川銀河の東の果てで輝く太陽系にある地球、その青い星は稀にみる美しさを持っている。
地球が誕生してからの46億年のうち地球人と呼ぶべき生命体が誕生して20万年、文明と呼べるものが発展したのが1万年前その頃の地球はまだまだ美しかった。
地球の姿が変貌していくのは西暦1800年頃の産業革命で工業の発展が目覚ましくなり始めてから。
『たった200年で地球はこの有り様だ。このままのスピードで地球人が地球を蝕んでいったらあと200年もしないうちに地球は崩壊してしまう』
地球が生まれた当初から見守り訪れ月に観光案内所まで建設した宇宙人たちは急速に薄汚れ変わり果てていく地球を哀れみ地球人に強い嫌悪感を抱き出す。
異星人たちは地球人が地球を汚染する度に介入を試み自然環境を取り戻そうとしたけど成果が上がっていない。
カシオペア座べーター星のカフ星人は産業革命より以前、地球人が大気や海を汚染し始めた当初から『地球人なんか皆殺しだ』と誰はばかることなく進言し北方星域で仲間を集め行動を起こすチャンスを密かに待ち構えていた。
その噂を耳にしたおうし座アイン星人たちが地球人は保護すべきだと言い始めケンタウルス座アルファ星系に人工惑星建造を始めたのも同じく西暦1700年頃。
プロシキマケンタウリ惑星Cの伴星となったのでC2と命名される。
人工惑星の建造が始まった頃、穏健派の一部が地球人も連盟に加入させるべきだと議会で提案して認められた。
その事により地球上から13才位の少年少女達を東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地へと招き入れ、ふさわしい宇宙人と成るように教育を行い連盟の一員としている。
西暦2000年を過ぎた頃から地球の環境破壊が一段と加速しその事に勢いを得たカフ星人を中心とした地球人類排斥派の勢力が拡大していく。
そんな中、地球人の行動を調査、分析して環境破壊防止の方向へ誘導する目的で地球上15ヶ所に設けられた地球防衛基地地上支部の一つ日本支部が2007年6月に宇宙人排除仕手委員会を名乗る過激派団体の攻撃を受け壊滅状態に陥った。
西暦2010年に、宇宙人のための地球防衛基地で開かれた第62回査問会議で地球人排斥派の意見が認められ2015年から地球上で生活する地球人を排除する目的でドライアイスメテオ作戦が5ヶ年計画で開始される。
保護派と擁護派はそれぞれの思惑で地上の地球人を避難させようとするのだけど2021年12月にドライアイスメテオが地球に投下された。
その時、宇宙に出ている地球人の総数は避難のために移民船に乗り込んだ8万人を含めても31万人しか生在してないことになる。
しかしそれでも異星人たちは危惧していた。
宇宙に出た地球人を野放しにしていたら直ぐに百万、一千万、一億人と増え続け、自分たちを脅かす驚異になるだろう。
だから早目早目に人口調整をしなければならないと。
まるでゴキブリ並みの言われようである。
万が一にでも彼女の耳に入ろうものなら……いや、入らないことを祈ろう。
主人公の二人が乗る光速宇宙艇スターキッドは人類保護派が地球人を強制移住させて今は地球人の桃源郷になっているとアイリーンが勝手に思い込んでいるケンタウルス座アルファ星C2へその実態調査のため向かっていた。
「暇だわ……」
アイリーンが操縦席で長く伸びをして天井を仰ぐ。
「だからコールドスリープすれば良かったんじゃない、今からでも入る?」
昴くんが『ほら、見たことか』と言いたげな表情をしている。
「嫌よ外で打ち上げ花火が上がっても見れないし目が覚めたら天国でしたって、オチがつくのは絶対に嫌だからね」
〈その発言は僕の事を信用してないって事ですか、プンプン〉
スターキッドAIが大げさにすねて見せた。
「Aちゃん最近やたらと擬音が増えてない」
〈それだけ人の心に近づけたってことじゃないですかね、感情表現が豊かになった証拠ですよ、それにこれくらいAIとしての存在価値を示さないと、その……主人公から下ろされてしまいますからね〉
(Aちゃん主人公のつもりでいたんだ!)
