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お昼ごはんとお手製鹿せんべい

 午前中は基礎魔法の教科書を読んで、お昼になったところで食堂に向かった。

 食堂には既にアカツキが席に着いていて、不機嫌そうに腕を組んでいる。


「何かあったんですか?」


 無視するのもどうかと思ったのでなるべく軽く聞こえるように訊いてみると、アカツキはちょっと意外そうな顔をした。


「何かってなにさ?」

「えっと、アカツキさんが何か考え込んでる風だったので」

「なんだ。そういうことか」


 アカツキはそう言ってテーブルにうつ伏せになるように上半身を載せた。


「今日は訓練をがんばって沢山動いたからなあ」

「もしかして、お腹すいてます?」

「何か食べないともう動けないぞ」


 何に怒ってるんだろうと思ったけど、どうやら空腹を我慢していただけらしい。

 もしかしたら食堂に一番に来ているのもお腹がすいたからなのかもしれない。

 そこから時を置かずミカヅキとハンゲツも食堂に現れ、アカツキにとっては待ちに待った昼食となった。

 テーブルに上がるのは昨日と同じく野菜のスープとパンの組み合わせだ。

 わたしは今日もイナリにパンをお裾分けしながら食事を進める。

 パンを頬張る可愛らしい姿を見ていてふと気がついたことがあった。

 そういえば、昨日も今日もミカヅキはひとりで食堂にやってきている。


「ミカヅキさん、ロクサイは連れてきてないんですか?」


 軽く上目遣いに睨む感じで、ミカヅキがわたしを見た。


「なんでロクサイをここに連れてこなくちゃいけないの」

「いや、その、一緒にご飯食べないのかなって」


 ミカヅキは呆れたようにため息を吐いた。


「使い魔を食堂に連れてくるなんてあんたくらいだよ」

「えっと、イナリは使い魔じゃないんで」


 これはすでにミカヅキには言ってたけど、他の二人は知らなかったせいか、ちょっと驚いた顔をしている。


「そうなんですか? いつも一緒に居ますけど」

「イナリは友達です」


 わたしはハンゲツに向かってそう主張したけど、納得のいっていない表情だ。

 特に説得する必要も感じなかったので、とりあえず話題を変えてみることにする。


「そういえばみなさん、何か新しい情報はありますか?」

「情報?」

「えっと、昨日決めたやつです」


 アカツキが何かを思い出したようにちょっと眉を上げた。


「ああ、そういえばなんかそんな話したな」

「迷宮の課題について、情報を持ち寄ろうって話ですね」

「別になにも危険な事件なんて起こってないでしょ?」


 ミカヅキが興味なさげに言う。

 とりあえずそれ自体は否定せず、わたしは皆の顔を見渡した。


「そうなんですか?」

「まあ、変わったことはないな」

「わたしは迷宮に入ってませんから……」


 ほんとにそうなら仕方ない。

 もしかしたらそこまで危険な迷宮じゃないのかもしれないし。

 でも、実はわたしの目的は他にもあるんだよね。

 ここで話し合う内容だけじゃなくて、話し合うって行為自体が大事って考えなのだ。

 それぞれバラバラに動いていてはまとまるものもまとまらない。

 何してるのかわからない人とチームを組むよりも、相手の顔が見えていて普段何をしているのか具体的に知っている人間たちとの方がお互い協力しやすいのだ。

 だからここを他のメンバーが今何をしているのか、そういう情報を共有する場にしたい。

 したいんだけど、今の段階ではそこまでのことを求めるのも難しい。

 結局あまり会話も盛り上がらず食事は終わった。


 午後になって、わたしがミカヅキの部屋を訪れると、そこではロクサイとミカヅキがにらみ合っていた。

 椅子に座るミカヅキが姿勢を低くして、顔を上げたロクサイに視線を合わせている。


「あの、何してるんですか?」

「ちょっと黙ってて」


 そう言われてしまっては口をつぐむしかない。

 わたしはドアの前に立ったまま、ひとりの魔法使いと一頭の鹿の使い魔がにらみ合っているのを眺めた。


「ムイッ」

「だめだよ!」

「ムイッムイッ」

「許しません!」


 どうやら会話が成り立っているらしいんだけど、何を話してるのかまったくわからない。


「提案なんですが、ちょっと落ち着いてはどうでしょうか」


 わたしがそう言うと、ミカヅキは何かうろんなものでも見るような顔をしたけど、そのまま深くため息をついた。


「まあ確かにそうかもね」

「なんだったらおやつを持ってきたので軽くつまみますか?」

「ムイッ」


 おやつという言葉を聞いて、ロクサイがこちらを見る。

 わたしは肩掛けの鞄から用意してきた包みを取り出した。


「ちゃんとロクサイの分もあるよ」

「ムイッ」

「ちょっと、勝手にロクサイにご飯あげないでよ」


 ミカヅキがこちらを軽く睨む。

 まあ確かにその通りなので、手に持っていた包みを開いて中を見せた。

 亜麻織物の布の上には手のひらサイズの焼き菓子が並んでいる。

 これは大麦をこねて焼いたお手製の鹿せんべいだ。

 本物の鹿せんべいの材料は知らなかったので、適当に食べられそうな穀物を混ぜて作ってみた。


「これなんだけど、ロクサイにあげてもいい?」


 ミカヅキは鹿せんべいをつまむと軽く匂いを嗅いでいる。

 食べさせていい物なのか判断がつかないのかもしれない。

 ひと通り説明を聴いてもらい、やっと許可を出してくれた。

 わたしが鹿せんべいを手に取ると、肩の上のイナリが首を伸ばしてきたので、小さく割って口元に持って行く。


「イナリも食べる?」

「クルッ」


 ひと声うれしそうに鳴いてから、イナリはせんべいを小さな手に抱えてサクサクと食べ始めた。


「ロクサイも」

「ムイッ」


 ロクサイがわたしの手からそのまませんべいをかじった。

 どうやらお気に召してくれたらしく、ものすごい勢いで食べ尽くしたので追加の鹿せんべいを取り出す。


「やっぱりあんた、変わってる」


 わたしがロクサイの食事を眺めていると、ミカヅキがこちらを見て呆れたような声を上げた。


「うーん、そうなのかな?」

「もしかして、鹿の使い魔が珍しいから?」

「珍しいというなら、使い魔自体がめずらしいですけど」

「クルッ」


 イナリがおかわりをおねだりしてきたので、また鹿せんべいを割って欠片を食べさせてあげる。


「そういえば、ミカヅキさんはいつもああいう勝負をしてるんですか?」

「勝負って、この間のやつ?」

「そうです。あやうく屋敷に入る前に追い返されるところでした」


 ミカヅキは椅子の背もたれの上に両腕を載せて、こちらを睨むように見た。


「魔法を学びたいって言ってここに来るやつの中には、冷やかしで来るような連中がいるからね。そんな輩を追い返してるんだ」

「冷やかし、ですか?」

「何年か前に起こった事件のせいで、先生の力が衰えたって噂が流れたんだ。そのおかげで今までだったら先生を怖がって寄りつかなかったような実力のない魔法使いが、ここにやって来るようになった」

「なるほど」

「そういう中途半端なやつらが気に入らない。なにより、先生を馬鹿にしてる」


 ミカヅキは眉根を寄せながらそう言った。

最近ペースがちょっと落ちてますけど、そろそろ元に戻したいですね。

書きたい気持ちはあるんですけど、状況をなんとかしないといけません。

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