第35話 わかった!寵妃がいるんだね
「芙蓉様に聞きたいことがあるのは、私です」
一人離れたところで、椅子に腰掛けている芙蓉様にいいます。
そう、なんだかあまり関係がよろしくなさそうな琅宋ではないと。
「どのようなことを聞きたいと?」
にこやかに、応えてくれる芙蓉様。
やはり、琅宋はこの場には必要なく、王離だけで良かったのではないのか?
「永寿宮に住んでいたという、高美人という人のことを教えて欲しいのです」
「高美人?」
「先程、永寿宮の中に入りました。琅宋……皇帝陛下がおっしゃるには――――」
私は宮で起こったことを芙蓉様に説明をした。その間は誰も言葉を発せず、怖いぐらいに静かだった。
「ですので、問題解決の糸口として高美人のことから調べたいと思っているのです」
「事を簡単に収めるということはできぬと申すか」
これは事を荒立てるなということかな? 根本的な解決を望まないのであれば、それも可能だけど。
「では、今回は宮を封じるということで、解決したとよろしいでしょうか?」
「それで、今後被害者が出ぬのであれば、それでよい」
「術士がいる限りそれはないでしょう。また新たなところで、別のことが起きるかと思われます」
「術士を排除しない限り、なくならないと申すか?」
「はい」
すると芙蓉様は大きくため息を吐いた。
後宮とは閉鎖された空間。何が起こったなど、なかなか外には漏れ出てこない。
もし、そのような話が外に出てくるのであれば、何かしらの調査で外部の者が入ったときのみだろう。
そう、今回のようにだ。
恐らく、芙蓉様は何かを知っていらっしゃる。それを隠したいのではないのだろうか。
「ここから東に一日ほど馬車で行ったところの東可に、先々代の皇帝の陵墓がある」
え? 何? お墓?
「そこに許夫人という者が世話人をしている」
許夫人? 全然話が見えてこないのだけど?
「元は 許婕妤の地位にいた者であるがゆえ。その者に尋ねるとよい」
これは……ここでは話せないので、知っている人を紹介してくれたということ?
高美人っていう人。凄くヤバい人じゃないよね?
「あの? お恥ずかしながら、妃の位がわからないのですが、身分の高い方という認識でよろしいでしょうか?」
「元召し使いからの成り上がりである。しかし、人に対する洞察力には優れていたから、側室に与えられる第2位の地位をえることになったのであろう」
あ……うん。後宮の怖さが垣間見えたような気がする。
下剋上っていう感じ。
「用がそれだけなら、妾はこれで……」
「あ! もう一つあるのです!」
芙蓉様がさっさと退出しようと腰を上げたので、思わず言葉を遮ってしまった。
無礼だと言われる前に、私は言い切ってしまう。
「皇帝陛下に仙桃を食べさせてしまいました。まさか、説明をされていないとは知らず、申し訳ございませんでした」
怒られるのなら、二度怒られるより、一度ですましたい。
私は椅子から立ち上がって、深々と頭を下げる。
炎駒には喜ばれている。しかし一度琅宋に、仙桃を食べるかどうかの選択をしたのは芙蓉様だ。
今の琅宋を認めている……のかは不明だけど、現状を良しとしているのであれば、謝らないといけない。
「仙桃を? 仙桃を食べさせたと?」
芙蓉様が立ち上がって、足早に私の方に近づいてきた。
ぶたれる覚悟はしている。
「よくやりました!」
私の両肩に手を置いて、声を張り上げる芙蓉様。
あれ? 思っていたのと違う。
「陛下はこの老婆の言葉を聞く耳など、お持ちではありませんから。先代の皇帝と同じく、あの小娘の言うことしか聞かず困ったものです」
あの小娘って誰?
思わず琅宋に視線を向けると、オロオロと視線を漂わせている。
あ! わかった!
寵妃がいるってことか。
ふむふむ。その人の言うことは聞くけど、芙蓉様の言葉は、ガン無視しているってことかぁ。
「我が一族の血は、残さねばなりません。血を絶やすなど、許されざること」
芙蓉様が怒っていることは、先代の皇帝と同じく短命の道を選び、血を残すことを拒んだ琅宋にだ。
「あの……それで、芙蓉様から説明をしていただきたいと……」
「黎明。皇帝陛下は黎明の言葉は耳に入るようですから、黎明が説明するとよいですよ」
芙蓉様は、入って来たときとは別人のようにニコニコと笑顔を浮かべて、部屋をでていってしまった。
えーっと結局高美人のことは、墓の世話人の元側妃に聞くようにってことか。
それで、琅宋への説明を、私に押し付けられてしまった。
えー。面倒くさい。
「黎明。凄く嫌そうなオーラが漏れ出ているぞ」
うるさいよ。白。