二人はびっくりする。
「なるほどね、よく分かったような気がするわ」
アイリーンが同情を込めて言う。
「もう冥王星も過ぎたよね、あとは何もないベタな空間だけが広がっている宇宙、愛鈴じゃなくても退屈するよ、それに折角コールドスリープ装置を積み込んだんだから使わないと勿体無いんじゃないかなあ」
昴くんは環境管理席にある艇内モニターで倉庫に置かれたコールドスリープ装置を眺めている。
「もうそんなにグジグジ言うんだったら昴くんが入ればいいじゃない、ちゃんと寝顔を見といてあげるわ」
(なんか嫌な言われようだな~)
「僕にはスーちゃんがくっついているから暫くは無理だと思うよ」
「そうだったわね、もう少し元気になったら昴くんの外に出ても大丈夫になるんだったわよね」
「だから僕のほうはまだ時間が掛かりそうだから、愛鈴が先に休んだらいいよ」
(昴くんったらしつこいわね何なのかしらね~、 ああ……そうか)
「昴くんさあ、うちがご飯をバクバク食べるから食料不足になるんじゃないかって心配なんじゃない」
「食料不足解消のためにカプセル型簡易バイオ農場を積んだでしょう、確か僕たち2人で10年は賄えるって説明だったよね」
「分かってるんならいいわよ、無理してコールドスリープしなくてもいいでしょう一つしか無いんだし」
「愛鈴が一つでいいって譲らなかったんだよね、二つ目を乗せるくらいなら何か別の換金出来る品物を乗せるからって言って聞かなかった……じゃない……か」
(あっ、しまった、口が滑ったかも知れない愛鈴お願いだから思い出さないで~)
「へっへっへ、昴くんの顔に書いてあるわ『お酒を一緒に飲みましょう』ってね」
(ああ、恐れていたことが現実になる。だからコールドスリープして大人しく寝てて欲しかったのに)
「ダメだからね、まだ僕たち未成年なんだよお酒は二十歳になってからって法律で決まってるでしょう、そのくらい覚えてるよね」
「ハッハッハのハ、それさどこの国の法律なのよ、そんな決まりここじゃあ何の枷にもならないわ」
「法律とか決まりじゃなくても僕たちの身体に悪いよ成長の妨げに……なるし」
「フッフッフのフ、語るに落ちたわね昴くんうち達は成長しない不老になっちゃってるんだから、もしかしたら病気とかにもかからないかも知れないでしょう、だからお酒を飲んで酔っ払い状態になるのか確かめる必要があるのよ、うちが実験台になってあげるから昴くんが観察しなさいよね、じゃっ、そういう事でお酒持ってくるからね」
昴くんはコクピットから出ていくアイリーンを監視モニターで黙って見送るしか出来ない自分を情けなく思ってきた。
「もう、スターキッドAIも何か言ってよいつも茶々を入れてくるのに何で今回に限って黙って見てるの?」
〈今日に限って言わせてもらえば、黙っていた方が面白いかなと思ったんですよ〉
「もしかしたらコールドスリープカプセルを一基しか入れなかったってのにスターキッドAIは加担してるのかな~」
昴くんが何気に問い詰める。
〈・・・〉
「黙秘だね、そうだよね僕たちが二人共コールドスリープに入ってしまったらスターキッドAIが暇をもて余して詰まらなくなるものね」
〈寂しいのは確かに嫌ですよね、でも計画的じゃないですよ僕には決定権がありませんから〉
「どうだか、まあその言い方だと誘導はしたんだよね、あと お酒あれも僕たちに飲ませるつもりで積んだんじゃないかなあ、確かに換金率は高いけどさそれより酔っ払っている僕たちの……いやアイリーンの姿を見たかったんでしょう」
(そういえばスターキッドAIって相当の年代物になっているんじゃないかなあ、やっぱり年を重ねるとどうしても中年オヤジみたいな思考になってしまうのかなあ、僕は嫌だよ『見た目は少年、だがしかし中身が中年オヤジ』何て言われるのは)
昴くんが一人妄想に耽っているとスターキッドAIが話し掛けて言い訳してきた。
〈お酒は純粋に換金目的ですよ、貴金属で取引出来ない相手でも地球産だとか太陽系の星より持参してきたお酒だと言えば高く換金出来ます。それに飲むか飲まないかはお二人で決めるでしょう〉
「愛鈴は僕の言葉なんか聞かないじゃない、僕が何て言おうと最後には飲んでしまうと思うなスターキッドAIからも何か苦言を言ってよ」
〈アイリーンの言うようにここでは禁止する理由がないです。それに彼女は時々こっそりオートレンジでアルコール分7%のお菓子を作って食べてますよ、さすがの僕もそれ以上の度数にはならないように内緒でリミッター掛けてますけどね、だから僕に出来るのはアルコール中和剤を用意するくらいですね〉
「何ってこった、アイリーンが時々酔っぱらった振りをして絡んで来てたけどあれはふりじゃなかったんだ」
昴くんは『ムンクの叫び』のような青ざめた表情をして見せる。
〈アイリーンがお客さんと一緒に戻ってきましたよ〉
スターキッドAIが静かに言う。
(密航者?)
瞬間的にそう思った。
「何ってこった! 一体誰ですかスターキッドAIに探知出来なかったのなら九論さんかピエロさんですよね、スパイ防止装置でも使ってたんでしょうけど密航なんかせず普通に乗って来れば良かったのに」
〈違いますロースさんです。コールドスリープカプセルの中に潜んでいましたよロースさんは妖精だから只でさえセンサーに引っ掛からないのです、その上コールドスリープカプセルの中もプライバシー保護区画ですしね〉
「プライバシー保護区画かあ~無くせないよね、どう考えても必要だからね」
そう言う昴くんの顔が少しだけ赤らんでいく。




