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「おにいちゃん」銃士はシグルズに向けて言った。「ヴァージニア姫を確保して、迷宮の地図も手に入れた。それでいいじゃないか」


 銃士の手には迷宮の地図が掴まれていた。どうやら銃士はシグルズの弟のようだ。


「あの金庫を開けるのに、わざわざ指紋がいるとは思わなかったけどな。おかげで新しい腕は肌の色すら違うぜ」


「運が良い事に、あのおっさんの筋肉のほうが良いじゃねぇか」


「これは見せるための筋肉だ。レスター」


 シグルズの名前は聞いたことがあるが、レスターの名前は聞いたことが無かった。もしかしたら不出来な弟なのかも知れない。


「しかし、腹が減ったな。飯、食おうぜ。飯」


「こんな死体の中で食えるか――と言いたい所だが、たしかに腹が減ったな。食堂に何か余っているかな」


 僕たちは隣の部屋に入って、二人が廊下を食堂へ歩いていくのを見送った。



 僕たちが隣の部屋に入ると、


「もごもご(やったー)」


 ジニーは縄でぐるぐる巻きになっていた。


「駄目ですよ。泣き虫さん、ご主人の体『だけは』触らせません」


『だけは』――ジニーの喜んだ眼が厳しくなった。


 コロネが蒼ざめて、僕は汗がダラダラ出るのを感じたが、とりあえずジニーの縄を解いて、部屋の中を確認すると金庫が空いていた。金貨がいっぱい入っていたが、武器は入っていなかった。


 迷宮の地図もなかった。おそらくレスターが持っていったのだろう。


 しかし――ここに迷宮の地図があるのは驚いたが、なぜ魔王軍が迷宮の地図がいるのだろうか、やつらも通るのだろうか、いや――弟王ヴィルヘルムを味方につけているので、通行するのは関所からで良いはずだ。


「よくわからないな」


「ええ、私も」ジニーが頷いた。「さっきの『だけは』が気になるわ」



 僕はジニーを無視して、


「さて――闘いますか」


「た、闘うの? 無理だよ。二人だよ」


「いいえ、ジニー様。むしろ――今がやつらを叩く絶好の機会です。と言っても、闘うのは僕だけで十分です。大暴れしますので」


「一緒に逃げようよ」


「迷宮の地図がいりますからね。奪うにしても生かしては、こちらが迷宮を使うのがばれてしまうので、殺す気で行きます。本当は殺したくはありませんが、シグルズの腕を見る限り、重傷ですら直してしまいますからね――怖いですけど」


「ジニーおねえちゃん行こう。大丈夫だよ」


「そうですよ。ご主人。泣き虫さんの『婚約者』が言うんですから間違いありません」


『婚約者』――「ちょっと、どういうことか教えてもらいたいんですが」ジニーが僕の手首を持って、眼を近づけてきた。


「ジニーおねえちゃん。行くよ!」


 コロネはジニーの手を引き、二人と一体は逃げた。



 僕は金庫から、金貨の入った袋を少しだけ破ってから持ち、食堂の方へと向かった。歩くたびにちゃりんちゃりんと音をたてて、しばらく歩いていると、音を聞きつけたシグルズとレスターがやってきた。


「泥棒か?」レスターが魔道銃を構えた。何がでてくるか分からないが、今の僕にとっては敵ではない、僕はシグルズのほうを睨みつけた。


「前にあったときは卑怯とか言っていたけど、罪の無い人たちを簡単に殺すような、やつらに卑怯とか何とか言われたくないね」


「これはレスターがやったんだ。俺の知ったことではない」


「おいおい、おにいちゃん。泥棒じゃねえのか?」


「魔女の騎士、クー=デュランだ」


「あの伝説のか」


「違う。名前を貰っただけらしい、ただ魔女はあのベロニカ=クンツだ」


「なーるっ」両手の銃を回転させて、興奮を抑えるように舌なめずりした。


「で、俺たち兄弟を止めることが出来るってのかい?」


「あーあ、君たち魔王軍が死んでから、新しい属性が見つかったんだよ。といっても、僕の先代の勇者が使っていたところを見たことがあるじゃないのかな?」僕は金貨の袋を落として、勇者の剣を構えた。


「『鋼』は金属を操る――都市での『鋼』属性の恐ろしさを知るがいい」


 僕が『鋼』を行使すると、金貨は二人に殺到した。最初は無表情で金属の弾丸に対処していたが、床に点々と落としていた金貨が金庫まで繋がると、勢いは苛烈となった。それに金貨が飛んでくる他に、四方八方の建物に使われていた金属が殺到し始めた。目の前の事態の深刻さを分かったようだ。


「駄目だ。おにいちゃん、これでは俺の出番はねーや」レスターの判断は賢明だった。建物の壁を銃弾で吹き飛ばし大笑いしながら外へと出た。「いやー! 蘇って良かったぜ! こんな曲芸を見せられるとは思わなかったぜ!」


 シグルズは二刀流になり、後退しながら金貨を弾いた。


「喜んでいないでどうにかしろ。それに俺も出番は無いようだ」


「はいよー」


 シグルズの周囲の空間が歪んだように感じた。常世を背中に戻して、鳴子を両手に構えて、『音』を引き出した。


「ショック・ウェーブ」


 僕の周囲に金を展開させて、衝撃波から守ったが、聴力に異常が起きた。はね返すように、金属の壁を押し返すと、シグルズは真っ二つにした。それを挟み込もうとしたが、ここでレスターが煙の効果のある銃を撃った。周囲に煙幕が張られて、僕は目標を見失ってしまった。


「逃げるのか! 卑怯だぞ」


「ははは、安い挑発だ。また、会おう」


 その声を最後に、二人は消えてしまった。


「どっちも殺せなかったか……それに迷宮の地図も」


 僕は建物を壊してしまったので、急いでその場を後にした。

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