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不器用な人達  作者: 田月


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4/5

カフェオレ企業

「おっ」


 少し暑さが鳴りを潜めたこの頃。

 自動ドアをくぐり、外に出ると空が暗かった。

 悔しいが、懐かしい気分になってしまった。


 俺は社会にごまんといるサラリーマン。

 大学時代真面目に就職活動もせず、特別な功績もなかった俺が就職できたこの会社は、当然というべきだろうブラック企業だった。

 日々の仕事量は膨大で、サービス残業は当たり前、繁忙期は1週間は家に帰れなかった。

 明日を耐えられないほどではないが、明後日も耐えられるかは分からない日々だった。


 そんな会社に入社以降、俺は転職も退職も経験せずここまでやってきた。

 いや、経験せずというよりは経験することを恐れたのだ。

 同期や後輩、周りが続々と声を上げ去っていった。

 そのうち自分もと思っているうちに、声の上げ方すら忘れさせられてしまった。


 しかし時代の流れというやつであろうか、ブラック企業を問題視する風潮が流行り始めた。

 ただそんなものは関係ない、そう思っていた。

 なぜなら現状でも労働関係の法律や条例をガン無視なわが社なのだから、そんな風潮気にするはずも無い。

 だがその考えは一つの出来事で変わった。

 それは大手による子会社化だ。

 子会社の労働環境がブラックとなれば、親会社の信用問題に繋がる。

 この知らせは、俺たち社員に本気でホワイト化を想起させた。

 数少なくなった同期だけではなく、先輩に後輩、それに社長までもが浮かれていた。


 間もなくして社長が浮かれていた理由が分かる事となる。

 ホワイト化は確かに行われた。

 残業は無くなり定時に帰れるようになった、その代わり今までの残業分の仕事を家でするようになった。

 有給を自由に取得できるようになった、その代わり有給の前日までに休む分の仕事をこなさなければいけなくなった。

 今まででも手一杯だったのに、このような表面だけのホワイト化を敢行すればこうなる事は自明だ。

 それにこの薄っぺらいホワイト化以降、上司は残業をしようとすると激しく叱り、有給を使おうとしない社員を「会社のイメージを下げる裏切り者」と責めるようになった。

 まるで今までのブラックに、頭上からごく少量の牛乳を注がれた気分だった。

 ただ上から注いだだけの牛乳は、全然今までのブラックと混ざりゃしない。

 上から見れば真っ白かもしれないが、中から見たら所々に濃い黒がしっかりとこびり付いている。


 落胆する同期もいた、抗議しに行く先輩もいた。

 しかし俺はそんなことをするのさえ面倒くさかった。

 そんな時間があったら少しでも多く仕事を片付けて、明日楽をしたかった。

 それでも何処かで期待していた自分もいて、ふと考えてしまった。

 頑張りすぎなくていい会社になって欲しかった。

 でも頑張らないことを強要される会社になった。

 やった事を正しく評価して欲しかった。

 やらなかった事を間違って褒められるようになった。

 上っ面だけのホワイト化が俺たちにもたらしたのは、こんな事をぐちゃぐちゃ考える時間だけだった。

 そんな時間誰も求めちゃいない。



 ウィーン


 カシュッ


 トッ


 ピッ


「お客様こちらカフェオレですがよろしいですか?」


「えっ?」


「あっすみません。

 いつもお客さんブラックを買われていたので…

 失礼ですが、最近疲れておられるように見えたので、ブラックと間違われて持ってこられたのかと…」


「その今日は………いや間違えてました」


「そうですか。

 買う前に気づけて良かったです。

 それではブラックコーヒーが一点。

 お会計変わりまして…」

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