#21 VS『未来』④
「はぁ・・・はぁ・・・終わった、か・・・?」
伸ばした右腕をそのままに、當真は数メートル先に倒れ込むルームズ=アルシャロックを視線で追う。
渾身の一撃。手応えと同時に、横たわるルームズ=アルシャロックが動かない事を視野に捉えると、体中の痛みと疲労が一気に感覚として呼び覚まされる。
限界などとっくに来ていたのだ。ふらつく体を支えきれず、當真の膝から力が抜けていく、
「ナイト!!大丈夫ですかっ!?」
駆け寄り、當真の腰元に手を添えながら、その小さな体躯で當真を支えるアルマ。大きな外傷は見当たらないが、當真以上に呼吸も荒く、その表情にもかなりの疲労度が目に見えた。
「ありがとな、アルマ・・・というか、ちょっと待て!!お前こそ大丈夫か!?顔色、真っ青じゃねえか!?」
アルマの顔を覗き込むように、心配を声にする當真。
「うん・・・多分、“こんな風”に“魔法”を使い続けたことなかったから・・・ちょっと、流石に疲れちゃいました、ふふふ」
自身を支える少女の手から力がすり抜ける感覚を悟り、當真はもう一度、自身に駆け巡る感覚を無視して、少女の肩を支える。
「・・・俺も、もう限界だったよ・・・でも、良かった。とりあえず、ここから離れて、後は警察にー」
お互いに肩を借りる形で支え合いながら、ゆっくりと屋上の入口の扉へと二人が背を向けた
その時だった、
その“軽妙で薄っぺらな声”が二人の背後から届いてきたのは。
「アハハ。待ちなよ、おふたりさん?まだまだ“終劇”は先だよ?」
ゆっくりと振り返る當真とアルマ。
だが、両者が視界に捉えるまでの、その僅かな時間でも、二人の感情が“絶望”に追いつくには十分すぎる時間だった。
そこには。“何事もなかったように”、作り笑いを月夜の下に浮かべるルームズ=アルシャロックの姿が。
そして、當真はその“右手”の周辺が“淡い白光”で包まれていたのを、見逃さなかった。
「あれ?言わなかったっけ?『直す』“魔法”も持って来てるって?アハハ」
間違いなく届いた當真の一撃、だが、その面影などまるで一ミリも見えない程に、ルームズ=アルシャロックの表情は健やかで柔和で、その“痕跡”を見つける事など出来なかった。
体中を駆け巡る痛覚が、“絶望”という重圧によって、これまで以上に當真を圧迫していく。
「・・・アルマ、俺が“一瞬”、“死んでも”食い止めるから、その隙に扉まで向かって走れ!!」
「ッ!?ナイト、そんな事、出来る訳ー」
お互いを支え合う手を振り払い、當真は右の拳を握り、アルマを自身の背後へと突き放す。
「いいからッ!!お前が逃げ切れさえすれば“勝ち”なんだよ、もう、これはそういう状況なんだ!!警察にも連絡はしてるし、下まで行けばたくさんの人もいる!!そうすりゃ“なんとかなる”!!だからー」
声を荒げ、一秒でも早くアルマをこの場所から“逃がす”事だけに全神経を集中させる當真、
その視界の先、『大怪盗』の“左腕”が、再び“淡い白光”で包まれていく。
「“部分再現”。“瞬光脚”」
言葉と同時、ルームズ=アルシャロックの“左腕”を包む“淡い白光”が、その両脚へと“移り”、
シュザッッッッッッッッ
當真の眼前の景色、そこにいたはずのルームズ=アルシャロックの“残像”が、“遅れて”消える、
次の瞬間、當真は背後から“嫌な”感覚を受け取る、同時にアルマは自身の右腕に“衝撃”と“重圧を”感じ取る。
理由は明白。
瞬く間に當真の背後、のさらに奥、アルマのすぐ背後に“移動した”ルームズ=アルシャロックの右手が、アルマの右腕を握り掴んでいたからだ。
「痛ッ!!?」
「アルッ・・・!!!」
手を伸ばす當真。もちろん、その叫びも手も、届くより早く、揺らめく“白光”、
「やっぱり“ちゃんと”潰しておこうかな?とりあえずね?“部分再現”、“重圧殺”」
ゴギリッッッッッッ!!!!!!
