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「ここです。アイ=ドール――偉いでしょ?」


「偉い偉い」


 この屋敷は何でも商売にする奴隷商人ハックの持ち物だ。


「……どういうことだろう。この屋敷の商人と魔王たちに何か関係があるのか?」


「商人の館だって分かるのか?」


 僕に女だとばれたコロネは、先ほどまでモジモジしていたが気を取り直したようだ。


「僕を管理していた商人だ」


「管理?」


「ああ――僕はむかし奴隷だったんだよ」コロネには知られても良かったので話した。「まさか、こんな形で戻ってくるとは思わなかったけどね。異世界からの漂流者って分かるか?」


「あの言葉を喋れない連中か」


「僕もだ。だから珍しくて、労働力として売られる前に、愛玩物として売られていた。そんなくそ商人の館だよ」


「売られていたのか……」

 コロネが言葉をなくしたようだ。


「ああ、昔の話だけどね」


「……でも、漂流者って全然分からないね。魔法も使えるし」


「ああ――教育されたからね。だからコロネも絶対に魔法が使えるようになるさ。異世界からやってきた僕が出来るんだから、この世界のコロネが出来ないわけ無いよ」


「なるほど」


 コロネはぐっと両手を握り締めた。


「しかし地球の記憶が一部分だけでも蘇ってよかったよ。おかげで人工呼吸でコロネを蘇らせれたからね」


 人工呼吸と聞いて、コロネは顔を赤くしたが、


「記憶が無いの?」


「……ごっそり抜け落ちているんだ」


 何故かは分からないが、最近部分的に戻りつつある。


「ねえねえ、アイ=ドールが思うに、ここで話していないでとっとと侵入したほうがいいと思うの。はい、石の橋」


 アイ=ドールは僕たちが雑談をしている間に石を集めて塀を越える橋を作った。僕たちは橋を渡り、急いで館まで近づいた。


「裏口があったな」


 裏まで回ると、裏口はあったが鍵が掛かっていた。色々調べると、換気用の小窓がわずかに開いたので、アイ=ドールを入れて、落とした。


 ごーん! 石なので響いた。


「しー!」


 しばらく待っていると、中から鍵を開けてくれた。


「アイ=ドール、偉い」


「超偉い」


「アイ=ドール。石だから可愛くないって理由で、組み合わされて人形になったんだよ。それでも石は石だから可愛くないって捨てられたんだ。可愛いっても言って欲しいな」


「可愛いし、偉いよ。アイ=ドール」


「ありがとう」


 僕たちは館に侵入した。



 どうやら商人ハックに仕返しは出来ないようだ。館の中は使用人、奴隷、ハックおよびその家族まで皆殺しにされていた。魔道銃で撃ちぬかれていた。ハックにいたっては、左腕を切り落とされる拷問をされていた。


 魔道銃――魔法を使えない人間が考え出した。弾に魔法を込めて放つという恐ろしい技術だ。ただ地球での銃とは違い、火薬を使用していないので弾速はまちまちだ。


「どうやら商人も魔王とは組んでいないみたいだ」


「うう……みえない」僕はコロネが死体を見ないように眼を布で隠して、そのまま歩くのも大変なので、抱きかかえて歩いていた。


「死体しかないから」


「そうか」コロネは少し身震いして、爪を服に立てていた。身を守るために男のふりをしたり、復讐を敢行したりと、気丈なところがあるが、なかなか可愛いところもある。



「本当に全員を殺したのか? 馬鹿か、無駄な殺しをするなんて」


 この声は魔剣士シグルズの声だった。


 僕はコロネを降ろして、布を解いた。


「当たり前だろ。騒がれると、うるさいからな」


 壁に身を隠しながら、部屋を覗いた。そこには魔剣士シグルズと魔道銃を持った男がいた。黒い肌の足も見えるが、もしかしたらジニーかも知れなかった。


 この男も顔色が悪い。魔王と同じで反魂の魔法をつかって復活したのだろうか。


 あるものをみて、驚いた。


 シグルズの左腕があるのだ。その腕はシグルズの腕より一回り大きく、肌の色も真っ黒だった。それは商人ハックの腕だ。それにシグルズの背中には二つの剣があった。


 奴隷の時に聞いたことがあった。


 ハックの部屋に、魔剣が納められていると――『音』の鳴子、『命』の常世。あの二つはスレイブだが、その美しさはマイスターにも劣らないと言われている一品だった。

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