第1話「影に生きる少年」
戦国の世。
武将たちが天下を争う裏で、影となって戦う者たちがいた。
――忍び。
その中でも大きな勢力を持つ忍軍が、黒影衆だった。
山奥にある黒影衆の里。
その修練場で、一人の少年が木刀を握っていた。
名は、霧島蒼真。
十五歳の忍びである。
「遅い!」
師匠である黒羽影宗の声が響く。
「まだまだ……!」
蒼真が木刀を振る。
しかし、影宗は簡単にかわし、蒼真の懐へ入り込んだ。
「そこだ」
ドンッ!
「ぐっ!」
蒼真は地面に倒れた。
「敵なら死んでいる」
「……また負けた」
「当然だ。まだお前は未熟だからな」
蒼真は立ち上がる。
「もう一度お願いします」
「休まなくていいのか?」
「大丈夫です。もっと強くなりたいから」
影宗は蒼真を見つめる。
「その気持ちは忘れるな。だが、焦るな」
「はい!」
夕方。
修行を終えた蒼真が里を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「蒼真!」
振り返ると、親友の神谷蓮司が走ってきた。
「今から飯か?」
「そうだけど、一緒に行くか?」
「もちろん。今日腹減ってるんだよ」
「お前、いつも腹減ってるだろ」
「それだけ修行してるってことだよ」
二人は笑いながら食事処へ向かった。
食事をしながら、蓮司が蒼真を見る。
「今日も影宗様に負けたんだって?」
「見てたのかよ」
「最初から最後までな」
「性格悪いな」
「ははっ。でも、蒼真ならそのうち勝てるだろ」
蒼真は少し黙ってから答えた。
「……勝てるようになりたい」
「何でそこまで強くなりたいんだ?」
「誰かを守れる忍びになりたいから」
蓮司は笑った。
「蒼真らしいな。じゃあ俺も負けてられないな」
「お前はまず俺に勝ってから言えよ」
「言ったな?」
二人は笑い合った。
夜。
蒼真は一人で里の外に出ていた。
右手を前へ伸ばす。
「風遁……」
そよ風が手の周りを舞う。
蒼真が集中すると、風は少しずつ強くなった。
「もっと……!」
しかし、風はすぐに消えてしまう。
「……まだ弱い」
蒼真が悔しそうに呟く。
すると背後から影宗の声がした。
「風は力で操るものではない」
「師匠……」
「感じるんだ。風の流れを」
蒼真は目を閉じる。
木々を揺らす風。
草を撫でる風。
静かに山を抜けていく風。
「……少し、分かった気がします」
「その感覚を忘れるな」
「はい!」
蒼真はもう一度、風に手を伸ばした。
まだ小さな力。
だが、この風がやがて戦国の運命を大きく変えることを、蒼真はまだ知らなかった。
第1話・完




