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鳴子

 治療魔法を使う医師に傷跡を確認してもらい、完全に治っている御墨付きを貰った。


「この国で魔法を使えるのは珍しいですね」


「ああ、魔法が使えなかったのは遥か昔の話だからね。精霊が偶像に封印されて以来、この国でも魔法が使える。治療魔法が使えるなら、この魔法の不毛地帯では荒稼ぎができるのさ」


「たとえば――その精霊、もしくは古来の神が復活したらどうなるんでしょうか?」


 まさか話が膨らむとは思っていなかったのか意外そうな顔をしていた。


「火の神が復活したら、火の魔法は使えなくなる。と言っても、この国では魔法を使える人間が少ないからすぐには気付かないだろうな」


 海神、山神……魔法属性でいえば、水と石だろうか。はたして魔法が使えなくなっているかどうか。魔法が使えない俺には確認するのも難しいことだ。


「たとえ復活したとしても、関係ないだろうな。まあ、私にとって『命』の属性の精霊、もしくは神が復活したら商売あがったりだな。それは困る」


 俺が病院から出ると、ミオは扉の横でミヤビに餌をやりながら待っていた。


「平気だった?」


「ああ、ばっちりだ」


「今度からは怪我をしないようにね」


 ミヤビも鳴き声を出して、俺に気合を入れているようだ。


「これからどうするの?」


「封印の祠まで歩いても2週間もかからないだろう。ほとんど真っ直ぐ北だからな。だけど、海神に続いて、山神と現れたから、何かしらが俺たちを妨害しているように思える。という訳で、商隊の護衛に参加しようかと思っている」


 商隊で襲われる恐れもあるが、護衛は他にも何人もいる。もしもの時は共闘をすることも可能だ。


 人を巻き込むのか――ああ、そうだ。としか言えない。


 商隊の人を探して直接交渉した。冒険者ギルドには登録していないし、わざわざ登録して給料を天引きされるのも癪だ。それに戦わないミオもいる。色々諸事情があるので、直接交渉したほうが楽だった。


 見つけたのは蜂蜜酒を運ぶ商隊だった。


 多くの護衛兵がおり、中には馬に乗っている連中もいた。


 俺たちは夫婦を装って、最後尾の馬車と並んで歩いた。


「夫婦でしょ」


 と言われて、何度か仕方なく手を繋いだ。


 滑らかな肌と、緊張感のある震えが伝わった。


 日が経つにつれて、彼女を護らなければという意思が固まっていく、弱い人を守るのは強い人の義務かのように。


 異変が起きたのは、三日後。町に到着する前だった。炙られるような熱が、街道に陽炎をつくり、路端からの草いきれが蒸せて、気温よりも熱く感じた。


 一番前の馬車が襲われたそうだ。


 俺たちは足手まといと言う事で、残された。


 血が舞い、嵐のように次々と斬り倒された。恐ろしいほどの剣の冴えだ。一人、また一人、馬の足を斬り、首をはね、散り散りになったとき俺の前に立った。


「オズ……久し振りだ」


「イバノバか……」


 ボルジア王国で反政府として戦っていたときがある。と言っても、資金源として重宝されていただけだ。俺もボルジア王国が嫌いだったので、思想を持ちそれを至純だと信じている連中の応援をしたかった。


 その中でも、疎外されている連中がいた。


 それは、武力専門――つまり殺し屋、もしくは人斬りだった。


 理想を妨害するものを斬って、殺して、手を真っ赤に汚していたやつらだ。


 今考えると、俺ものけ者扱いだったかも知れない。


 海賊の女頭も同じように資金調達をしていたが、同じような扱いだった。


 仲間内で差別を行っていた。だから、失敗したのかも知れない、自分たちで手を汚さず、手を汚した連中をのけ者にしたから失敗した。


 逆に言えば、手を汚した連中が生き延びた。


 面白いな……イバノバ。


「アンタに会いに来た」


「誰の命令で?」


「そんなことを言うはずがないだろ? 最初に会ったときから思っていたんだ。あんた、けっこう強いんだろ。どっちが強いかなって、ずーっと思っていたんだ。殺し合いたいなって、強く恋心のように想っていたんだぜ」


 イバノバは短髪に刈り上げ、吊り眼が恐ろしいほど険しかった。


「その口に聞こうか」


「どこの?」


 重いものが落ちた音がした。途端に膝の部分から左足が倒れた。何を見ているのだろうか、目がおかしくなったのだろうか、イバノバが屈みながら足を取ると、切断面をこちらへ見せ付けた。


 それは切断された足だった。


「さっき斬られちまってな。どうだ? 護衛兵はいい腕だったようだな。良い切断面だ」


 舌を伸ばし、切断面の砂を舐め取った。


 涎が薄い赤色になった。


「オズ……」


「ミオ、ミヤビと一緒にさがっていろ」俺はイバノバを睨んだ。「どうやら、相手は人間をやめているようだ」


 イバノバは足を付け直し、試しに歩こうとした。


 まあ、回復の時間は与えないに限る。


 町で買い揃えた短刀を投げて足元を狙った。


 イバノバはその場で回転して、宙で足をくっ付きなおして、剣を抜いて、そのまま直進してきた。


「海を越えた大陸で名を馳せた名剣鳴子だ。そのような無銘に負けるものではない」


「道具が良くても、猿が使えば終わりだね」


 投擲用に買い揃えた短刀が次々と鳴子に弾き飛ばされた。だが、地面に落ちたのを再利用して、徐々に短刀の圧力で追い詰めた。


 俺が有利な距離は遠距離と超近距離だ。本当なら接近戦で戦い所だが、近づくには剣の得意な間合いに入らないといけない、だから遠距離で殺傷したかったが、やはり難しかった。


「無駄だ」


 分かっているが、どんな玄人にも失敗はある。諦めずに続けるのが肝心だ。


 しばらく小競り合いの後、イバノバの雰囲気が少し変わって、鳴子を拝むように構えた。


「無駄なのは、お前の剣技だ」


 俺は馬車の馬の陰に隠れていた。なのでその台詞が何を意味しているか分からなかった。だがイバノバの声は、底冷えにするものに変わっているのに気付いた。


「お前は、ク……いや、違うか」


 まったく別人の声だった。


 だが、イバノバとは比較の出来ない恐ろしい相手だと分かった。


 寒気で、全身が凍てつくようだった。

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