第80話 失敗した!
「そうですか。失敗したのですか」
抑揚なく言葉を紡ぐ高皇妃。
「では、私がこの場にいるのもおかしなこと」
ん? おかしいと自覚している?
なんだか嫌な予感が!
「陛下は説明を求めておいでです!」
顔を上げていいと言われていないけれど、視線を高皇妃に向けて言った。
あ、首に何か怪しい術が浮かんでいる。
読み解こうと目を細めるが、すぐに消えてしまった。
なに? あの術。初めて目にしたのだけど?
「そのようなこと、聡明な陛下ならおわかりのことかと?」
私はその陛下じゃないので、わからない。
しかし、高皇妃に何かしらの術がかけられていることが確認できた。だけど、それは死体を動かすための術ではなかったということ。
だったら目の前のモノは何?
絶対に生者ではないことはわかる。
「陛下は高皇妃からの言葉が欲しいとのことです」
説明をして欲しい。本当に私は行き詰まってしまっているのだから。
「そう……長い話になるからこちらに来なさい」
そう言って、高皇妃は身を翻して宮の奥のほうに進んで行く。
これは、ついて行って大丈夫なのだろうか。
今のところ殺意のようなものは向けられていない。
私が一歩踏み出すと、前を行く高皇妃の頭が落ちた。
は?
首の付け根辺りから、切られたという感じに落ちたのだ。床に転がる頭部。
そして崩れていく身体。
さっきの謎の術!
まさか、現状の解除が行われたの!
なにがきっかけ?
いや、高皇妃は役目を終えたという感じだった。
「くっそー!」
私は高皇妃の頭部のところに行き、拾い上げようとするも、砂塵のように崩れていく。身体ももう形をなしていない。
あとは持ち物!
私は高皇妃が着ていた衣服を拾い上げ、そのまま宮の奥に向って駆けていく。
「術が解けている」
「あの女が術の中心だったからだろう?」
私の目には暗闇に浮かぶ朽ちた建物も内装が広がっていた。先ほどまで明るかったのが嘘のようだ。
壁に設置してある蝋燭を手にとり火をともす。燭台を手にし辺りを照らした。
崩れた天井。はがれ落ちた壁の絵。色褪せた支柱が光に浮かび上がる。
手当たり次第に部屋に入りめぼしいものがないか視線を巡らせた。
何処かに高皇妃がいた場所があるはずだ!
寝台がある部屋を見つける。
そこにある書物をかき集める。
思っていたより埃をかぶっていた。
私が想像したものじゃないかもしれないけど、情報が足りないので全て仙嚢に入れていく。
このあと、解決すれば外にいる人達が調査に入る予定なのだ。すると私は二度とこの建物には入れない。
悪いけど高家に関する証拠品は拝借するよ。
あとで芙蓉様を通じて返すから。
宮内をくまなく探し、あらかた回収したと思ったところで、地下に降りる階段を見つけてしまった。
「白。あれ」
「行かないという選択肢があるのか?」
「いや、この状況では無いのだけど」
行かなければならないのだけど、こういう地下はここ最近いい思い出がない。
どうしても二の足を踏んでしまう。
「饕餮のところにつながっているとかないよね?」
「それは行ってみないと、わからないだろう」
今までは白もいたけど霍良がいたから、心強かったけど。虫どもが出たら発狂するからね。
「はぁ〜。虫が出たら、全部燃やす!」
「その意気込みだぞ!」
私の肩にくっついているだけの白に言われたくない。
この地下がどうなっているかわからないから、壁に設置してある燭台から蝋燭を拝借しておこう。
しかし流石妃の住まう宮ってことだよね。
贅沢に壁の明り取りに蝋燭を使うなんてね。これを売れば……。
「黎明。さっさと行け」
「は~い」
私は白に促されてポッカリと開いた暗闇の穴に見える地下に降りていく。
「牢?」
降りたところは広い空間が広がっており、蝋燭の光に格子状の壁が浮き上がっていた。
近づくとやはり牢のように格子状の壁の先に空間がある。
え? 何故に妃が住まう宮の下に牢があるわけ?
これはただの物置と思っていい?
カツカツと格子状の壁に沿って進むも、両脇に牢の小部屋が繋がる空間が続いている。
「うーん。光が足りなくて牢の中が見えない」
「松明に変えるべきだ」
やっぱりそうだよね。
饕餮のところに行ったときに一本消費したから、あまり在庫を使いたくなかったのだけど、仕方がない。
私は木の棒を取り出して、先に巻いてある布に火をつけた。
徐々に火が大きくなり、内装の全貌がなんとなく見えてくる。
その火で牢の中が見えるように照らした。
「なんだろう? あれ」
何かが冷たい地面にある。よく見ると獣の骨にも見えなくもない。が、何かがおかしい。
ここで家畜を飼っていた?
便所の下に豚を飼うというのは聞いたことがある。そういうこと?




