6.封印という名の入口
「で、どーしてお前が居るんだよ」
「どうしてって、決まってるじゃない!」
、
サロスダンジョンの通路を歩きながら、俺は呻くように声をあげた。
ふふんっと無い胸を張りながらフィーネが答える。
「魔法の品物の回収だったらわたしが一番適任だからよ!」
「とかいってお前、魔力球ネコババするつもりじゃねーだろうな」
「そ、そんなわけないじゃない!」
フィーネはそう言って俺の言葉を否定すると、ほほほと高笑いをあげた。
……まあ、そんなことだろうとは思ってたけど。
魔力球はパッと見じゃわからないし、他にも価値のある魔法のアイテムがあるかもしれない。
だから魔法に詳しい自分が行くべき! とのフィーネの勢いに押し切られたのだが……。
「ほら、早く行くわよ!」
「魔力球は渡さないからな」
「小さいわね、だからモテないのよ」
まあ、いざとなったらこいつを盾にして逃げるか。
そんなことを考える間にも、ゴーレムが罠を、ゴブリンを粉砕していく。
壁から生えた木の槍や、ゴブリンの棍棒の一撃はゴーレムに傷一つつけることなく折れて吹き飛んでいくが、もしゴーレムではなく俺に当たればそれは致命傷になる。
十分注意して進む必要があるし、盾は多ければ多いほどいい。
「またここに来ることになるとはな……」
前回来ていることもあり、封印のある部屋まではすぐにたどり着くことができた。
下へと下る階段に、それを塞ぐうっすらとした青い膜。
そしてその横に書かれた大きな文字。
『許可なきものの立ち入りを禁ズ。
フィルフォード王国 聖遺物管理部』
前回は許可がなく入れなかったが、今回は違う。
俺は千歳から受け取った鍵をポケットから取り出そうとするが、
「ほら、なにボサっとしてるのよ!」
「馬鹿、お前――」
それよりも早く、フィーネが階段目がけて歩いていき――
「ぐべっ!?」
目に見えない障壁に弾かれ、反動で地面と激しくキスをする。
……馬鹿か、こいつ。
内心思いつつ――多分顔にも思いっきり出ていただろうが、ともかくフィーネを助け起こすとポケットから鍵を取り出した。
「さて、こいつを……どうすりゃいいんだ?」
「あんただって知らないんじゃない」
「だからっていきなり突っ込んだりはしないけどな」
言いつつ鍵をかざしてみるが、なにも起きない。
フィーネが鍵を奪おうと手を伸ばしてくるが、それは無視して今度は障壁に近づけてみる。
特に鍵に埋め込まれた宝玉が光るとかいうこともなく――だが、そのままさらに鍵を持った手を伸ばしてみると、まるで障壁などないかのように手は障壁の奥へとすり抜ける。
そしてそのままゆっくりと体を障壁の奥へと押し込んでいく。
特に抵抗もなく――俺は障壁の奥の部屋へと通り抜けていた。
「ちょっと、わたしも通しなさいよ!」
障壁を挟んだ向かい側でフィーネが喚いているのが聞こえる。
さらに、ゴーレムが俺について来ようとして――障壁に弾かれていた。
入るときと同じく手からゆっくりと障壁の外へと戻る俺。
これはもしかして……
「ほれ」
「ちょっと、何を――」
抗議の声を無視して、俺はフィーネの手を握ると再び障壁の中へと歩いていく。
さっきの衝撃を思い出したのかぎゅっと俺の手を握り返す力が強くなるが――
「……あれ?」
「通れただろ?」
拍子抜けした声をあげるフィーネ。
障壁の向こうではゴーレムがついて来ようとして障壁に弾かれていた。
俺はフィーネの手を離すと再び障壁の外へと戻り、ゴーレムと手を繋ぎ――というか触りながら、障壁の中へ。
その様子を見ていたフィーネが閃いた! とばかりに目を輝かせて、
「ちょっと、その鍵寄こしなさいよ!」
「なんでだよ」
「わたしもやってみたいからよ!」
「……なくしそうだからやだ」
俺はゴーレムから手を離し、その状態で今度はゴーレムに障壁の外へと戻るように指示を出す。
ゴーレムは障壁に向かって歩いていき――やはり障壁に押し返されて外へは出れない。
やはりこの障壁は外から人を入れないという目的のほかに、中から危険な魔物が外へ出ないようにという意味も込められているようだ。
つまり、鍵をなくしたら再入場はおろか出ることすらできなくなる。
そんな大事な鍵をこいつに預けるなんて自殺行為、誰がやるかっていう話だ。
「ほれ、さっさと行くんじゃなかったのか?」
「なによ、ケチ!」
装備も人員も揃っていたはずの調査隊が全滅したという下層へと続く階段。
――緊張で喉が渇く。
フィーネも緊張しているのか、口では威勢がいいものの一向に階段を降りようとはしなかった。
よし、やっぱりいざとなったらこいつを盾にして逃げよう……。
そんなことを考えながら俺は、ゴーレムの後をついて階段を下りていったのだった。