呪われた村
俺たちは国境からやや離れたバルボア国の山道を歩いていた。
ミオが誰かから狙われているとしたら、街道を歩くのはとても危険だ。
といっても、あの海神がミオを狙ったものと決まったわけではない。
だが、少しでも知っている道を歩くために、歩きなれていたあの村への道を歩いていた。
その村への道なら多少の抜け道も裏道も知っていた。
村は焼けてしまい、人は誰も住んでいないのだろう。
村へ続く道は掃除すらされていなかった。
村に近づくにつれて、木々は密生していき、原生林のような雰囲気、森の中に誰も入れないという意思があるようだった。
「ここの景色は懐かしいね」
「ああ、子供の時以来だからな」
俺たちの目の前には祠があった。
「私は封印されていたから、何十年もここの空気を吸っていた」
「封印されたきっかけは何だったんだ?」
「ご想像の通りだよ」
俺とミオは母親の手を埋めたところに手を合わせて、村へ向った。
焼けた跡はほとんど残っておらず、家だったところは腐敗して、大地に吸収されていた。
草が雑に生えて、麦が野生と化している。
収穫にはまだ早い、腰にかかるほどの草となっていた。
俺は家だった所にしゃがんで、何か無いか探したが何も無かった。
戦争は略奪を容認している。
鍋すら盗まれてしまったのだろう。
ミオもカレラだった時の家を見ていたが、何も無いようだった。
突如、ミオの後ろの草が動き、白い物体が浮かぶあがった。
骸骨だった。
瞬時に、短刀を出して、投げて、眉間を貫いた。
村人ではなく、襲ってきた兵士たちの骸骨が魔物化したのだろう。剣や盾を持ち、かちかち骨を鳴らしながらこちらへ向ってくる。
死んでいるくせに、知恵が働くようで、草に隠れながら突進してきた。
骸骨から短刀を回収して、ミオの盾になるように舞った。
しょせんは低級の魔物である。
次々に切り刻むと、骨が砕ける断末魔を響かせた。
もう一陣、魔物たちが現れた。
それは男女の食人鬼だった。
腐り果てているが見たことのある顔がいた。
父も母も、カレラの両親もいた。
服はなく、虫に食い尽くされたのだろう。
俺の中から、両親への思慕の念は沸かなかった。
むしろ、魔物とされた両親たちが可哀想で、怒りの炎が燃え上がった。
ミオの悲鳴は聞こえたが、食人鬼二十四体を切り刻んだ時、戦いは終わった。
何度か反撃にあったが、身軽さで死人に負けるわけが無かった。
「はあ……これで終わりだな」
「まだ、いるかも知れないよ」
「村人の数は二十六人だった。俺たちを差し引いたら、丁度だ」
休憩するために草を短く刈り、焚き火をたてて、夜を迎えた。
円形に刈られた雑草の園に、美しい満天の星が降り注いだ。
「こんなに綺麗だったんだね」
「ああ……」
俺は森で取った鳥を捌いて焼き鳥として、あとは街から持ってきたサンドイッチを食べていた。すこし乾燥してしまったが、十分美味しかった。
海神に海賊船が襲われてから、妙に神妙になっているミオであった。
まあ、そのほうが良いんだけど。
「私がいなければ村は滅びなかったよね」
「その通りだ。ただ俺も悪い」
焚き火が爆ぜて、足元に小石が転がってきた。
ミオは無言だった。
圧倒的に悪いのは俺たちだ。
言い訳すらしたくなかった。
「寒いから寄れ」
ミオに言って、肩に抱いて寄せた。
触れた肌で交わした体温で、俺たちは慰めあった。
朝を向かえて焚き火が消えているのに気付いた。
俺は街で買って来ていた種を取り出した。
「ほーれ、育てよ」
寝床のために草を買った場所を中心にパラパラとまいた。
「何の花?」
「ひまわり」
「……それ食用じゃないの?」
「なにー……勿体無いな」
半分だけ蒔いて、俺たちは村を後にした。
ひまわりの種は美味しかった。




