#8 ハイド アンド シーク③
大通りから枝分かれしている、幾つかの通りのひとつ。
週末の街中ともなると、いつもより人だかりが多いのはもちろんであるが、この通りに見える景色は、どこか“カラフル”、並び立つ店もそれぞれパステルカラーが目立ち、そして行きかう人々の層も、“若い女学生”や“先鋭的なファッション”の人たちが多いように思える。
ここ“六番街”は、通称“ファッションストリート”と呼ばれており、立ち並ぶ店も“ファッション”関連の店がほとんどを占めていた。
その中の、とある店。店の名前は、『Lovely Witch』。
“LW”の愛称で、とある“界隈”で近年世界的にも人気急騰中のブランドの本店であり、立ち並ぶ他の店よりも一回り大きな店であった。
店の外観は、周辺のパステルカラーの店とは少し“色気”の違う、ただし、西洋的な外観なのは間違いないが、異国の小さな“城下町”の雰囲気を醸し出している。
木造りのアンティークな扉に手をかけ、店の中へと一歩進むと、広がる世界はまさに“西洋の世界観”。
春の日差しがまだまだ暖かく眩しい外の世界とは打って変わって、店内照明はどちらかといえば“黒”の印象を与えるも、そんな店内に並べられた数々の“アイテム”が、その“黒”の中では一際輝くほどに、鮮明な印象を与えてくる。
そして、漏れなく店内にいるお客らしき人達、そして店員全てが、その“アイテム”で着飾っていた、
“ゴシック・アンド・ロリータ”、つまり“ゴスロリ”の“ファッションアイテム”を。
「ないと!すごいね!全部カワイイけど魔女みたいな服でいっぱいだ!!」
自分が普段着飾らないような“ジャンル”の服を、まるで未知の宝石箱を覗くように、キラキラした瞳で眺め感嘆の声をあげるパレット。
その姿が、“普段”の“腹ペコガール”のそれとはあまりにも違ったリアクションだった為に、當真としても不思議な感覚を抱く。
(洋服とか可愛いものに目を輝かせてるところ見ると、パレットも普通の“女の子”なんだなあって思うな。なんか、ちょっと、かわ・・・)
「・・・でも。おなか、すいたな。」
「・・・・・・」
近くの洋服を手に取りながら、ボソッと呟くパレットに対し、當真の中の一瞬の“煌めく”感情は、すぐに現実に戻っていく。
そして、立ち並ぶ商品を手に取る“フリ”をしながら、店内を見回し、そして“本命”を見つけ出す。
「・・・ビンゴ。パレット、いたぞ」
當真は声のボリュームを抑え、側にいるパレットに店内の奥にいる一人の“少女”へと視線を促す。
「ほんとだ!!すごいんだよ!!ないと!!なんで“ここ”にいるって、わかっー」
「しーっ!!!!」
「ふごっ!!?」
その“少女”を見つけるや否や、そこまで声が届きかねないくらいのボリュームで声を上げようとするパレットの口を、急ぎその両手で塞ぐ當真。
そのままパレットを抑え込むように、すぐ近くの商品の展示されたラックの影へと、“少女”の視界に入らないように“隠れる”。
「おい!“見つかった”らどうすんだよ!?」
「(ふごふご)」
パレットを抑え込みながら、恐る恐る体を少し乗り出し、視線を“少女”に向ける當真。幸いにも、少女には気づかれていない様子だった。
「・・・ふう、大丈夫そうー」
ーがぶっ。
「!!!!!!???」
金色の少女が當真の手を噛む・・・“甘噛み”する。必死に声を押し殺す當真。
「苦しいんだよ?ないと!!」
「噛む事ねえだろ!?でも“見つかったら”元も子もないんだし、お前が大きい声だすからー」
「なんで“見つかった”らだめなの?だって、“あの子”を“見つけて”無事に届けるのがお仕事でしょ?」
きちんと学習したのか、“一応”小声で、パレットは素朴な疑問を當真にぶつける。
「そうなんだけど。ワイダーさん言ってただろ?“どこで何をしてるか”も分からないって?」
「・・・そうなの?わたし、眠ってたから聞いてないんだよ?」
(そうでしたね、起きた後もずっと“ご飯”のこと考えてましたもんね、うん、そうだそうだ)
溜息ひとつ。當真は改めて、言葉を続ける。
「言ってたんだよ・・・とにかく!今、俺らからアクションを起こすと、“見つけて”、“無事に送り届ける”のは可能かもしれないけど、明日以降は“俺たち”も警戒されるだろ?それだとワイダーさんの本当の“願い”には、届かないんと思うんだ」
小さい頃から、當真自身、一番近くで“父親”の仕事を見てきた。
