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終わる旅

もう少し引っ張ろうと思ったけど、だいたい語ったので巻いてお送りする。けっして面倒なわけではない。

 誰が俺たちに攻撃をして来ているか分からないけど焦っているだろう。イバノバの攻撃以来、十日以上経つが攻撃を受けていなかった。完全に相手の裏を突いているのだ。というのも、最短距離で進むのを止めて、遠回りを行い続けていたからだ。単純に人の裏をかくのは得意だったということもある。


「私と離れ離れになるのが嫌なの?」


 という、ミオの冗談も何日も続けて聞いた。このまま行けば、封印の祠まで接触する恐れは無いだろう。少し気になったのは、同時に出発しているおとりの方だ。彼等も攻撃を受けているとなると、ただでは済んでいないだろう。


 ある日、ある街の強欲商人の家から、銀食器を盗み、路銀として売り払った。


「盗んだ金の食事は、美味しくないなぁ」


「その言葉。俺の人生のほとんどを否定しているぞ」


 盗みのお陰でここまで食っていけているんだ。そして盗んだ銀のフォークで飯を食う、ナイフで肉を切る。美味いこと、この上ない。


「ミオがいれば、スリでも楽々稼げるんだがな」


「どうして?」


「対象がお前に集中が向かっている時に、簡単にスルことができる。集中をそらす事ができれば、スリなんて簡単なことだ」


「やってあげようか?」


「俺の腕が落ちたら頼むよ」


 ミオは笑って、食事を食べ始めた。


 平和な日々だった。


 俺が平穏な日々を思い返すときは、この日々を思い出すだろう。


 封印の祠まで、あと一日で到着するところまで来た。もう少し近場に大きな町はあるのだが、そこへ行けば追っ手に見つかる可能性があるので、地図にも載っていない村を見つけて滞在していた。というのも、村の全てが空き家になっていたからだ。隣の家には狐と狸という村で、何軒かあるうちの一つの家だけが住める状態だったので、その家を借りた。


「もう、旅の終わりだね」


 鼠を捕まえて食っている梟のミヤビも心なしか大きくなっていた。


 何も無かった二週間あまりの日々は本当に平凡だった。あまりにも平凡すぎて、何のために旅をしているか、忘れてしまうほどだった。


 ただ旅も終わりに近づいている。


 安息の睡眠は今日が最後かもしれなかった。


「最後の思い出に抱いてっ……!」


 ミオがふざけて言っている。お姫様の体に何かがあったら終わりなのは本人が一番分かっている。


 冗談で言っているのはわかっている。


 けど、数日考えた本気の冗談を言いたかった。


「……あのさ、真面目に言うけど」


「なーに?」


「旅を止めないか」


 ミオの表情が一瞬のうちに固くなり、俺の顔をマジマジと見た。


「封印なんて止めてもいい。これ以上、苦しむ必要は無い」


「そんな、だったらもう一人のミオが」


「俺が面倒をみてやるから」


「お姫様なんだよ!」


「関係ないだろ。同じ人間なんだから、逃げたいなら、俺がいつまでも逃げ続けてあげるから」


「嬉しいけど……無理だよ。この子の人生はこの子のものだよ。私は自分の腹を痛めて産まれた子には、自分で選んだ道で幸せになって欲しい。だから、ごめんね。でも、嬉しかったよ」


 静寂な山の音、虫と風の歌が、足音を消したのだろうか。


 俺が寝た後に、何かの臭いがしたのを覚えている。


 だが、気付いた時には朝になり、ミオはいなくなっていた。




 私が起きたのは、朝陽が昇ってからだ。


 昨日の夜に、オズが言ってくれた言葉は心の奥底まで沁みた。その幸福な感覚を忘れないように、心臓を高鳴らせながら眠りについた。


 変な臭いを嗅いだのが、昨日の最後の記憶だった。


「だ、誰?」


 誰かが私を担いでいる。その顔には見覚えがあった。


 最初にオズに交渉へ行った宰相だ。名前はダグーと呼ばれており、何年も前にドラクロワ王国から流れてきて、才能を発揮して政治に辣腕を振るっていた。


「やっと起きたか」


 私は肩から投げるように下ろされて地面に叩きつけられた。


「何をする!」


 久し振りに姫として気品が蘇ってきた。


「投げた……そんなこともわからないのか?」


 怒らせようとしているのだろうか。腹立たしい言葉に全身の毛が逆立つようで、噛み付いてやりたかった。


「実験は終わりだ。だが、焦ったぞ。途中からまったく見つけられなかった。あそこまで気配を消せるのは天才としか言い様がないな」


「実験?」


「それに山神を正面きって倒すとは思いも寄らなかった。ただ、再現が完璧では無かったから、それは残念だった。ついでに、亡き魔王様の黒い影――いや負の感情から、朋輩を抽出することも出来た。実に良い実験だったよ」


 何を言っているかまったく分からなかった。


「再現? どういうこと」


「かつての古き神々は封印され、偶像に封じ込められた。だから、復活をさせようと思ったのだが、それでは俺に支配は出来ないからな。頭を使ったんだよ」


 胸が苦しくなり、頭痛で倒れそうだった。


「分かってきたようだな」


 私の頭は捕まれて、ダグーに引っ張られ、遥か下にある馬車の列を指差された。


「最初からおかしかっただろう。本物のお姫様を、男と一人旅をさせるだと? 馬鹿な事を、そんなことをしたら姫様の名に傷がつくだろう! なあ、あれを見て、何か思わないのか」


 私の目には、馬車に乗せられている、私の姿があった。


 私が。


 あそこにいる。


 ここにいる私は、誰?


「お前の再現は完璧だった。古代の神を模したやつらもたいしたものだったが、お前が一番だったよ。お前はお姫様を――いや、悪霊を完全に模倣して、自分があたかも本物だと思って行動をしていた。笑えたぞ。お前は自分の本当の姿を忘れて、模倣した過去すら信じ込んでいた。愛したことの無い男に愛を感じていたんだ。なあ、ここまで言ってもお前は自分のことを思い出さないのか?」


 模倣?


 何を言っているか分からない。何を……。


「素晴らしいな。ここまで記憶が無いとは……お前なら他のやつら以上の成果を得ることができるだろう」


「私は……誰?」


「お前は、魔物だよ。傾国の悪霊ですらない。ドッペルゲンガーだ」


 ドッペルゲンガー……人の物まねをする悪しき魔物。


「う、嘘だよ。だって、私には昔の記憶もある」


「だから、素晴らしいと言っている。完全な再現だ。お前なら、より素晴らしいものを再現することができる」


 い、嫌だ。


 訳が分からない。


 オズ、助けて。


 こんなのは、ただの悪夢だ。


 私はなりふり構わず、走りだした。ここから逃げれば……。


「馬鹿な事を。……召喚術、ドッペルゲンガー」


 私の腹がうずいて、服越しで輝いた。気付いた時には、ダグーの目の前で雷魔法をかけられていた。全身に痺れが走り、身動き一つ取れなかった。


 私はドッペルゲンガーとして召喚されたのだ。


「これで分かったか? ドッペルゲンガー……お前はただの魔物だ」


 喪失感が全身に満ちた。すべてが断ち切られたような孤独感に涙していた。

海神も山神もミオもドッペルゲンガーだったのだー。

突如ドッペルゲンガーが現れたが、あらかじめ出しておくと先が読めるので、はぶいたのだー(すみません、不親切で)

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