残酷で耳障りの悪い破壊音が鳴り響く。ルームズの右手に掴まれたアルマの右腕が、その“白光”のもとに、“あらぬ方向“へと、“折れ曲がる”。
「きゃああああああっっっっっっ?!!!!!」
『オッドアイの少女』の悲痛な叫びが、夜空へと反響する。
「これでもうアルマちゃんは“魔法”は使えないよね?よしよし」
その軽妙で薄っぺらな作り笑顔を目にした瞬間、アルマの叫びを掻き消す程の咆哮を、當真は拳に乗せて、一歩を踏み出す。
「てんめええええええっっっ!!ふざけんなああああああっっっっっっ!!!!」
怒りのままに振るう當真の拳、だが、それが届くことはなかった。
シュザッッッッッッ
當真の拳は無情にも空を切り、眼前にいたはずのルームズ=アルシャロックは再び當真の数メートル後方へと“瞬く間に”移動していた。
声にならない叫びを押し殺し、涙を流しながらその場に蹲るアルマをその手で支える當真。そして、沸き立つ感情を全て、視線の先で悠然と佇むルームズ=アルシャロックへと向ける。
當真の視線に気がついたルームズ=アルシャロックは、両手を広げ、軽妙な口調で言葉を告げる。
「そんな怖い顔しないでよ?大丈夫さ?ちゃんと“連れ帰った”後に、“ストック”し直して、アルマちゃんの事は“直してあげる”からさ?安心しなよ?アハハ」
「ふっざけんな!!“だからって”傷つけていい理由なんて一ミリもねえんだよ!!!!」
右の拳を握りしめ、怒りのままにルームズ=アルシャロックへと駆け出す當真。
だが、當真の咆哮に掻き消える程の小さな言葉を呟き、ルームズ=アルシャロックは気怠そうに“変容”した“左腕”を振るうと、“小規模な風圧”によって、當真の侵攻は食い止められる。
「くっ・・・そ!!?」
「落ち着きなよ?“理由”なんて、アルマちゃんの“魔法”を“脅威”と“認識”したからこそだろ?むしろ君たち“二人”への最大の賛辞じゃないか?この僕が“全力”で“潰し”にいってるんだからさ?」
後ずさりする當真に向けて、両腕を差し向けるルームズ=アルシャロック。
「でもこれでもう君は“ひとり”だ。後腐れの無いように、“きっちり”終わりにしよう」
一瞬、視線を背後のアルマへと向ける當真。その目に映るのは、痛みに耐えきれず体を震わせ蹲る小さな少女の姿。
だからもう、“迷わない”。再び、當真は猛然と駆け出す。
「うおおおおおおおおおおおおお」
當真の咆哮と猛進に呼応するように、ルームズ=アルシャロックの“両腕”が“変容する”。
「“部分再現”、」
渦巻く“風の刃”と、浮遊する“氷の弾丸”。どちらも一度は目にした、類似した“魔法”だ。
だが、“状況”はまるで違う。“ひとり”で抗うには、捌き切れない程の“脅威の質量の壁”。
ザッッバッッッ!!ダッ、ダダダダダダッッッッッ!!!!
「これで、ようやく“終わり・・・」
ルームズ=アルシャロックの言葉が、止まる。その“不可解な景色”に。
當真は“右手”をまっすぐと突き出したまま、ルームズ=アルシャロックへと走り寄る。
“風の刃”と“氷の弾丸”も同様に、まっすぐと當真へと放たれており、両者の邂逅は必須、そして當真の“魔法”がいかに“魔法”を“嫌って”も、その“不可思議”の“脅威の壁”の全てを“捌き切る”など、到底不可能であることは、誰の目にも確かな『未来』だった。
キィィィィ・・・・ザザッ!!ダダダッッッッ!!!!!
捌き切れない“魔法”の残滓が、當真の右腕を中心に裂傷と衝撃の連撃を浴びせていく。
血飛沫と歪な破壊音の反響、
だが、當真は“止まらなかった”、
「捌き切れないなら!!!もう“躱さねえ”ッッッ!!!!!」
その“右手”で抉じ開けた、僅かな“隙間の道”へと、“傷つく前提”での行進。
積み重なる“痛み”も、背後の少女の“痛み”を思えば、その足を止める理由にはならない。むしろ、前に進むしかない“理由”だ。
六、五、四、三・・・・・互いの距離は、もうすぐ『ゼロ』に
「アハハ。“だからって”、君が届く理由にはならないだろ?」
ルームズ=アルシャロックが“両腕”を、自身の胸元に“重ねる”。
「“完全再現”。“爆撃王”」
“変容する”、その姿。そこに現れるのは、黒褐色肌、逆立つ赤髪、そして筋肉隆々の“青年”。
身体を半身に傾け、當真の腕の二倍以上の太さの右腕を、強弓を撓るように引きつけ、そして勢いそのままに當真へと突き放つ。
當真の拳を躱し、その剛腕の圧力以上の“衝撃”が、當真の胸元へと伝う。
それは、“嫌いようがない”程の、圧倒的“爆発”。
言葉通り、爆炎をその拳に纏い、“爆ぜる”。その“魔法”は、“100%”余すことなく“再現”された、“決殺の破壊力”。
ドッッッッッッッバッッッアアアアアアアアアアアンンンンンン!!!!!!!!!
声を出す暇もない、視界が回転し、當真の意識と肢体が一瞬にして“飛ぶ”。
アルマの目の前に仰向けになり倒れ込む當真。胸元の中心が焦げ付いたような匂いを放ち、アルマの両の瞳に“地獄絵図”が広がる。
「あ・・・あっ、やだ、いやです、ナイト、ナイトォォォォォォォ!!!!!」
痛みを忘れ、自身の右手を重力そのままに垂れ下げながらも、倒れる當真の側に駆け寄るアルマ。
だが、その少女の声に、當真が反応を示すことはなかった。
コツコツコツ、と。近寄る足音に、涙で霞む瞳を向けるアルマ。
“変容”したその姿が、歩みのリズムに合わせる様に、元の姿へと“変容”していくルームズ=アルシャロック。
「さあ。ようやく物語の閑話も“終劇”だね、アルマちゃん?それでは心置きなく、君を“盗む”としようかな?アハハ」
両手を広げ、軽妙で薄っぺらな笑い声が謳われ、『オッドアイの少女』の瞳に“絶望”と言う名の『未来』が映し出されるのであった。