破天荒、自由奔放、思う所は数えきれないほどあるが、その“父親”が“依頼人”に対して“不誠実”だったことは一度たりともなかった。
大事な場面ではいつだって、“決して見過ごさない”、“助けを願う人を見放さない”。そうした“責を担う”という“父親”の教えを、その姿から学んできたし、だからこそ父親の“少々”の“マイナス”(最近はかなり偏ってきている気もするが)に関しては目を瞑って受け止めてきた自負が、當真の中には在った。
「“俺も”、アルバイトとはいえ、任されたからには“ちゃんと”応えたいからな。“あの子”の“お出かけの目的”くらいは、ちゃんと報告したいし。だからまだ、こっちが“見つかる”わけにはいかないんだよ」
「ないと。いろいろちゃんと考えてて、えらいね」
ふいに。當真の頭をヨシヨシと撫でるパレット。まるで小さい子をあやすような素振りで、その表情もどちらかと言えば“母性”に近いような微笑みで、その手を當真の頭に添えていた。
(というか、こいつの“食欲”考えると、一週間分のバイト代がどう考えても“対価”としては不釣り合いだからな・・・流石に、出来る限り全部応えとかないと、心苦しいってのもある・・・)
ニコニコで當真の頭を撫で続ける金色の少女に、當真のその真意が伝わる事はないだろうが。
「でもさ。ないと、なんで“このお店”に“あの子”がいるって分かったの?」
「ん?ああ、それはー」
當真は自身のスマートフォンを取り出すと、ある“SNS”のアプリを起動する。それは“世界中の人が誰でも、いつでも、気軽に“ひとりごと”を呟ける”SNS。
そして、そのSNSには、“魔法”のように“周辺エリア”や“ピンポイント”での“トレンド”も調べる事ができるのだ。
「今の時代、こんな街中に“外国”の“可愛い”女の子がいて、それでいてあの“ファッション”だったらさ、きっとSNSの“話題”とか“トレンド”に上がってるかなって調べたんだけど」
「・・・へー。ないと。“あの子”のこと、“可愛い”って思ってたんだ」
「ん?そこ?まあ、“可愛い”だろ?フツーに?」
“当たり前”のように返す當真に、どうやら不服そうなパレットは、両頬を膨らませながら少しそっぽ向く。不思議そうにそれを眺めながら、そのままスマートフォンの操作を続ける當真。
SNSの検索バーに、『この街の最新のトレンド』を入力すると、あっという間に検索結果が出てくる。どれも街中の他愛のない“呟き”だったり、最近の流行のものだったり、その総数や話題性の高いものが“ピンポイント”で上がってくるのだが。
「・・・うん。どれだけ調べてもな、“なかった”んだよ、“全く”ってくらいに。“あの子”の話題がさ。それでさっきの、パレットの、“好きなものに目がいく”って話を聞いた時に思ったんだ、」
當真は店内を見渡す。當真やパレットにはな馴染のない、“非日常”なその“世界観”。だが
「“話題”にも“トレンド”にもならないのは、きっと“あの子”がそこにいる景色自体が、“当たり前”とか“自然”に思えるくらいに、“そこ”に馴染んでるんじゃないかなって」
そう。誰かにとっての“非日常”も、その人やそこにいる人には“日常”にもなりえるのだ。
「“あの子”の“魔法”は凄いんだろうけどさ、病院から抜けだすのに“あの格好”は、どう考えても“目立ちすぎる”。“気づかれるリスク”があるなら、変装するなり“目立たないように”する方が得策だろ?“それでも”、あの服装を選んでるとしたら、きっとそれだけ“あの子”にとっては“好きなもの”なんだろうなって思って。だからこの街で、その全部に“繋がる”場所を探したら、ちょうど“LW”に辿り着いたってわけ」
「おお。ないと、ちゃんと“タンテイ”さんみたいなんだよ!!すごい!!」
その推察通りの結末になった為に、當真も単純にパレットの言葉をそのまま嬉々として受け止め、鼻高々に答える。
「ちょっとは見直したかね?“ワトソン”君?」
「・・・・・わたし、パレットだよ?ないと??」
・・・調子に乗るのはやめようと。赤面しながら、當真は俯いた、
その時だった。
「こんにちは。何か、気になる服などありますか?」
當真とパレットの元に、一人の女性店員が歩み寄り声をかけてきた。もちろん、“非日常”の“世界観”とはいえ、当然、この場所はそういう場所なのだ。一定の場所に留まっている二人の姿を見て、声をかけない方が不思議なくらいだ。
