7.ストーカーという名の金の種
「うおっ!?」
キンッ!
ゴーレムの体に当たって弾かれた矢が通路の壁に突き刺さる。
俺はタイミングを見計らってゴーレムの横から顔を出すと、手にした札を握りしめて叫んだ。
「ライトニングランス!」
札が燃え尽きると同時に放たれた稲妻の濁流が弓を、剣を持ったゴブリンたちを薙ぎ払う!
少しして、ひょこっとゴーレムの横から顔を出すフィーネ。
「もう居ないよな……?」
「……そのようね」
階段を下りる前までは通路に苔が生えていたりと風化した遺跡という感じだったのだが、階段を下りた先は何者かに手入れされた、例えるなら要塞といった雰囲気を醸し出していた。
出現するモンスターは相変わらずゴブリンがほとんどだったが、武器が剣や弓といったより殺傷能力の高いものになっていた。
しかし、それよりも恐ろしいのは――
「こいつら、明らかに連携してたよな」
そう、まず弓を持ったゴブリンたちが先に矢を射かけ、その直後に剣を持ったゴブリンたちが一斉に切りかかってきた。
まあ、すべてゴーレムに弾かれていた訳だが。
さすが俺が魔力を込めて造ったゴーレム、勇者以外にはそうそう負けないな。
灼け焦げたゴブリンたちの死体を回収するゴーレムを見ながら、俺は満足げに頷いた。
「本では読んだことあったけど……初めて見たわ」
「本?」
「ええ、普段私たちが会うモンスターは各々が本能のまま好き勝手してるだけなんだけど……たまにリーダー、っていうか王みたいな個体が現れて、統率を取って動くことがあるとか」
「てことは、調査隊はこいつらにやられたってことか?」
「それは……どうかしらね。統率が取れてるとはいえ所詮はゴブリンだし、エリートである調査隊を倒せるとも思えないけど……」
「なんにしろ、注意して進んだ方がいいってことだな」
ていうかゴブリンの矢でも刺さったら俺、死ぬし。
こんなことなら鎧でも着てくれば……でもあれ、重いんだよな。
前に商品の重鎧を着てみたことがあったが、動くことはおろか一人で脱ぐことすらできなかった。
先手を打てれば大体どんな敵でも魔法で一撃なんだけどな……。
「ライトニングボルト!」
俺の言葉とともに現れた複数の雷球が、通路の先に見えるゴブリンたちを吹き飛ばす。
札は多めに持ってきたし、こうやって慎重に進んでいけば大丈夫なはず……。
現れるゴブリンたちを吹き飛ばしては進み、ゴーレムが罠を物理的に潰しては階段を降り、先へ進み……。
下へと続く坂道を下りながら、俺は疑問に思っていたことを口にした。
「……なあ」
「ん?」
「なんか、やたら敵多くねぇか?」
ゴブリンたちを吹き飛ばし、少し進むとまたゴブリンたちから攻撃を受ける。
下層だからといえばそうなのかもしれないが、それにしても頻度が多い気がした。
まるでゴブリンたちが俺たちの居場所を知っているような――。
「また来たわよ!」
「ライトニングボルト!」
雷球が辺りを照らし、ゴブリンたちを吹き飛ばす。
その余波を受けたせいか、フィーネの影が一瞬大きく揺らめいた。
……なんだ? 一瞬――しかし無視できない違和感を覚えて、俺は足を止める。
「どしたの?」
「動くなよ」
俺はフィーネにそう言うと、ポーチから札を二枚取り出して構える。
そして二人の影から視線を外さずに、
「ライティング……」
ダンジョンの通路を光が包み込む。
まばゆい光を放つ光球に真上から照らされて、俺の、フィーネの影は形を変えて――俺たちに襲い掛かってきた!
やっぱり――っ!
俺はすかさずもう一枚の札を構え、力ある言葉を解き放つ!
「ファイアボルト!」
「きゃっ!?」
俺が放った火球は襲い掛かってきた影を蒸発させ、そのまま地面をえぐり取る!
その跡には――本体だったのだろうか、煮立った黒い液体が地面に水たまりを作っていた。
「シャドウストーカー……」
「知ってるのか?」
「人の影に溶け込むことができるモンスターよ。居場所を教えたり、影から攻撃できたり」
「また厄介な……」
こいつはさすがにゴーレムでは回収できないのでスルー……しようとしていたのだが、かわりにフィーネが鞄から瓶を取り出してその中にその黒い液体を詰め込んでいく。
「どうするんだ、そんなもん」
「もち、売るのよ!」
「売るって……殺し屋とかにか?」
「はぁ? 貴族に決まってるじゃない」
「貴族?」
どう考えても暗殺くらいにしか使い道がない。
まあ、貴族も裏でそういうことをしてるのかもしれないが……。
俺の疑惑の視線に気づいたのか、フィーネがそれに答えるように言葉を続けた。
「居場所がわかるし、いざとなれば影で身を守れる。要人警護とかでよく使われてるのよ」
「あー、なるほど」
後で召喚できるようになったら、俺も自分用に一体用意しようかな。
いざっていうときに便利そうだし。
――っと、この床はたぶん罠だな。
俺は大股でその部分を避けて通る。
暗いとわかりづらいが、明かりに照らされたことで微妙な色の違いがよくわかるようになっていた。
「おい、そこの色が違う床は踏むなよ」
「え、どれ?」
「だからその――」
お前が今踏んでるやつ……。
ガコンッ。
通路の後ろから何かが外れる音がした。
そして何か重たいものが転がるような音と、小刻みな振動が通路を包み込む。
「それを踏むなってんだよ――!?」
「言うのが遅いのよっ!?」
後ろを振り向き――直後、俺たちは前に向かって全力で走り始めた!
そして全力で走る俺たちを追うように、通路を塞ぐような巨大な岩が勢いよく転がり始めたのだった……。




