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コナユキがいない

 一夜明けて試合の当日になった。

 領主の館は石作りの壁に囲まれていて、その壁の内側の敷地は同じような作りの壁で大きく二つに区切られている。

 表門に繋がっている区画は領主の住む館が建っていて、もう片方の裏門に繋がる区画は練兵場になっていた。

 広々とした敷地の地面は土で、その脇には大きな馬小屋と宿舎らしき建物がある。

 アヤメお姉ちゃんとチドリさんの試合はこの練兵場で行われることになっていた。


「カナエ姉様。そろそろ移動の時間です」

「うん。じゃあみんなで行こう」


 リンドウに声をかけられて、練兵場に移動しようとしたところで、コナユキの姿が見えないことに気づいた。


「ねえ、コナユキどこにいるか知らない?」

「そういえば見てませんね」

「部屋にいるのかな。ちょっと呼んでくるよ」


 わたしはコナユキの部屋に行って室内を覗いてみたけど、中には誰もいない。

 しかたないからそのまま皆のところまで戻った。


「いないみたいだから、とりあえず練兵場に行ってみようか」

「そうですね。コナユキちゃんは先に行ってるのかもしれません」


 わたしたちが練兵場に着くと、アヤメお姉ちゃんとチドリさんは先に入っていて、ちょうど試合の準備をしているところだった。

 しかし、ここでもコナユキの姿は見当たらない。


「ちょっとコナユキを探してくるよ」


 そう声をかけて、わたしは屋敷の方へ戻った。

 厚みのある壁にあけられた両開きの門を通ると、こちら側には領主の館がある。

 どこから探していこうか。

 ひとりで探すんだから、行き違いには気をつけないとまずい。

 こういう場合は、あちこち歩き回るよりもしらみつぶしにした方がいい。

 そう思って、とりあえず館の周りを一周することにした。

 前にコナユキと歩いたルートを通って屋敷の裏に回ると、馬小屋と家畜小屋が見えてきた。

 家畜小屋の前には犬が三匹いて、そこにコナユキもいた。


「コナユキ! そろそろ試合始まるって!」


 わたしが声をかけると、コナユキがビクッとこちらを振り向いた。

 何かおかしい。

 コナユキの顔色が悪い。

 犬が苦手だから?

 いや、そもそもなんで犬の所にいるのか。

 犬も今日はテンションが低かった。

 違和感。

 そうだ。

 犬が三匹いる!


「キュッ」


 わたしが気づくのと同時に、肩の上でマフラー状態になっていたイナリが顔を上げた。

 足を止めて、犬たちをじっと睨む。

 それでも最初は普通の犬に見えたけど、わたしが頭の上の光の輪を廻すと、そのうちの一匹に不気味な色の光の輪が見えた。

 魔物だ。

 魔力を抑えて、気配を殺していたらしい。

 見えづらかったけど、それでも強い力を感じた。

 サイズは小さくなってるけど、これは昨日最後に現れた犬の魔物だ。

 わたしは魔物のところに飛び込もうとして、ギリギリで思いとどまった。

 冷静になろう。

 どうしてこんなことになってるのか考えよう。

 たぶんコナユキはあの犬が魔物だって事に気づいてる。

 それでも離れることが出来ないんだ。

 どうして魔物は何もしないんだろう。

 これはもしかして、コナユキを人質に取られている?


「思ったよりも、冷静」


 魔物の犬が、平板な声で言う。

 甲高い女の子の声だ。


「わたしに用があるんでしょ? コナユキを離して」


 犬たちの方に用心深く近づきながら、なるべく落ち着いた声で話しかけてみる。

 魔物はくるっと首を傾げる。


「用がある。でも離さない」


 言葉を話せるって事は結構力の強い魔物なんだろう。

 昨日と大きさが違うのは、変化の力を使っているからだと思う。

 もしかしたら、人の姿にもなれるのかも。

 頭も良さそうだけど、話し方には人間的な感情を感じない。

 なるべく冷静に分析しながら、わたしは魔物の前二メートルくらいで足を止めた。


「用って何?」

「お前、こちらにオーブを渡す」

「オーブ?」

「この子狐の里のオーブ」


 魔物はコナユキの集落から消えた宝玉を狙ってるってこと?

 でも、なんでわたしたちに言うんだろう。

 当然わたしもコナユキも宝玉は持っていない。

 そもそも、神様のメダルがちゃんと機能してるなら、もう宝玉は元の場所に戻ってるはず。


「わたしたちは持ってないよ」

「今すぐ出す」

「いや、だから持ってないって」


 その瞬間、犬の魔物がこちらに飛びかかってきた。

 わたしは反射的に足を引き、身体の位置をずらす。

 訓練で身体に染みついた歩法で、魔物の突進を横に躱した。


「素直に出すか、出さずに死ぬか」


 魔物が姿勢を低くして、再び突進する体勢をとる。

 わたしはコナユキの前に位置取ると、低く声をかける。


「コナユキ、今のうちに逃げて」

「カナエちゃん……」

「逃がさない」


 魔物がそういうと、いままで所在なげに立っていただけだった犬たちが、飛び跳ねるような動きでコナユキの周りを囲んだ。


「ばうわうおうん!」

「ううっ、犬の人が……」


 凄い勢いで吠え始めたけど、犬たちがすぐに襲いかかってくる様子でもない。

 魔物が犬に無理矢理いうことをきかせているみたいだけど、昨日みたいに完全にコントロールはできないみたいだ。


「その犬は大丈夫だから逃げて」

「はうぅ、でも……」


 コナユキは足がすくんで動けないみたいだ。


「コナユキ」

「な、なに?」

「コナユキは強いよ」

「え?」


 わたしは魔物の方から目をそらさずに、ゆっくりとコナユキに声をかける。


「コナユキは自分を強くないと思ってるのかもしれないけど、自分で宝玉を探すために旅に出て、こうして今ここにいることが、コナユキが強い証拠だと思う」


 わたしは頭の上の光の輪を強く廻す。

 身体に魔力の光が満ちていく感じがした。


「わたしが動いたら、コナユキも同時にここを離れて」

「う、うん!」

----


色々いそがしくて間が開いちゃいましたが、以降は元のペースに戻る予定です。

というか戻したい。

戻るかな。

戻るといいなあ。

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