29/177
第29話「風遁の修行」
夜叉衆が去った後。
蒼真たちは洞窟の奥で休んでいた。
老人は蒼真の前に座る。
「お前は風を力で動かそうとしている」
「違うんですか?」
「ああ。風は命令するものではない。感じ取るものだ」
蒼真は目を閉じる。
「感じ取る……」
洞窟の中を風が流れる。
「目を閉じろ」
蒼真は言われた通りにする。
「周囲を見ようとするな。風だけを感じろ」
静かになる。
風が頬を撫でる。
「……分かる」
「何が分かる?」
「蓮司が右にいる」
「正解だ」
蓮司が驚く。
「俺、動いてないぞ?」
老人が笑う。
「風は動いた者の存在も伝えてくれる」
蒼真はさらに集中する。
遠くの木々。
洞窟の入口。
地面の小さな隙間。
「……全部、風で分かる」
老人が頷く。
「それがお前の風遁の第一歩だ」
蒼真は目を開ける。
「もっと強くなりたい」
「ならば、力を求める前に風を理解しろ」
蓮司が笑う。
「いい修行になったな」
「ああ」
蒼真は短刀を握る。
その刀身を風が静かに包み込んだ。
「この力……絶対に使いこなす」
老人は黙って蒼真を見つめていた。
そして、小さく呟く。
「その力を狙っている者は、夜叉衆だけではない」
蒼真はその言葉を聞き返そうとした。
しかし老人は、もう何も話さなかった。
第29話・完