「あー、えっと、」
しかし。この予期せぬ邂逅に、當真の緊張感や焦りが再び高まっていく。この距離で、あまり“目立つ”ような振る舞いは避けたいのだが、
「あ。あの。わたし、あの服、気になってたんだよ?」
咄嗟に、“不自然”のないように振る舞うも、棒読みになるパレット。慌てて指さしたのは、近くの壁に飾ってあった、“いかにも高そう“な“黒色のゴシックドレス”。
當真も思わず視線を向ける、小さな値札プレートには、見たこともないような数のゼロがついた数字の羅列が確認できた。
「そ、そうなんですよ、でも高いから試着とかもできないよなぁて、話してて。ほら、そろそろ諦めて帰るぞ、な?」
「う、うん。」
何とか会話に“違和感”のないように苦笑いで話を繋げ、パレット共に“一旦離脱”を試みようとする當真。
だが、その“選択”は“悪手”となる。
「そうなんですね?お客様、ラッキーですよ?あの“服”は、この店の“顔”として飾ってるところもあったのですが、ちょうどいま当店でも『魔法キャンペーン』をやっておりまして、なんと!私の“魔法”で“疑似試着”出来ちゃうんですよ!!」
「え、いや、待って、」
當真の予期していた『未来』とは違う展開に、思わず周囲を見渡すと、徐々にだが注目を集め出している気配も漂ってきた。
が、時すでに遅し。女性店員は、左手を壁に飾ってあった“高そうな”黒色のゴシックドレスに向け、その一方で右手をパレットに向ける。
「??」
「私の“魔法”は『トレース&ペースト』。左手でトレースし“再現”したモノを、右手で“貼り付け”出来る“魔法”でして。私のレベルだと、“貼り付け”出来る時間は“一分”程ですが、ただ“試着”には十分ですし、“再現性”につきましては質感や色合い、全てにおいて“高レベル”で“再現”出来ます!!今、来店、先着20名のみに行っている当店の『魔法キャンペーン』です!!」
不思議そうに見つめるパレットを気にすることなく、意気揚々と説明を続ける女性店員。
おそらく、この説明から“パフォーマンス”は始まっているのだろう。徐々に、店内に滞在している他の客の足取りも、當真とパレットの方へと向けられていた。
(まずいな。このままじゃー)
咄嗟にパレットの手を取る當真、だが、すでに女性店員の右手からは“不可思議”な“光”が放たれ、それは瞬く間にパレットを包み込んでいく。
「え?ええっ?」
“光”が収束、その瞬間、當真の視線は目の前の“不可思議”な景色に、引き寄せられていた。
そこには、壁に飾ってあった“高そうな”黒色のゴシックドレス、“そのもの”を身に纏い、不思議そうに佇むパレットの姿があった。“もちろん”、壁に飾ってあるゴシックドレスは“そのまま”飾られている。
普段の白のローブとは真逆の色合いであることももちろんだが、フリルの装いからくる可憐な印象も、黒色のゴシックドレスに“映える”パレットの金色の髪も、そして変装の為の眼鏡姿も相まってか、“非日常”な程に、“可憐なギャップ”を、當真は抱かざるをえないほどに、自身の視線はパレットに釘付けとなっていた。
思わず、“零れるよう”に、感情が言葉になる。
「うん・・・めっちゃ、かわい、」
「!!?」
あまりにも“自然と”零れ出した當真の言葉に、パレットの顔も一瞬にして赤らんでいく。そして
「ちょ、ちょ、ちょっと!!ないと!!は、はずかしいんだよ!!!?」
思わず。その言葉に我に返り、當真も掴んでいたパレットの手を慌てて放す。
その反動、プラス照れ隠しでバタつくパレットは、當真に掴まれていた手が離れたことで、バランスを崩し、そのままー
「きゃっ!?」
「あ!しまっー」
ガシッ。
當真が慌てて、もう一度右手を伸ばすも、パレットには届かない。が、しかし、パレットの安全は“問題なかった”、だが、結果として『問題にはなってしまった』。
パレットは、その瞬間、自身が『誰か』に支えられていることに気がつく。
それと『同時』に、相対する當真も『気がつく』。
「あら?私と『同じ』で、この国の“女の子”じゃないのね?あなた?どちらの出身かしら?」
バランスを崩したパレットを支えたのは、“見つかりたくなかった”、白に近い銀髪の『オッドアイ』の少女。
こうして。“見つかってはいけない”状況の中で、その『かくれんぼ』の『未来』は、唐突に訪れてしまったのであった。




