ちょっと強引な交渉とやんごとなき理由
「あんた、何言ってんの?」
ミカヅキが呆れたような顔で言う。
迷宮について行きたいって申し出は、彼女にとっておかしな提案に聞こえたらしい。
「ですが、そんなに変な話じゃないでしょう。わたしには剣術がありますから、魔物と戦っているロクサイの側でサポートすることができます。こちらとしては迷宮を見学できるし、ロクサイは一緒について行けるし、ミカヅキさんは心配事が減るし、いいことづくめじゃないですか」
「別に。わたしひとりで行けばいいだけだし」
ここぞと思って強くプッシュしてみたけど、ミカヅキの反応は芳しくない。
何か上手い手を考えなくては。
「実はアカツキさんと迷宮に潜る約束をしてるんです」
「はあ? だったらそれこそわたしと行く必要ないじゃない」
ミカヅキは気の抜けた表情になる。
でも、ここでさらに押していく。
「なので、三人で一緒に行きませんか?」
「どうしてそうなる」
「実はアカツキさんはこの課題に行き詰まりを感じてるみたいなんです。だからわたしが同行することで何か新しい発見があるかもって話になって、それで一緒に行くことになったんです」
「だからなに」
ミカヅキさんが困惑した表情でこちらを見てきた。
「つまり、一緒に行くのはわたしだけじゃないってことです。アカツキさんも剣を使えますから、ロクサイをさらにちゃんとフォローできます」
「だから、それいらないじゃない」
なんだそういうことかって感じの顔であっさりと切り捨てられた。
でも、まだ話には先がある。
「それと、新しい発見があるかもってのもポイントです」
「発見?」
「皆さんから話を聞いて、気になっていたことがあったんです。アカツキさんは迷宮には魔物は少ないって言ってました。むしろ魔術による罠の方が多いって。でも、ミカヅキさんの印象は違いますよね」
わたしの言葉に、ミカヅキがちょっと考え込む顔になった。
「確かに。むしろ魔物に邪魔される方が多いかな」
「これには偶然じゃなくて、ちゃんと意味があるんじゃないでしょうか。つまり、入る人間によって迷宮はその様相を変えてるんじゃないでしょうか」
ミカヅキの視線がスッと鋭くなる。
「つまり、魔物と直接戦うのが得意なアカツキには魔物以外の障害を用意してるって事?」
「もちろんこれは可能性のひとつです」
しばらく、無言の時間が続いた。
「あり得ない話じゃないな」
ぽつりと、目線を落としたままミカヅキがつぶやく。
「だったら、ミカヅキさんとアカツキさんが一緒に迷宮に入ったらどうなるのか。その反応によっては課題達成のヒントが得られるかもしれません」
「それが発見の可能性ってことか。でも、全部あんたの予想でしかないじゃない」
「違ったら違ったでいいんです。違うってことが明らかになるんですから」
ミカヅキは眉根を寄せたまま、暫くわたしのことをじっと見詰めてから、ふいっと目線を外した。
「まあ、確かにいちおう妥当性はあるか」
そうして、わたしはミカヅキさんから一緒に迷宮に行く許可を取り付けたのだった。
その後すぐアカツキに会いに行って、この件について話した。
アカツキは同行者が増えることを快くOKしてくれた。
もっとも、今度持ってくるお菓子を一品増やすことになったけど。
それはともかく、これで思いがけずいい流れを作れた。
正直、タイミングが良かったってところもある。
ちょっと拙速かとは思ったけど、勢いで強引に話をまとめてしまった。
元々はもっとじっくりと進めるつもりだったんだけどね。
当初の考えでは、基礎魔法の習得を進めるのと同時に三人ともう少し距離を縮めておいて、わたしが迷宮に入れるようになった所でみんなで一緒に迷宮を攻略をするつもりだった。
でも、ちょっと事情が変わった。
リンドウの身体に起こった異変のことだ。
妹の光の輪の変容に関するヒントが迷宮攻略の課題に隠されているんだったら、できるだけ早くその秘密を知りたかった。
別に課題を達成しなくてもいい。
情報を手に入れられればいいんだ。
だから、とにかく一度迷宮に潜ってみたかった。
そのためにアカツキとミカヅキを巻き込んでしまった。
二人には申し訳ないけど、この課題に隠されたものが何なのかを探らなくちゃいけない。
それが今の最優先事項だから。
ごたごたしていて出遅れましたが、今年もよろしくお願いします!




