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「ごゆるりとするがいい」
迷宮に入ってから、すぐに赤龍と会うことができた。再び戻ってきた僕たちへのご褒美といったところだろうか、赤龍は寝床の一角を提供してくれた。
「ありがとうございます。赤龍」
ジニーは丁寧に挨拶をすると、赤龍はいままでの経緯を聞いてきた。
「いまの国王は酷い男のようだな。その左頬の傷が物語っている」
「それでも……私のお父様です」
「その心意気良し。内に怒りを秘めながら、同時に愛も抱くその矛盾、なんと人間らしいことか。ワシが自由に国王を決めていいのなら、きっとお前を指名しただろう」
赤龍は承認するだけだ。人間の王国に介入するつもりは無いのだろう。
「ありがとうございます。でも女王はちょっと柄に合わないかな」
赤龍は次々と話を聞きたがった。おそらく誰も話す人がいないので餓えていたのだろう。その結果、コロネが銀山の話をすることになった。どうでもいいような話だが――。
「最近、地震が多くて崩落とか多いみたいですね」
「地震……この前もあったな」
「そうですね。俺たちが洞窟にはいる前でした」
コロネはすっかり赤龍になれていて、僕とジニーは食事の用意していた。
「ちなみに聞くが、その場所は」
コロネは顎を撫でて、
「商業都市ノイルの北側にある峻厳な山……」
「……コロネよ。そなたには命を助けられたようだ」
「は、はい? 何がですか」
「そこのいちゃいちゃしている二人も来なさい」
僕とジニーは赤龍に言われてコロネの横に来た。
「いままで話を聞いていて合点がついた。まず、事の起こりは弟王ヴィルヘルムが銀山を発掘調査していたことだ。その時に、ノイルの北側にある遺跡を発掘してしまったのだろう」
「遺跡ですか」
「そこには遺跡があり、遺跡の中心部には核がある。古代人の知識を詰め込んだ生きる図書館ともいえる存在だ。そこで、ヴィルヘルムは『反魂の魔法』を取得して、覇権を奪う夢を見たのだろう」
「それで、魔王が復活した」
「その通りだ。だが、国王が何かしらでそれを知ったのだろう。そうすれば、国王側からジニーとその母親を差し出して、喧嘩を吹っかけるように仕向けたのも分かる。国王も古代人の力が欲しかったのだろう。ヴィルヘルムとしては人質代わりになるとほくそ笑んだかも知れないが、はめられたのを知らなかった」
ジニーは少し俯いた。
「だが、ここでもう一人の王――魔王が出てくる。彼は遺跡の核を調査することで、あることを知ってしまったのだろう。それで人を確保して遺跡を動かそうとした」
「動かす?」
「古代人が消えてから、星霜が遺跡を埋めて隠してしまった。だが、あれは着地していたに過ぎない。本来は空を飛ぶ大きな島だ」
「空を飛ぶ……島?」
「地震はその兆候だった。島がむりやり空を飛ぼうとして、地震が起きているのだ。普段どおりの地震と思っていたのが間違いであった。そして、あの島が恐ろしいのは、島の下に巨大な魔道銃が設置されていて、『光』属性の『怒りの日』を発動する。それを食らえば、ワシも軍もひとたまりも無いであろう」
「島が飛ぶ……」コロネは混乱しているが、なんとか理解しようとしていた。
「大勢の人が死ぬのですか……」
「ディエスイレが発動すれば、大地が抉れる。会戦の場所で撃ってしまえば、殆どの兵が一瞬のうちに粉々になるであろう……。だが、それが魔王の考えだ。いままでの強行軍、魔王はどうにか戦争に間に合わせようとしている。ならば、考えられるのは、絶対的かつ多大なる一撃。その次はワシを狙うであろう。その次は……分からんが、魔王が世界に向けて喧嘩を売るつもりなのだろう」
先ほどまで、食事を作りながら楽しく会話していたジニーの顔はそこには無かった。
「どうすれば止められますか」
「核まで辿り着けば操作することは可能だ。だが、核はワシにとっても格上だ。古代人の全てが封じ込まれた、いわゆる神のような存在だ。それは、時という概念さえも無いと言われている。操るのは難しいが、魔王ができるのだから不可能ではない」
「赤龍は行くのですか」
「降りかかる火の粉は払う」
ジニーの心に火がついたようだ。兵士たちが何万人も虐殺される蛮行を止めなければならない、それが王族たる者の使命だ。
「私も行きます。二人は……」
「行くよ! ジニーおねえちゃんが行くならどこへでも」
「まあ、当然ついていくよ」
僕もコロネに同意した。
「ジニーおねえちゃんを一人にすると助けに行かないといけないからね」
「そうそう、それに返事もしていないからね」
僕がジニーの肩を叩くと笑みを浮かべた。
「来てくれると思った」
僕たちは食事を終わらせて、装備を整えた。
「乗って良いですか」
「それ以外に方法は無い」
僕たち三人は赤龍に乗り、乗り心地が安定しないので手綱を赤龍の首にくくりつけた。大きな鞍も急ごしらえだが作った。
「苦しくは無いが、嫌だな」
「すみません」
僕たちが吹き飛ばされないように赤龍にしがみつくと、赤龍は空へ向けて吼えて、洞窟が赤龍の体に合わせて広がった。
「さて、行くぞ!」
風が冷たい。
そう思った瞬間には、空を飛んでいた。




