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剣術のリズムと毛皮の肌ざわり

「今のはどんな技なんだ。急に動きが速くなったように見えたけど」


 アカツキは地面にどっかりと座り込むと、汗を拭きながらこちらを見た。


「動きの速さ自体はそれほど変わってません。リズムを変えたんです」

「リズム?」


 思わぬ台詞を聞いたという感じで、言葉の語尾が上がる。


「人の動きにはリズムがあります」

「それは呼吸のことか?」

「呼吸だけじゃありません。ある程度洗練されると動きにはリズムが生まれるんです」


 アカツキは難しい表情で腕を組んだ。


「わかったようなわからないような」

「速く、最短距離を動こうと思うと、動きは一定になります」

「単調な動きだって言われたことはあるな。フェイントを使えってことか?」


 ちょっと嫌そうに顔をしかめる。

 なんとなく気持ちはわかった。


「アカツキさんが使う剣術はそういうものを廃した技が中心なんでしょうね。フェイントを使うまでもなく、速さと強さで圧倒することを目的とした剣みたいに見えました」

「よく見てるな」


 今度はちょっと驚いた顔だ。


「ですから、戦いが長引くと動きのリズムが単調になります。つまり、次に打ち込まれるタイミングがわかるんです。だからその動き出す直前の、重心が動く少し前を狙うんです。すると相手は対応しようにも身体が反応できなくなります」

「実際にやられたから、まあわからなくもないけど。でも、そんなことが出来るのか……」

「その分、力は全力の半分も込めてませんね」

「なるほど、だから最後は突きだったのか」


 アカツキは感心したようにそう言って、からだを前後左右に揺らし始める。

 もしかしたら、さっきの立ち会いを思い返しているのかもしれない。

 そのまましばらくアカツキはうんうん唸っていた。

 良い機会だから、今度はこちらから質問させてもらおう。


「あの、迷宮の課題について訊いていいですか?」

「うん? 別にいいけど」

「迷宮がどんな場所なのか、全然話を聞いてないんです。危険なところなんですか?」


 わたしの質問にアカツキは軽く眉根を寄せる。


「まあ、面倒くさいところだな。幻惑の魔法がかかっていて道に迷いやすい。危険な罠はないし、魔物や亡霊が沢山でるってわけじゃないけど」

「沢山じゃなくても出るんですね?」

「そんな強くないけどな」


 どうやらRPGのダンジョンみたいな感じじゃなさそうだ。

 いかにもファンタジーな地下迷宮をイメージしてたから、ちょっと意外だった。


「じゃあその幻惑の魔法をなんとかしないといけないですね」

「まあな」


 そう言うアカツキの口がへの字に曲がっている。

 もしかしたら不得意な分野なのかも。


「わたしはまだ迷宮に入れませんけど、それまでにもう少し情報が欲しいです。また話を聞きに来てもいいですか?」

「いいけど、だったらまた手合わせしてくれよ」


 話を聞いてみると、アカツキは毎朝こんなふうに鍛錬してるらしいので、都合があえばまた来る約束をした。

 元々、毎日顔を合わせて話をするのが目的だったし、迷宮の情報も手に入るから断る理由はない。


 アカツキと別れて屋敷の自分の部屋に着くと、わたしはそのままベッドの上に倒れ込んだ。

 イナリはその直前に枕の上に飛び降りている。


「来て早々、疲れた……」

「クルッ」


 広げた両腕を飛び越えて、イナリがわたしの頬に顔を寄せてくる。

 もしかしたら心配してくれているのかもしれない。

 手を差し出すと、指先に頬を擦りつけてきた。

 そのまま頭から背中にかけて撫でる。

 いつもどおり、滑らかなビロードのような肌触りだ。

 するとその場でイナリはパタッと倒れて、一休みする体勢をとった。

 わたしはそのおなかををゆっくりと撫でながら考える。

 今回の課題についてだ。

 課題の目的はこの屋敷の地下にある迷宮に潜って、その最奥の部屋に到達すること。

 つまり、特定の場所にたどり着けばいいってことだ。

 これはどんなタイプの課題なんだろう。

 ゲームだったら戦闘力を身につけろって話なんだろう。

 でも、ここの迷宮には魔物はそんなに出てこないらしい。

 幻惑の魔法が邪魔をしてるって話だから、やはり魔法の技術を習得するってことなのかな。

 そんな気もする。

 でも、何かが気になる。

 だって迷宮に潜らなくたって技術は鍛えられるはずだし。


「やっぱりもう少し情報が必要かな」


 わたしはとりあえず他の弟子達にも話を聞くことに決めた。

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