図書室と力を失った魔女
ミカヅキの言いたいことは大体わかった。
たしか聞いた話では七年前、師匠であるたそがれの魔女が何らかの事件によって、その力を大きく落としたらしい。
結果、多くの弟子がこの屋敷から去って行った。
さらに、今までだったらたそがれの魔女の強大な力を畏れて近づかなかったような者達がこの屋敷に現れるようになった。
弟子になりに来たのか、何か知識を求めてきたのかはわからないけど、ミカヅキから見て実力のない、冷やかしみたいな人たちが多かった。
だから屋敷に入る前に勝負をふっかけて、実力や人となりを確認していたようだ。
それで力がない者や人格に問題がありそうな人物を追い返していたってことだった。
あと、たそがれの魔女の元を去っていった弟子達のことも嫌っているみたいだ。
力が弱くなったと知った途端去って行く。
ミカヅキが傲慢でいけ好かないやつって言ってるのはそういう人たちのことなんだろう。
つまり、彼女は師匠であるたそがれの魔女のことをとても慕っているのだ。
「あの、先生が力を落とす原因になった事件って、どういうものなんでしょう?」
「知らない」
ミカヅキはあっさりとそう言った。
「何の説明もなかったんですか?」
「突然だったから」
軽く視線を逸らされて、なんとなく触れて欲しくないんだと思った。
それがタブーだとかそういうことではなくて、大切な師匠であるたそがれの魔女のことだからだろう。
わたしはこれ以上聞くのも悪い気がして話題を変え、ロクサイが鹿せんべいを食べ終わったところでミカヅキの部屋を出た。
今日は朝にアカツキ、昼にミカヅキと話をしたので、あとはハンゲツと話をすればノルマ達成になる。
毎日少しずつ話をする作戦は継続中なのだ。
わたしはハンゲツの部屋に行ってノックをしてみた。
でも返事がない。
ちょっと考えてから、わたしは屋敷の図書室へ向かった。
図書室はわたしたちの部屋がある場所からはかなり離れた所にある。
部屋が木造じゃなくて石造りになってるあたりの区画だから作られた年代自体が古そうだ。
わたしが図書室の重いドアを開けると、部屋の中央にあるテーブルにハンゲツが座って本を読んでいた。
前に話を聞いたとき、部屋にいない時は図書室にることが多いと聞いていたのだ。
「ハンゲツさん、こんにちは」
わたしが声を掛けてもハンゲツは微動だにしない。
近寄ってみると、ものすごい集中力で本に没頭している。
邪魔しちゃ悪いかなと思ったので、わたしはテーブルを離れて本棚の方に向かった。
壁際と部屋の中央にそれぞれ本棚がある。
中央の本棚は二本の柱を囲むように据え付けられている。
ここにある本もたそがれの魔女の部屋にあった本棚の中身と同じで、立派な背表紙のある本もあれば、羊皮紙をまとめたような物や巻物なんかもあった。
どんな分類がされているのかも良くわからないので、とりあえず手近にあった本を手に取ってみる。
魔法の研究書とか教科書なのかと思ったけどそうではなくて、植物に関する図鑑のような本らしい。
様々な植物について、簡単な絵と共に名前や特徴が書かれている。
他の本も開いてみたけど、どれも魔法というより自然科学の本ばかりだった。
もしかしたらこの区画はそういうものが集められているのかもしれない。
わたしは適当に一冊取り出してテーブルに持って行った。
ハンゲツはまだ本に集中している。
その正面に腰を下ろして、わたしも本を読み始めた。
「あれ、カナエさんじゃないですか」
しばらくしてやっとハンゲツがこちらに気付いて顔を上げた。
今回文章量が少ないと思いましたか。
たしかにぱっと見たかんじ少ない。
だがしかし、実際少ないです。
つぎはもうちょっと多めにしたい。




