どうぶつ付き反省会、そして
屋敷の中に自分で使える部屋をもらっておいて良かった。
わたしはベッドに倒れ込みながらそう思った。
イナリはもう肩の上から飛び降りていて、毛布の上からこちらを見ている。
指先でその小さな頭を撫で、細長栗鼠の艶やかな背中の毛皮に手を滑らす。
目を瞑り、深くため息を吐いた。
「失敗した」
そんなことをいっても仕方ないのに、口をついて出てしまう。
「クルッ」
イナリが心配そうな声で鳴く。
ごめん、もう少し愚痴につきあって。
「どうしてこんな子供みたいなことしちゃったんだろ」
いや、子供だけどね。
わたしはさっきのたそがれの魔女との面会を思い出していた。
「なんで何の準備もせずに質問をぶつけちゃったんだ。こういう時、今までだったらそんなことしなかったはずなのに」
それはつまり、前世のわたしだったらってことだ。
アラサー社会人女子だったあの頃なら、どうしても知りたいことがあったら、何か準備をしてから対面に望んだはずだ。
いきなり訊いてホイホイ教えてくれるなんて考えは持っていなかった。
相手がこちらに話したくなるような状況を作って、質問に望んだはずだ。
例えば、わたしに情報を与えることが相手の利益になるようにするとか。
「せめて何か交換条件になるような情報を準備しておくべきだったな。なんでだろ。師弟関係だと思ってたのが良くなかったのかな。教えてくれて当然だって思い込んでたのかも」
撫で続けていた手をすり抜けて、イナリがわたしの頭の横までくると、耳の辺りをこちらの頬に擦りつけてきた。
「そうか。わたし、焦ってたんだ」
冷静さを失っていた。
リンドウのことが心配で、すぐになんとかしなきゃって視野が狭くなっていた。
「落ち着こう。でも、なんでこんな不安なんだろう」
「クルッ」
イナリの身体に手を絡める。
暖かい、艶やかな感触。
「旅から帰ってくるのにバウルが付いてきたこととか、屋敷に戻ったらカザリって魔物がいたこととか、そういう不安要素があったんだよね。魔物を警戒して、だからここに来るようになったんだけど、そもそもリンドウのことも心配だった」
バウルに懐いてるみたいだったからね。
帰りの馬車の前で、わたしにバウルを連れて帰りたいって訴えてきた時には驚いた。
でも、ちょうどコナユキと別れたばかりだから、寂しいんだろうとも思った。
「わたし、けっこう姉バカだったんだなあ」
妹のことがかわいくて仕方がなかったんだね。
つまり、カナエ・マゴットとして生まれ変わって、ちゃんと自分の人生を生きてたんだ。
それを確認できたのは良かった。
「何か起こるって、無意識に思ってたのかも。カザリって魔物がわたしに対して何か仕掛けてくるかもって。でも、その矛先がリンドウに向いたって感じた途端に慌てちゃった」
落ち着いて考えるべきだった。
対処法は色々あったはずなのに。
例えば、神様のメダルを使って問題の解決を図ることだって出来た。
願えば何でも叶えてくれる不思議なメダル。
気軽にポンポン使うのは怖いけど、慎重に結果を予測しながら使えばなんとかなるかもしれない。
ただ、そのためにはここで何が起こってるのか、正確に知っておいた方がいいだろう。
どんな願いにするのか。
その結果、何が起こるのか。
前もって充分考えて予想しておかないと、とんでもないトラブルが発生する可能性があった。
なにせあの神様のメダルは、投げて表が出ればいいけど、裏が出たらこちらにとって都合が悪い形で願いを叶えてしまうのだ。
「なんにせよ、情報が足りない。今回は失敗しちゃったけど、ちょっとだけ手掛かりはあった。ここから、もう一度始めよう」
「クルッ」
わたしが気を取り直したのがわかって、イナリも元気にひと声鳴いてくれた。
「そんなに出来ることはないし、まずは動いてみよう。それからもう一度方針を考え直そう」
ベッドから起き上がって大きく伸びをする。
無意識の内に身体も硬くなっていたみたいだ。
「イナリ、ありがとう」
そう言って手を伸ばすと、イナリがわたし手に飛び乗って肩まで
駆け上がってくる。
勢いよくベッドから降りて、やるべき事をやるために、わたしは自分の部屋を出た。




