2話
突然現れた(という設定の)俺を取り囲む人々は、それぞれの思ったことを口にしているが、皆その表情は、突然の出来事に驚いている顔だった。
「神様の使いなんじゃないか?」
「きっとそうだ、この人が魔物の奴らを倒してくれる!」
「本当に?私はただの少年だと思うけど、こんな子供が活発化してきた魔物たちの群れを倒せるのかしら?」
誰かが俺の正体を予想しては、誰かがそれに反論する。四方八方からの声は常に絶えず、そうしている内に新たな人間が集まって来た。
ふむ。実にリアルだ。
キャラクターのボイスもフルボイスだし、何よりグラフィックがあまりにも綺麗すぎる。
俺の目の前にいるパッとしない若い男のニキビや、その後ろにいる老婆の皺があまりにもリアルすぎた。
並のゲームならばここまで拘らないだろうに、開発はこんなところにまで力を入れているのか。
…と、いけない。
まずはこの状況を切り抜けなくてはならない。
とりあえず近くにいるNPCに話しかけてみようか…。
俺は辺りを見回す。
若い男、大柄な男、子供を抱いている女、長い髪を持つ女…
本当に様々な人間がいた。
俺はその中で、歳が近そうな美少女に話しかけてみることにした。
立ち上がり、その少女の方を向いて話しかける。
「あの〜、すみません。ここはなんて街ですか?」
俺がついに言葉を発したことで、周りのギャラリーが盛り上がる。
話しかけられた少女の方は、一瞬驚いた顔を見せ、慌てて目を逸らしてしまう。
「この街はフロリアだぞ!」
近くにいた40代ぐらいの男がそう答えた。
俺はこの子と話がしたいの!
出しゃばんなおっさん。
「へ、へぇ〜。フロリア、良い名前ですね。
ところでお嬢さん、お嬢さんの名前も教えてくれないかな?」
俺はもう一度少女に問いかける。
「俺の名前はアレスだ!」
黙ってろおっさん!
「あ、あの…。私の名前ならフェリアですが…。それがどうかしましたか…?」
俺がおっさんに苛立っていると、なんと少女の方が名前を答えてくれた!
「ああ、いや。どうもしていませんよ。ただ、不意に名前が気になっただけです。
フェリア、フェリア…。いい名前ですね。
お嬢さん、実は僕この街に来たのは初めてでして、カフェでも巡りながらゆっくりと…」
「おい、あれってナンパじゃねえの?」
若い男が俺の口説きを遮ってきた。
男がそう口にした途端、周りの視線が急に寒くなり、俺を見ていた民衆は、ブーイングを飛ばす野次馬に変わってしまった。
「口開いたかと思えばナンパかよ」
「私、あんなチャラい男ムリ!」
「そもそもナンパできるほど顔も良くないしな」
周りから罵詈雑言が飛んでくる。
コイツらNPCのクセにうるさいんですけど!
「うっせー!ゲームのキャラなゲームらしくお使いクエストでも出しとけ!行こうフェリアさん!」
「ひゃっ!あ…あの!」
俺は少女の腕を掴んで野次馬を押しのけ外に出ようとして、
掴んでいるものが柔らかいことに気づく。
人間の腕とは言えない、何か掴み難い形をしているものを掴んでいた。
「っ………」
恐る恐る少女の方を向いてみると…
予想通りというか何というか、俺の腕はガッチリと少女の胸を掴んでいた。
「痴漢だああああああああああ!!!」
誰かがそう声を上げた時には、俺は1人で走り出していた。
その場は先程現れた謎の男のセクハラの話で持ちきりだった。
突然男が空から降ってきたこと、男は鼻息が荒くおぞましい顔をしていたこと、男は近くにいた少女の尻を引っ叩き、胸を揉んで、そのまま財布を盗って逃げたこと。
様々な噂が拡大解釈されて広がっていた。
その場にいた人間は皆で男の正体を話し合っていた。
「まさかあのフェリアちゃんに手を出すなんて」
「アイツ何者なんだ…」
「そもそも空から降ってきたのは本当なのか?」
「目つきが嫌らしかったわ!」
「シッコク・ツバサか…。関わらないようにしておこう」




