無風地帯
暗黒の騎士のミオ視点の部分はまだ分かっていないところになっていますので注意してください。
長い話が終わり、暗黒の騎士は溜息を深くついた。
「ダグーが何を考えているかは分からない。何を狙っているかも分からない。だが、俺は彼女を助けたい。そして謝りたいんだ」
掌の火傷が痛々しく、表情も苦しそうだ。
「俺は彼女がドッペルゲンガーと知ったとき、酷い表情をしてしまった。それを見た彼女は傷付いていた。それを謝りたい。……だから、助けたい」
ダグーの狙いが分からなかった。ドッペルゲンガーを召喚獣にして何がしたいのだろうか? 何か大技を考えているとしても、俺には思いつかなかった。
「いいねえ……」
俺とオズが珈琲を飲んでいると、魔女が髪先をチリチリにしながら店に入ってきた。
「良いじゃないか。謝るために、女を助けるってか」
「大丈夫? 魔女」
魔女は店員に紅茶を注文して、髪先を魔法で切った。
「お 前 の 女 に 殺 さ れ か け た ん だ よ !」
「わー、びっくりした」
周りの客が変人を見るように魔女を睨んだ。
「コロネ……お前たちの冒険についていったのがドッペルゲンガーだよ」
俺は魔女が魔法を使って、俺たちの会話に聞き耳をたてていたのに気付いた。いったい何時から聞いていたのだろう。内緒話もできないくらいの地獄耳だった。
「どこで、あった!」
オズが魔女に詰め寄りそうになったので内心焦った。
魔女は狼藉者には手加減をしないからだ。
「捕まえ損ねた。まさか、私に変身するとは……美女過ぎて見蕩れてしまっていた!」
魔女が陽気に笑っていたが、オズは真剣な表情をしていたので、魔女はさらに笑っていた。空気を読まない魔女だった。
「魔王の軍師ダグーが戻ってきたか……。魔王が復活した時に、敵前逃亡をした臆病者だと思ったが、これはキナ臭いね」
魔女が真剣な顔になった。
「臆病者が闘いに戻る。そういう時は、絶対に勝てる自信があるときじゃあないか?」
「どうするの? 魔女」
「毒龍を殺したところをみると、目標はもっと上か、実力を試したんだろうね。ただ、オズの話を聞くと、ミオの戦闘能力は低そうなんだけど……」
本当にどっから聞いていたんだ? 最初から聞いていたのかな。
「もしかしたら一度成ったことのある人物には成れるのかも知れないな。ただ、基本的に変身する対象は生きていないと変身は出来ないから、毒龍に変身することは無いだろうね」
待て……今のが本当なら。
「魔女……そうなら、魔女に変身できるの?」
「あっ、やべー」
てへっ、ぺろっ。
クソババ……俺の胸に魔女の拳がねじ込まれた。
「無駄に乳がでかくなりおって、少し小さくなっていろ」
一瞬意識が飛びそうになったが、なんとか正気を保った。
「ほう……強くなったな」
「……ありがとうございます」
こんなアホみたいに強いバ……魔女の力を模倣されて、誰が勝てるというのだろう。
「……ダグーを叩こう」魔女は珍しく乗り気で言った。「私の力も模倣されたし、このまま放っておいても悪い事しか起きない。目的は違うが、一緒に行動しないか?」
俺はどうするか……と考えるまでも無かった。
魔女が戦うなら一緒に戦う。
「……話がずれるけど、神龍の魔女ですか?」
「その二つ名は嫌いだけど、そうよ。本名はベロニカ=クンツ」
「光栄です。よろしくお願いします」
「クーとジニーも」
「忘れたのか? あいつらには息子と娘もいる」エマの妹と弟はまだ小さかった。二人とも長期間家を出ているわけには行かなかった。
「だったら、エマとニクラスを呼ぼうかな」
「だ」
「駄目というのが駄目だ」
魔女が反対しそうなのは何となく分かっていた。魔女の騎士に対しては厳しく育てていたが、魔女の弟子に対しては基本的に甘いところがある。
「あ」
「俺だってもっと小さいころに冒険していましたー」
「で」
「駄目でーす。連れて行きまーす」
「お」
「わーわーわー」
「とりあえず喋らせろ!」
オズが眼を白黒させていた。
和気藹々し過ぎているせいだろうか。
「ま、あんまり気を張りすぎるなよ。肝心な時に実力を発揮できないぞ」
魔女はオズの肩を叩き、お気楽に慰めていた。
基本的に俺たちは適当である。




