第13話 桃は邪を祓う
「二階もいなかった」
二階は何故か一階より広くなっていた。これは階層が上がるたびに広くなっている可能性がある。
「何を探しているのか教えてくれないか?」
「琅宋。食べるといい」
私は二階の一部屋に結界を張って、今日はここで休むことにした。皇帝がいるけど。床に座って、その皇帝様が食べないような竹の筒の中にご飯が詰められているものを渡す。
「王離も食べるといい」
偉そうな武官様にもだ。
はぁ、絶対に外では騒ぎになっているんじゃないのかなぁ。
だって、屋敷の周りにはたくさんの人の気配があったし。
「黎明。何を探している?」
再度聞かれてしまった。しかし、ここで話すことではないのだけど。
いや、結界を張っているから大丈夫かな。
「疫鬼かなぁと」
「確証がないのか?」
「状況判断だからね」
「しかし疫鬼がここまでのことを?」
え? 疫鬼にこんな力はないよ。
「違う。違う。血を噴き出して死んだっていう原因が、疫鬼ではないのかと思ってね。まだここにいるようなら、始末しておかないと」
ここの家の者たちが死んだ原因だと言われている血を噴き出す奇病のことだ。
外から感じた気配だと、まだ疫鬼は屋敷内にいるはずだから。
「ということは、他にもいると?」
「うーん? 話を聞く感じでは無骨で真面目という人だったらしいけど、私からすれば、相当に人から恨まれている人ではなかったのかなぁと」
私は、疲れた様子で竹筒飯を黙々と食べている王離をちらりと見る。昨日ここに来ていたということは、死んだ武官の知り合いの可能性がある。
「王離から見た……誰だっけ?『政頼だ。馬鹿』うるさい、白。その政頼ってどんな人物だった」
「……これは悪夢にうなされそうだ。我がうなされていたら、獏に悪夢を食わせてくれ」
相当参っているらしい。淀んだ目をしながら、質問の答えではないことを言っている。
それから私は霊獣使いではないので、獏に悪夢を食べさせることはできない。
「ここでそんなことを言っていたら、上の階層には行けないよ」
あと三階層あるのだ。ムシ共が巨大化したぐらいで参っていたら話にならない。
「まだ、妖魔は出てきていないのだからね。仕方がないなぁ」
私は仙嚢から取り出したものを、王離に差し出す。
ああ、私が食べたい。食べたいのをぐっと我慢して受け取らない王離に強引に渡した。
「桃は邪を祓う。食べれば、数日は効力があると思う」
「ここここれはもしや……仙桃……流石にこのようなものをいただくわけにはいかぬ」
先程まで淀んだ目をしていた王離は、正気が戻ったかのように私に桃を突き返してきた。
やはり多少道士としての素質があっても、修行していなければ、この場に満ちている邪気の影響を受けるようだ。
「持っているだけでも効果があるみたいだね。食べるのに抵抗があるなら、腰にでも吊り下げておけば?」
「流石に腰には……」
そう言って王離は仙桃を布でくるんで、袍の懐の中に入れた。
……なんだか潰れそうなのだけど、大丈夫なのだろうか。
「それで王離から見た政頼という人物はどんな人?」
「うむ。元部下をこのようにいうのは忍びないが……」
部下だったのか。そう言えば酒場の店主が、下位の武官と言っていた。それで皇帝を守ったという功績に対して将軍に? ちょっと飛びすぎじゃない?
「人に付け入るのに長けた者だった。人の弱みを握って、人をいいように扱っていたところがあった。しかし、表面上は生真面目な者を装っていた。それを知っていたゆえに、我はあの者を昇格させることはなかったのだが……」
ああ、多くの目があるところでは、真面目に働いている風でいて、裏ではこそこそと別の者に手柄を立てさせて、さも自分がやったかのようにしていたってことかな?
そうなると、皇帝を守ったという話も怪しくなってくる。
いや、今はそこまで詮索することではないよね。
「ということは、いろんな人から恨みを買っていたわけだ。だから、この有り様なんだけど」
私は肩をすくめて言う。本当に酷い有り様だ。
「死因は疫鬼だろうけど、呪詛をされていたと思う」
「疫鬼と呪詛は違うのか?」
「疫鬼は妖魔だ。だけど呪詛は外法の呪術で作られたものだ」
本当にこの術はえげつない。よくもまぁ、これ程のモノを作り出したものだと感心するぐらいだ。
「ということで私が探しているのは、疫鬼と呪詛で作られたモノだね。わかったら、食べて寝るといいよ」
休めるときに休まないと身体が保たないからね。外の光が入ってこない薄暗い屋敷の中では時間感覚もない。そして襲いかかってくるムシ共。
歩くだけでもかなり疲弊しているだろう。
「黎明は食べないのか?」
「え? 毒は入ってないよ。王離も食べているし」
毒が入っていると疑っているのだろうか、琅宋は一口も食べてない。それとも私が毒見をするべきだと、遠回しに言われているのだろうか。
「いや、黎明の手料理にそんな疑いはかけていない。しかし……」
「琅宋。これを作ったのは私じゃなくて白だからね」
私が作ったと勘違いしている琅宋の言葉を遮って、訂正しておく。私の肩に乗っかっている白い猫を指しながらきっぱりと言ったのだった。
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