第25話 実質の後宮の女帝から依頼をされてしまった
私はトボトボと白い猫を肩に乗せて何処かわからない場所を歩いている。
私の行く先には案内人兼付き人の麗香という女性が歩いていた。
芙蓉様のおつきの人の一人だ。
私は贅沢にお湯が張られた大きな湯殿に突っ込まれ、絹の布で体を磨かれ、交領長襖裙を着せられていた。
今まで着たことがない綺麗に仕立てられた服。そして下にはひらひらとした馬面裙を履いている。
露出度がない服で良かったよ。
無い胸を強調させられる服を着させられるのかと、ドキドキしたからね。
そう、私は帰してもらえずに皇帝がいる城の中にいるのだ。
城といっても、たくさんの建物があつまって、一つの街のようになっている。
綺麗に整備された石畳を歩きながら周りを見渡すも、同じような建物が目に入り、もうどこをどう通って来たのかもわからない。
「ここからが後宮になりますので、通常は出入りは禁じられています」
麗香さんの言葉に大きくため息がでる。
橋の下には堀があり、橋は跳ね橋になっている。出ていくものを拒絶するというより、外からの侵入者を拒む作りだ。
ここで籠城が可能ということなのだろう。
そして、左右に広がる高い石の塀。
言っておくけど私は後宮の妃の仲間入りをしに来たのではない。芙蓉様に仕事を頼まれたのだから!
とジロジロとこちらを値踏みしてくる門兵に向かって心の中で呟く。
そう芙蓉様に頼まれたのだ。
「皇帝陛下から黎明の話は聞かせてもらいましたよ。道士として立派だったと」
……琅宋。どこが、私が立派だという評価に繋がったのかな?
皇帝が絡んできたから面倒で、後始末を放り投げたのに?
「頼みたいことは、道士としての仕事です。三ヶ月ほど前から、後宮のある宮で赤子の泣き声がするという奇妙な出来事が起こっているのですよ」
後宮内で赤子が泣いていることなんて、普通なら問題はないだろう。
だけど、現皇帝には子供がいない。
白が言っていたように自分の血を残そうとしていないのだろう。
「そして、その泣き声を聞いた者は病に伏せり、起き上がることもできないと聞いています。太医に姜昭儀を診てもらったようですが、手の施しようがないとのことなのです。黎明の力を貸してもらえないかしら?」
疑問形で問われているけど、これは断れない依頼です。そう、断れば帰り際に私の首が吹っ飛ぶであろうと予想できます。
霍芙蓉。実質内廷を掌握している人物です。
だって、今の皇帝には皇妃がいないからね。
そう!皇妃がいない。
いないわけないじゃないと思うところだけど、琅宋にも呪がかけられているのを見ると、なにかがあるのだろうと思ってしまう。
まぁ、芙蓉様が言いたいことは二つだ。何処かの宮で泣いている赤子の正体を探ってなんとかしろと、医者に診せてもどうにもならない妃を治せということだ。
階級がわからないから、どれほど偉い妃なのかわからないけどね。
「それであれば、龍善寺の恵果和尚は如何でしょう?私のような無名の道士より、ご高名の僧の方が信頼もあるというもの」
小汚い小娘が、内廷を仕切っている女帝と言っていい人物と、親しげに話しているのを良しとしない人たちはいる。
いくら、芙蓉様が私のことを『姉の娘』と言っても、年が合わないのだ。
だから疑心が生まれる。それは私が芙蓉様に取り入ろうとしている愚者に見えることだろう。
私はものすごく帰りたいオーラを出しているのに、帰らせてもらえないんだからね。
「老僧といえども、男を後宮内に入れることはできぬ。だからこそ、姉の娘である黎明に頼んでいるのですよ」
そうでしょうね。男性機能を失わせて後宮で官吏として扱っているのだから、ここはとても怖いところだね。
「わかりました。芙蓉様の期待に応えられるように最善を尽くします」
「嬉しいわ。それでは、さっそく準備に取り掛かって、皆のもの黎明を仕立て上げなさい」
「「「かしこまりました!」」」
え? 仕立てる?
「そうね。霍道士とここでは名乗りなさい」
霍家。紫焔帝の血族であり、現在この国ではかなり権力を持った家である。
別に偽名ではない。私の母の名は霍玉瑛なのだから。
だけど、面倒事がつきまといそうだから、名乗っていないだけだ。
そして後宮内ももう何処をどう歩いたのか、さっぱりわからない状況になってきた。
目の前には鮮やかな赤い建物がある。
例の赤子の泣き声が聞こえる宮というところだろうか。
「姜昭儀様の景仁宮がこちらになっております」
あ……先に寝込んでいる妃の人を診ろってことね。でも、原因がわからないと対処のしようがないんだけどね。
私は麗香さんの後ろについて建物内に入ったのだった。
うっ……なに? 建物に入った瞬間、ものすごく御香の匂いが鼻についた。周りを見ると、至るところに香炉が置かれ、そこからモヤモヤと煙が出ている。
確かに香の匂いは邪を祓うとか、場を清めるとかあるけど、こんなに焚いてもけむいだけだから!




