第14話 餌付け
カラカランっと床に軽い木の棒でも転がったような音が聞こえた。そちらに視線を向けると、ワナワナと震えている王離がいる。
「白猫様が作ったもの……こここここの中には何が入っているのだ! 我が主よ。食するのは……ああああ! 食べてしまっていらっしゃる!」
「おっさん。うるさい!」
突然騒ぎ出した王離に向って、半分に割った竹の片割れを投げつける。そんなことで騒がないで欲しい。
「美味しい。霊獣が案外器用だったとは知らなかった」
先程まで竹筒飯に手をつけていなかった琅宋は、興味でも湧いたのか食べ始めた。
「そうだろう。美味いだろう」
白は自慢気に威張っている。見た目は白猫だけどね。
「ほら、全部食べたら、そのへんの床で寝てよ。寝ないと保たないよ」
いや、この部屋にはしっかりとした木材で作られた寝台がある。 しかし、気味が悪くてそんなものは使えない。
だって、今まで同じ様な部屋がいくつもあった。空間の歪みによって同じところをぐるぐる回らされているのかもしれない。
「黎明も食べて休まないと」
そう言って琅宋が竹の筒を私に差し出してきた。でも私は首を横に振る。
明日ここから出られるか、それとも明後日か、それとも1ヶ月後かわからない。
私は食べなくても大丈夫なように修行してきた。
それに私には仙桃という特攻物がある。これさえあれば、私は無敵なのだ。
「いいから食べろ」
「黎明は食いしん坊だから、口の前にもってくると食いつくぞ」
「白!」
いらない情報を教えないで……はっ! 竹の匂いをまとった美味しそうなご飯が!
ぱくり……美味しい〜! 流石。白が作ったご飯だ。
「本当に食べた」
声をするほうに視線を向ければ、私に匙を差し出している琅宋が驚いたように目を見開いている。
……やってしまった〜!
「そうだろう? 天行様が黎明に栗とか餅とかを食べさせていたからな」
それは、仙桃ばかり食べている私を怒った母から仙桃禁止令を出されてしまったときのことだ。だから意地を張った私は食べることをボイコットしたのだ。
すると父が焼いた栗を口の中に入れてきたり、小麦の粉を練って焼いた餅を食べさせてきたのだ。
甘い栗の美味しさに負けたのは認めよう。
焼いた餅香ばしい匂いに負けたのは認めよう。
それから父は美味しいものを私に食べさせてくれたのだ。それは条件反射で口を開けてしまうというもの。
「黎明。あ〜ん」
「ぱくっ」
「か……かわいい〜」
くっ! これは白の美味しい竹筒飯に負けたんだからね。
そして、結局丸々一つ食べてしまった。
「食べたのならさっさと寝るといい。ここは結界を張っているからゆっくりと休める」
そう言って私は意気消沈のまま毛づくろいをしている白を抱き上げる。
「黎明、一緒に寝るか?」
「我が主!」
琅宋。そろそろ、おっさんの血管がブチ切れそう。
皇帝に、こんな小娘を近づかせるのは本意じゃないだろうし。いくら、従姉弟とはいえ、物事には限度がある。
まぁ、見た目は私の方が年下になってしまって、クソガキ扱いだろうけど。
「私は白がいないと寝れないから、白と寝る」
そう! 私は白がいないと寝れないのだ。
ここにはおふとんがない。私のふかふかのおふとんがないのだ。
いや、仙嚢の中には入っているけど、虫どもにまみれた身体に掛けて、わたしのおふとんを汚したくない。
「白」
「仕方がないなぁ」
私は部屋の端に白い猫を置いた。
入口の扉に近い場所にだ。なにかあれば、私が対処しなければならないしね。
すると白の身体が巨大化し、翼が生えた白虎の姿になった。
床に横になった白虎の身体にダイブする。
ふかふかの毛皮。ちょっとゴロゴロうるさいけど、子守唄のようなものだ。
そして私にかけられる、白い翼のおふとん。
虫どもに占領された屋敷だけれども、睡眠はきちんと取らねばならない。と、言い訳をしている間に、意識は眠りの淵に落ちていったのだった。
*
「『霊獣』殿の意見を聞きたい」
琅宋はすやすやと眠っている黎明を見ながら、饕餮に声をかけた。
「なんだ?」
人の頭部なら一口で噛み砕いてしまいそうな鋭いキバを見せながら、律儀に聞き返す白。
「俺は『仙桃』を食すべきだったか?」
「お前、その血を残す気がないんだろう? だったら、暗愚の皇帝のフリを続けていればいいんじゃないのか? 別に俺には関係がないことだし」
白は琅宋の言葉に答えているようで、答えていなかった。
仙桃を食べて、己の寿命を伸ばすべきだったかという問いに、生きる気がない者は暗愚の皇帝を続けていればいいと答えたのだ。
「別に俺は誰が皇帝になろうが、関係などない」
あまりにもの正論に、琅宋は苦笑いを浮かべた。饕餮である白にとって、誰が人の世を治めようが、関係のないことだと。
「ならば、言い換えよう。この先何が起こる?」
「さて、俺は黎明のおもりを任されただけだ。お前が皇帝というなら、麒麟にでも問いかけてみればいい」
そう言って白はこれ以上答える気はないことを示すように、黎明を抱えるように丸まり、目を閉じたのだった。
遅くなりました。
次回も書き上がり次第投稿します。




