第28話 角は生えるよね?
結局、麗香さんの許可が出たので、琅宋はこの場にいていいことになった。
いや、正確には私と琅宋が平行線だったのを麗香さんが止めて、私に折れるように言ったのだ。
だから琅宋には少し離れた場所で長椅子に座ってもらっている。
凄く偉そうに座っている琅宋を横目に、私は寝台の上に横たわる姜昭儀様を見下ろす。
はっきり言って、普通であればこのような状態からの回復の見込みはない。
そもそも順番が違うのだ。
本当であれば、赤子の鳴き声というものを解決しないと駄目なのだ。
「麗香様。一つ事前に申しておきます」
「はい。なにでしょうか?」
「今から使う術は血族なので使える術です。だから他にこのような状態の人がいても同じ方法は使えません」
「……それは他の者は、治す方法がないという意味でしょうか?」
そうではなくて、赤子の泣き声が聞こえるという宮に連れてって欲しいと言ったはずです。忘れてしまったのでしょうか?
「違います。先に赤子の方を解決しなければ、治すことができません。ということは、これはかなり強引な方法だと理解してください」
「治らないのに、治そうとするなどおかしなことを言うのですね」
……それを、あなた達が望んだのではないのですか!
「はぁ、私は言いました。赤子の泣き声がする宮に連れて行ってくださいと。それを許さなかったのは誰です」
「ひっ!」
「黎明。力が漏れているぞ」
はぁ〜。
白に指摘されて、高まった力を抑える。
「そこの者。黎明はその辺りにいる似非道士ではない。そなたの役目は太皇太后にありのままを報告することだ。そなたの愚行もだ」
床に尻もちをついてしまった麗香さんは、足で床を蹴って私から離れようとしている。だけど、力が入らないのか移動ができていない。
琅宋の言う通り、似非道士がいるのも本当のことだ。
というか、言葉を巧みに操って物事を解決したように見せるものがいるということだ。
ただ、仙人を目指す道士にそのような者はいない。悪業を働けばその分仙界への道は遠ざかるのだから。
でも敢えて、仙術を悪事に使う者もいるのも事実。だから、このようなことが起こっているのだけど。
そんな麗香さんを無視して、私は姜昭儀様の胸元を開ける。骨が浮き出た胸元が見えるぐらいだ。
そして、額にかかる髪を避ける。青白い顔に生気は全く無い。
このまま放置しておけば、一週間も持たないだろうね。
私は右手の人差し指を白の前に出す。すると白のふわふわの肉球が人差し指に当たった。
「いっ」
爪がぶすっと刺さる。白の尖った爪が指に刺さったのだ。
そしてぷっくりと赤い血が浮き上がる。
寝台に横たわる姜昭儀様の額に『門』と書く。そして心臓の上に『焔』と書いた。
「夜と朝の間の夜明けの色の焔を灯せ」
ドクンと姜昭儀様の体が鼓動する。
「その焔を体に巡らせ邪を払え、そして目覚めよ世界に忌むべき力よ」
ドクンドクンと大きく力が鼓動する。段々と速くなり全身に力が巡っていくのが見える。
もうこれぐらいでいいか。
額に書いた『門』を『閉』に書き変える。
すると今まで鼓動していた力が嘘のように消えていった。
普通の人ではその身を滅ぼすだけの紫焔帝の力。なかったように封印する。
「はぁ。終わり。どこか変なところないよね?角が生えているとかないよね?」
私は顔色がよく普通に呼吸を繰り返す姜昭儀を観察する。大丈夫そうだ。
「無いな。流石に角が生えていたらわかるだろう」
白のツッコミに後ろから笑い声が聞こえてきた。その笑っている奴を睨みつける。
なに笑っているの!
「角って、人に角は生えないだろう」
笑っている琅宋をジト目で見る。
え? 何を言っているわけ?
「生えるから」
「生えるぞ」
「黎明も白も何を言っているんだ?」
芙蓉様! 何故に琅宋に教えていないの!
はっ! まさか仙桃を食べないことを選んだ琅宋には、必要ないと思って話していなかったとか?
私、琅宋に仙桃を食べさせてしまったよ。あとで説明しておかないと、大変なことになって、私の所為になっても困るよ。
取り敢えず体裁だけでも整えておくか。私は琅宋に向かって頭を下げて礼の姿をとる。
「姜昭儀様はもうすぐお目覚めになることでしょう。術の影響は無いと思いますが、何かあれば退魔師協会を通じて、この霍道士をお呼びくださいませ」
直接家に来るんじゃないと言っておく。
貧民街に軍の兵が押し寄せてきたら、周りの住人に迷惑極まりない。
「霍道士。こちらにこい」
なに?
皇帝である琅宋に呼ばれたから近づいていく。笑っていて皇帝らしくない琅宋にだ。
その皇帝の前に立つ。
何を笑っているという見下した視線つきでだ。
すみません。29話は月曜日中には投稿します。




