第33話 知らない人からモノをもらったら駄目だぞ
「あれは、ちょっと厄介だね」
私は後宮の外に出て、どこかわからない部屋に通された。
もう、場違い過ぎて帰りたいのだけど、芙蓉様から直接依頼されたため、このまま帰るわけにもいかない。
私は作りがいい椅子に座っている。目の前には、香り高いお茶が出されていた。それも光沢感のある白い石の円卓の上にだ。
場違いも甚だしい。
その私の正面には皇帝の琅宋がおり、背後には甲冑をまとった護衛が控えている。
そして斜め前の席には炎駒が席についていた。
ということはだ。芙蓉様は同席は控えると言って、来てくれなかったのだ。
基本的にこの馬鹿は気に入った者の前にしか居座らない。ウロウロしているが、同じ場所にとどまらないのだ。
だから、芙蓉様が気を使って来てくれなかった。
因みにそこに控えている護衛は、人として認めていないのか、炎駒は視界にすら入れることは無かった。
たぶん、琅宋のオプションだと思っているのだろう。
「裏に術士がいる」
それは猫鬼のときにはわかっていたけど、外法はやり方さえ知っていれば素人でもできてしまうのだ。
だから、確信はなかった。
だけど、今回のことで確定してしまった。
「あの女性は殭屍だね」
「え? この前の奴と全く違うじゃないか」
「殭屍が後宮内にいるのでありますか!」
「王離。声が大きい」
琅宋のオプションが声をあげる。ガタイのいいおっさんが、後にいるだけで圧迫感を出しているのだ。
それに加えて大きな声を出さないで欲しい。
あの甘い飴というものでは割に合わない仕事だ。そうだ。割に合わないのだ。
「そう、今回のことはとても面倒くさそうな匂いがプンプンする。だから報酬はたんまりと出してよね。追加で飴というのもね」
「それはもちろんだ。それで飴というのは誰からもらったんだ?」
「おっさんから」
私は琅宋の背後にいる王離を指す。すると、琅宋が勢いよく後ろを振り向いた。
「王離が黎明に飴を?」
「はっ! 太皇太后様から黎明にと渡されたであります」
「太皇太后から……黎明。知らない人からモノをもらったら駄目だぞ」
いや、おっさんは一応顔見知りだし、私に飴を食べさせたのは白だからね。
「わかった。甘味は用意させよう」
「報酬」
「それも用意する」
皇帝である琅宋から言質をとった。そして麒麟の炎駒もいるから、働き損にはならないだろう。
「あの殭屍の女性の肉体は誰か知らないけど、もしかしたら魂は本人かもしれない」
「意味がわからないが?」
「反魂の術だね。これは禁術。適当な死体に別の魂を入れて、まるで生きている人のように動く死体だね」
流石に肉体が、本人のものというのはないよね。二十年も経てば、死体は腐って骨になっている。
「魂というのが、高美人の本人のものである理由はなんだ?」
「それは予想ね。根拠はないけど……炎駒を見て、麒麟と言っていたよね。あと、火事になる前の内装を幻術で再現していたので、宮に未練がある人というぐらいだね」
ただ解せないのが、琅宋を見て皇帝と認識したことだ。
「それで、その高美人が何故、死の呪いをばら撒くことになる」
「いや、知らないよ。だから高美人を知っていそうな芙蓉様に来て欲しかったんだよ」
そもそもこれは、一筋縄ではいかない気がしている。縄が、がんじがらめに絡みついているような不快感がある。
「わかっていることは、謎の死を呼ぶ赤子の声。内装が昔に戻った宮。そこにいた謎の殭屍。自我をもつ殭屍を作る術士が背後にいる。その術士は外法の猫鬼を作り出していた。その術士は先代の皇帝の死に関わっているのでは?というぐらいかな?」
「は?父上の死?」
琅宋は、考えもつかなかったと言わんばかりの驚きようだ。
あれ? 不自然なことってなかったのだろうか。
「炎駒。だんまりだけど、どうなの? 琅宋への呪を抑えているのは炎駒だよね」
「それぐらいの呪は力を解放すれば、弾き飛ばせるよ。あと、もうちょっとなのだから、頑張りなよー」
答えているようで、炎駒は答えていない。ただ、琅宋に向けられた呪の存在だけを肯定した。
「で、発端は先々代の皇帝の時代だと予想。その妃の高美人の未練が利用されている。だけど色々噛み合わないことがあるのも事実。一言で言えば、情報が全く足りないので、対処的にしか私は対応できないということ」
呪いの発端となっている宮を封じるだけで、根本的な解決は今のところできないということだ。




