第86話 虫がぁ〜!
「虫が〜! カサカサ! カサカサ言っている!」
私は暗い道を松明頼りに進んでいた。
虫の恐怖に耐えながらだ。
「よくまた入ろうと思ったよな」
私は白にしがみついている。
そう、進んでいるのは白だ。
松明を掲げた私が、大きくなった白の背に乗って、狭い洞窟の中を進んでいるのだ。
そう先々代の陵墓に侵入したのだ。
「ひっ! 落ちてきた! 何か落ちてきた! いやぁぁぁぁぁ!」
「水滴な」
そして一度きたことがある、高美人の墓室と思われるところまできた。
だが、これは思われるというだけで、正確には誰の石棺かわからないものが置かれた部屋だ。
ただここはちらりと見て、先に進む。
途中にあった横穴はいったい何が出入りした穴なのか。あのときは高美人の死体を出したのだと思ったのだけど、それだけでは労力として合わないと思ったのだ。
ただの美人の地位にいた者にどれほどの価値があるのか。
「おい、この先が封鎖されて進めないぞ」
崩れたのではなく、土の壁が進行方向に立ちはだかった。それもよく見ると、何か描かれた形跡がある。
「はぁ、引き返そう。これ以上進むのはよくない」
「いいのか?」
「多分、何か仕掛けがある。盗掘避けにしては仰々しい」
「わかった」
墓荒らしが、こんな目立つ陵墓を見逃すというのはない。そもそも横穴が空けられている。
ただ、それが墓荒らしの仕業ではないと確定できただけでいい。
それにだ。五福捧寿の紋様が壁に絵描かれていた。後で作られたであろう壁にだ。
死んだ皇帝に五福を願ったようにだ。
だが、別の視点から考えると、別の意味になる。
五福捧寿には五つの蝙蝠が描かれる。これが五福の意味になるのだが、蝙蝠には別の意味がある。
五百歳の蝙蝠は色白く、これを食べれば神仙となるという仙薬の材料に上げられるのだ。
私から言わせれば、白い蝙蝠ってどこにいるんだよって感じなんだけどね。
しかし、それも仙人になるには仙骨がなければ意味がないこと。
何にでも素質が求められる。
そして、その行き止まりの壁に何か術が掛けられた痕跡があったので、触らないほうが無難だと私は考えた。
「これでなんとなく理解してしまった」
「それでどうするんだ? 黎明?」
「あ〜。皇帝の寝室……ぐらいに何かあるかも」
「あるだろうな。それは初めから黎明が指摘していたことだろう?」
おっさんには言ったよ。
琅宋の寝室を粗探ししろって、でもさぁ私が入るところじゃないし。
「取り敢えず、出ようか。お腹すいたし」
「俺の背に乗っているだけのやつに言われたくないな」
「白! 白がいないと私生きていけない!」
私はそう言って白の背にしがみつくのだった。こんな狭くてカサカサ音がするところ発狂しないで進む自信がないよ。
そして私は許夫人に挨拶をして、この地を立ったのだった。
帰りに饅頭を買って、貸家に戻ったところで、私は家の中に入れない状態になっている。
「何か用?」
「我が主が呼んでおる」
王離のおっさんが、入口を塞ぐように立っていたのだ。いつからいるのだろう?
昼前に出たときにはいなかったので、そのあとなのだろうけど。
「ねぇ、空が見えている? もう、日が落ちているのだけど? あとはご飯を食べて寝るよね?」
「昨日、結局食事をとらずに帰ったそうではないか」
……確かに昨日は、帰ったけど? ご飯を食べなかったことに、文句を言われるとは思わなかったよ。
「はぁ~、明日にしてくれない? 私も色々忙しいのだよ」
「我が主がどういう存在かわかっておらぬとみえる」
これは脅されているの? 皇帝の呼び出しに応えよと。
「突然で準備ができていない。明日にして」
皇帝に会うには準備が必要だよねと言い返す。小汚いままで会うことができない存在だと。
そう言って、おっさんを押しのけて扉を開けて家の中に入った。ん? 嗅ぎ慣れない香の匂いがする。
いつも薬草やキノコの匂いが充満している貸家の中に、異物が入っていた。
周りに視線を巡らすと、ガシリと背後から捕獲された。
ぶっ殺す!
「黎明。琅宋だから殺すなよ」
私と捕獲した者の間に挟まれた白が、殺すなという。
懐からだした札を、なかったことのようにしまった。
皇帝を殺したとなると、私が殺されるじゃない。
「おっさん。不審者がいるから捕まえて欲しい」
私は視線だけで、扉の向こう側にいる王離に声をかけた。
「我は主の護衛であるが、不審者は周囲にはおらぬ」
皇帝の護衛なら、好き勝手にさせないで欲しいね。
「で、何の用?」
私はおっさんにした質問を、私を背後から捕獲している不審者に投げかけたのだった。
「おい、その前に俺を挟むな」




