第24話 帰れたらいいな
「何故に人の姿のままなわけ?」
私の首根っこを掴んだままの白に尋ねる。
しかし、馬車の中って狭い。私と白が横に並んでいっぱいいっぱいなんて。
「今から行くところは獣が入れるような場所じゃないだろう?」
確かにそうかもしれない。芙蓉様がいるところは、皇帝がいるところだし、政治の中枢だ。
いや、流石に窮奇は駄目だろうけど、猫はいけるのではないのか?
ほら、ネズミ駆除で飼っているとか聞いたことがあるし。
「それにあの皇帝ではなくて、芙蓉がってところが気になるだろう?」
そう言えば、芙蓉様が私に用があるなんて、どういうことなんだろう?
昔、母と一緒に行って片手で数えるほどしか会っていないのに。
ガタガタ揺れていた馬車が振動が少なくなり、スムーズに走るようになった。
もしかして、お偉いさんたちがいる場所に入ってしまったのだろうか。
横を見ると、甲冑をきた集団しか見えないので、どこを通っているのかわからない。
絶対にこれは連行されていると思う。
「あー。これが終わったら、拠点を変えようか」
別に瑞曉に拘る必要はない。退魔師の仕事は各地にあるのだから。
「帰れたらいいな」
「怖いことを言わないでもらえる? 白」
ああ〜。もうここから脱走したい。
「よく来てくれましたね。黎明」
私はどこに到着したのかわからないまま、目の前にある建物に入るように促された。
そして私を迎え入れてくれたのが芙蓉様である。
彩色豊かな室内に、品よく長椅子に座れられている老夫人。白髪が目立ちその顔には生きた年月を思わせる深いシワが刻まれている。
そう、仙女となった母とは違い。妹である芙蓉様は年相応のお姿をしている。
私と琅宋の年齢が逆転したように、芙蓉様は母とは違う年月を生きていたのだ。
「お久しぶりです。芙蓉様」
そして私と言えば、どこの馬の骨ともわからない薄汚い格好をしているのだ。
あのおっさん、よくこんな薄汚い小娘を皇帝の祖母である芙蓉様に会わせようと思ったよね。
せめて着替えてから出直して来いという立場だろう。
「そこにおすわりなさい」
「はい」
私はなんとも豪勢な刺繍がされた長椅子に腰を下ろした。これ普通に座っていいんだよね。
そして白は私の背後に陣取る。いや、流石にここまで来て逃げないよ。
「霊獣様もおすわりになってください」
「いや、俺はここでいい」
なんだか、白がピリピリしている。どうしたのだろう?
まるで、何かを警戒しているみたい。
気になって私なりに探ってみたけど、コレと言って問題は見当たらなかった。
「そうですか」
白が座らないと言ったけれど、美人のおつきの人が白の分のお茶を出してくれた。
が、何故か私のことをギッと睨んでくる。
そうだよね。こんな小汚い小娘をこの場に入れるなんてという感じなのだろう。
私も帰りたいよ。
「実は黎明に頼みがあるのです」
「虫地獄はいやです」
先に先手を打っておく。琅宋の遊び相手になって欲しいとかは嫌だ。
「姉から聞きました。あの子にはきちんとしかっておきましたと。プレゼントは可愛いものにしなさいと」
「そこに生き物以外でと付け加えてほしいです」
「そうですね」
芙蓉様はころころと笑い出しました。あの、芙蓉様からすれば、子供のいたずらかもしれませんが、私からすれば笑い事ではないのですが?
「貴女! 太皇太后様になんという口の聞き方を!」
おつきの人に怒られてしまった。
はぁ、こういうところって身分とか面倒なことを言い出すじゃない?
だから嫌なんだよね。
「貂華。口を閉じなさい。貴女に話す許可は与えていません」
「しかし太皇太后様。この娘はあまりにも無礼。このような……」
「口を閉じなさいと私は言いましたよ。三度目はありません」
強い口調でおつきの女性を叱咤する芙蓉様。流石太皇太后という威厳がある。
怖いね。
「黎明は、姉の娘だと事前に言ったはずです。仙女である姉の娘という意味が理解できなかったのですか? 貂華。貴女は下がりなさい」
芙蓉様に言われて部屋を退出する女性。しかし、一人が出ていったからといって、他にもおつきの人はいっぱい壁際にいるのだけどね。
何ていうのだったかな? 女官かな? 侍女かな?
「躾がなっていない者がいて、ごめんなさいね」
「あ、いいえ。場違いなのは重々承知していますので、帰れというのであれば、脱兎の如く帰ります」
「黎明に頼みたいことというのはね」
私の帰る宣言を綺麗さっぱりと流されてしまった。
これは帰るのは許さないと言われている?
まさか、本当に白の言葉が当たるなんて。
『帰れたらいいな』
駄目だ。帰りたい。
私には待っているお布団がいるのだ。
あの、甘い飴に釣られるんじゃなかったよ。




