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のんびりした旅とそれを遮るもの

 森を抜けるとコナユキが言った通りに道が比較的整っていて、馬車もそれほど揺れなくなってきた。

 そのままわたしたちは順調に進んで、今日泊まる予定だった村に無事たどり着いた。

 父様が前もって話を通していたので、スムーズに宿泊する建物に入ることが出来る。

 この建物は村長の家に付属する離れみたいなところで、貴族階級の人間がこの村に泊まる時にはここを使うことになっている。

 普通は供の人間は別に宿を取るんだけど、今回は極端に人数が少ないので同じ建物に泊まることになった。

 ちなみに、今後わたしたちが泊まる予定の村にも、同じような建物がある。

 どこも街道沿いの旅人が泊まるのに都合が良い場所にある村で、そういう所には貴族が泊まれるような建物があったりするのだ。

 もとは村長の館とかその村の長者の館なんかに泊まっていたらしいんだけど、お互いの都合を考えて離れのような別棟を建てることにしたらしい。

 そういう建物がある村には、領主からの補助金が出ているんだそうだ。

 とはいえ特に豪華な建物ってわけでもないな、というのがわたしの第一印象だった。

 もしかしたら、普段からうちの館か森の王の御所なんかにしか入らないから、こちらの判断基準が高くなってるのかもしれない。

 作り自体はしっかりした建物で、隙間風が入るような事もないから、実際は村の他の建物と比べると良い家なんだろう。


「アカヤナギは馬の世話をお願い。アオムラサキは食事の準備をしてね」

「かしこまりました」


 アヤメお姉ちゃんが馬車から荷物を下ろしながら、テキパキと指示を出していく。

 わたしとコナユキは同じ部屋に泊まることになった。

 リンドウはアオムラサキと同じ部屋で、この辺は警護の都合を考えてのことだ。

 基本、わたしとコナユキの警護はアヤメお姉ちゃんがして、リンドウの世話はアオムラサキがするという差配になっている。

 ちなみにアカヤナギはアヤメお姉ちゃんの手伝い全般をするらしい。

 コナユキとわたしは部屋に入るなり、ベッドの上にゴロンと寝っ転がった。

 イナリが機敏な動きで、わたしの肩から枕の上に飛び移る。

 ずっと馬車に乗ってたせいで、体中の骨がボキボキいっていた。

 あーとかうーとかいいながらしばらくゴロゴロしてたけど、急にコナユキが身体を半回転させてこちらを向いた。


「あう。もう限界」

「コナユキ?」

「ごめん、カナエちゃん。ちょっとだけだから元の姿に戻って良い?」

「え?」


 わたしが良いとか悪いとか言う前に、コナユキが白い子狐の姿に戻ってしまった。


「わあ、ちょっと待った」


 一応部屋には鍵がかかるようになってるけど、いくら何でも不用心だ。

 慌てて飛び起きて。ドアの施錠を確認する。

 部屋自体が二階にあるから大丈夫だと思うけど、窓辺に行って外を確認する。

 なにげにガラス窓になっているところは、さすが貴族が泊まる館だ。

 外を見渡してみたけど、この部屋の中が見えるような場所はどこにもなさそうだった。

 とはいえ用心のために、とりあえずカーテンを引いた。

 心配事がなくなたのでひと息ついてからベットに戻ると、コナユキが毛布の上で丸くなって寝ている。

 わたしもその横に寝っ転がって、コナユキを横から抱えておなかの上に載せた。

 そのまま頭とか背中を思うさま撫で回したけど、うちのお屋敷でもたまにやっていたので、コナユキも特に文句も言わずにされるがままになっている。

 枕の上で寝ていたイナリがこっちにやってきて、コナユキの上にさらに登ったので、鏡餅みたいになった。


「そういえば、わたし前にもこの村に泊まったよ」


 コナユキが子狐の頭をちょっと持ち上げて、こちらを見て言った。


「ああ、そっか。コナユキはあの魔物の騎士の人と一緒に旅してたんだもんね」

「カザリさんね。でも、あの時は普通の宿に泊まったから、こんなに立派な部屋じゃなかったけど」

「その時もこうやって元の姿に戻ってたの?」


 コナユキはばつが悪そうに視線を逸らす。


「えっと、たまに。こっそりだよ。こっそり」

「そういえば、あのカザリさんって人はどんな魔物なのかな?」

「うーん。ちょっとわかんないな。ずっとあの姿で通してたし」


 まあ、普通はそうだろう。

 正体が知られるってことは、弱みを見せるってことらしいからね。

 わたしがカザリさんの正体をあれやこれや想像しながら、コナユキとイナリをもふもふしていると、気がついたらどっちもかわいらしい寝息を立ててねてしまっていた。

 この二人は仲が良いのかなんなのかよくわからない。

 立場的にはイナリの方が上っぽいんだけど、コナユキの方もあんまり気後れした感じでもない。

 その辺はコナユキの性格によるところが大きいのかもしれない。

 ちょっと人見知りっぽい感じだけど、一度馴染んでしまうと結構遠慮ないやつなのだ。


 明けて次の日、早朝に村を立つと昼頃に大きめの街道に出た。

 この街道は千年以上前に、時の皇帝が国中に引かせたものらしい。

 長方形の白っぽい石が、レンガみたいに敷き詰められていて、馬車は昨日よりもさらに走りやすくなった。

 今の時代はこれほどの大工事は難しいらしくて、遙か昔の失われた帝国の栄華の程が偲ばれる感じだ。



「カナエ姉様! また荷馬車が沢山通り過ぎましたよ!」


 街道に出て数日。

 旅程は順調に消化されていて、その間リンドウは楽しそうにずっと馬車の窓に貼り付いている。


「今日は商隊とすれ違うことが多いね。大きめの町が近いからかな」

「そうでした。次に泊まるのはここの領主様の館なんですよね?」

「アヤメお姉ちゃんが次期領主としてご挨拶することになってるから、その時はリンドウも礼儀正しくしないとね」

「大丈夫です! 昨日の夜、アオムラサキと練習しました!」

「えっと、わたしもご挨拶しなきゃいけないのかな……」

「コナユキはお留守番だから大丈夫だよ」

「クルッ」

「イナリもお留守番だからね」

「キュッ」


 わたしの言葉にコナユキは胸をなで下ろし、イナリはちょっと不満そうにわたしの鼻をフンフンしてきた。

 ご機嫌を取るためにイナリの顎の下をコリコリしていると、馬車の方にアヤメお姉ちゃんが馬を寄せてきた。


「アカヤナギ、馬車を止めて! カナエ、しばらく窓を閉めておいて!」


 お姉ちゃんの口調は特に慌てた感じでもなかったけど、その裏に張り詰めたものを感じたので、鎧戸を下ろしす時に少しだけ隙間をあけて、そこから外を見てみた。

 街道の横に立派な馬が二頭、大きな木につなぎ止められていて、そちらの方から鎧姿の騎士が歩いて近づいてくるのが見えた。

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