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たそがれの魔女に問う

 翌日になってもリンドウの熱は下がらなかった。

 とはいえ、それほど体調が悪いようにも見えない。

 わたしはリンドウを屋敷の使用人達にまかせることにして、朝食後に外に出た。

 魔力の気配を探りながら、敷地の中をぐるっと一周する。

 特に魔物の気配は見つからない。

 そのまま門を抜けて森に入る。

 いつも以上に注意を払いながら進み、指笛で白狼を呼び出した。

 

「ハハフフハフ」


 間に一日空けたからか、白狼がうれしそうにわたしの周りを回った。


「今日もよろしくね」


 そう言って頭を撫でると、白狼は尻尾を振りながら森の奥に向かって歩き始めた。

 ゆらゆらと揺れる白い尻尾の後を追う。

 この時間だったらたそがれの魔女に面会できるだろうか。

 たぶん初日に会った時とそれほど変わらないはず。

 今後のことを考えながら歩いたせいか、気がついたら魔女の屋敷にたどり着いていた。


「今日はアカツキの修業に付き合うのは避けたいかな」

「クルッ」


 いつものように肩の上に乗ったイナリが合いの手を打ってくれる。

 この時間は外でアカツキが剣術の修業をしているはず。

 昨日も休んだから二日連続で付き合わなかったことになる。

 約束を破っているようで心苦しいので、何か別の方法でフォローしておきたいところだ。

 寄り道せずに屋敷に入り、自分の部屋に手荷物を置いたら即外に出て、たそがれの魔女の部屋がある塔を目指す。

 玄関ホール脇の階段を上り薄暗い廊下を抜け石造りの塔を上る。

 目的のドアにたどり着いた時には、軽く息が上がっていた。

 わたしは深呼吸して心を落ち着ける。


「行こうか」

「クルッ」


 指先でイナリの顎下を軽く撫でてから、わたしはドアをノックした。


「入りなさい」


 低い女の人の声が聞こえたので、わたしは扉を押して部屋の中へ入る。

 ここは相変わらず薄暗い。

 部屋の奥に大きな椅子があり、そこに木製の人形が座っていた。

 頭は鳥籠になっていて、中には鸚鵡が一羽入れられている。


「ずいぶん慌てているね」


 鸚鵡が女の声でそう言った。

 たそがれの魔女の声だ。


「そう見えましたか」

「急ぎの用かな?」


 迷惑に思っているのかとも考えたけど、その口調から特に感情は読み取れない。


「お尋ねしたいことがあって参りました」

「聞こうじゃないか」


 迷いなくそう言葉が返ってきた。


「先生の光の輪について質問させてください」

「ほう?」


 意外なことを聞いたって感じの声だけど、どこか楽しそうでもある。


「わたしが見るに、先生の光の輪は普通の人間の光の輪とどこか違っています。魔法使いは皆そうなのかとも思いましたが、他の弟子の方々は普通の光の輪でした」

「それで?」


 ここまで言ったとき、ちょっと嫌な予感がした。

 何かを間違えてしまった時の、ボタンを掛け違えたかのような違和感。

 前世での経験上、こういう違和感を放置しておくとたいてい後で後悔することになる。

 でも、今更引っ込めるわけにもいかない。


「どのような状態になると、光の輪が先生のもののような質感に見えるのか。よろしければご教授いただけませんでしょうか」

「どうしてそれを知りたいのかな?」


 ここでたそがれの魔女が問うてきた。

 つまり、これは魔術を学ぶ弟子の質問から外れているということだろう。

 言い訳を考えるべきだろうか。

 今のわたしの学習に絡めた質問というかたちに出来るだろうか。

 可能かもしれないけど、でもそれは逆効果な気もする。

 最初に私の姿を見て慌てていると思ったんだから、こちらに特別な理由があることはもう知られてしまっている。


「妹の、様子が変なんです」


 わたしは視線を上げてたそがれの魔女の顔があるはずの辺りを見たけど、そこには鸚鵡が一羽いて、時折くいっと首を傾げているだけだった。


「二日前、家に帰ったら軽く熱を出していて、多少だるいくらいの様子なんですが、光の輪の質感が変わっていたんです。あと、周囲に魔物の気配があってですね、特に害があったというわけではないんですが……」

「カナエ・マゴット」


 たそがれの魔女の淡々とした声が聞こえた。


「わたしはそれを君に教えることはできない」

「なぜでしょうか?」


 驚きと同時に、どこかでやっぱりと思ってもいた。


「それを教えることもできない」

「あの、それは一体……」


 反射的に出た言葉をあわてて抑え込む。

 考えろ。

 今どういう状態なのか。

 わたしが必死に頭を働かせていると、たそがれの魔女がふうっとため息を吐いたのが聞こえた。


「しかたない。特別にひとつだけ教えよう。君が今わたしに問うたことは、現在与えている課題と関係があることなんだ」


 予想外の言葉だった。

 気がついたらわたしは眉間にしわを寄せていた。


「それはどの課題でしょうか」

「もうなにも言わないよ。あと、この話は誰にもしないように」


 つまり、他の三人に話すと課題に対するヒントになってしまうってことだろう。

 そう考えれば、これは迷宮探索の課題と関係している可能性が高そうだ。


「察しが良いのは結構だけどね、今回の分だけ課題の達成に対する評価は下げるからね」


 たそがれの魔女はそう言うと、わたしを部屋から退出させた。

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