125 唯、お肉をみつめる。
『ぴよよー?』―――あれれぇ…おかしいぴよぉ?
唐突に某名探偵が登場してきたけど、それはさておいて。
「フリルちゃん、どしたの?」
「どうされました?」
『ぴよよ』―――ほら、これ見てー。
「うん?」
怖くてガーネット姫の手は絶対に離せないんだけど…まぶたをちょっとだけ開けて、声のする方向をうっすらと確認してみる。
フリルさまがパタパタ飛んでる真下、そこには大きな切り株がひとつ。
まだ伐採されてから…そんなに時間は経ってなさそう。
苔むしてる様子もないし、気の色もまだ明るい。
―――いや…そこじゃないよね。なんだろ…あれ?
切り株の上、何かがのってる。
結構大きい…30センチくらいかな。
石…にしてはぷよぷよ感があるというか…。
「これは…お肉でしょうか?」
「お、お肉!?」
なんでそんなとこに。
怖いこわいの一心で全く気づいてなかったけど、そういえばちょっと香ばしい匂いが漂ってる。
くんくん…この匂いは…。
「牛肉かな?」
『ぴよよ?』―――そうかな?
「そのようですね。さすがユイです!」
「えへへ。」
どうも、食べ物のことなら百人力、22歳くいしんぼうのユイですワンッ!
いや、照れてる場合じゃないよね。
…ワンちゃんの真似してる場合でもないか。
生肉ならまだしも、焼いてあるお肉が放置してあるなんて。
―――だ…誰か、近くにいるってこと…?
お肉食べてたんだから、オバケじゃない。
そう、オバケじゃない。
オバケじゃないんなら、バグステータスの範疇。
―――よしがんばろ。
完璧な論理展開を見せた私。
暗いの怖いけど、ガーネット姫のこと守らないと。
「ガーちゃん、気をつけてね。」
「は…はい。」
魔法の杖をくるりと回し…そこねたけど、なんとか持ち直した。
セーフ。
「フリルちゃん。近くに誰かいたりする?」
『ぴよよ』―――えっと…うーん、いないよ。
「そっか…。」
あれれ…予想、外れちゃった。
せっかく構えた魔法の杖だけど、さりげなく、ゆっくりとおろす。
「ちょっと失礼して…うん、結構冷たそうですね。かなり時間が経過しているみたいです。」
「あらら…本当だ。」
手をかざしてみた私たち。
危ないから触れてはないけど、温度感がちっとも伝わってこなかった。
よく見ると食いちぎられたような痕跡があるし…なんか怖。
『ぴよよ』―――とりあえず休もうよ。ボク、疲れたぴよ…。
「そだね。私も…汗びっしょり…。」
冷たい方の汗で。
「ユイ、大丈夫ですよ。私がそばにいますから。」
「うん。…ありがと。」
格好良い。
ガーネット姫、いつの間にかオバケを克服してたみたい。
私と一緒にキャーキャー叫んでたのは…今は遠い思い出。
やせ我慢じゃないと良いんだけど…プラちゃんへのラブは恐怖をもこえるのかな。
『ぴよ?』
「ん?なんでもないよ。」
『ぴよよ』
右肩にちょこんと座ったフリルさま。
普段ならおなか空いたってツンツンしてくる頃だけど、冒険心が上回ってるみたい。
…ちなみに私は。
ぐぅぅぅぅぅ。
盛大に鳴り響いたおなかの音。
鳥がバサバサ逃げていったけど、タイミングが重なっただけだからね。
「何か、食べましょうか。」
「うん。」
だってだって、お肉見ちゃったんだもん。
さっきまでは怖くてこわくて、それどころじゃなかったんだよ。
「そういえば…干物をもらったんだっけ。」
「干物…ですか。火は…さすがに危ないかもですね。」
「そ、そっか。」
すっかり忘れてた。
ここ、森の中だった。
■
ガーネット姫お手製のサンドイッチをもぐもぐ。
レタスのシャキシャキ感にほんのり甘いたまご、トマトの酸味にマヨマヨのコーティング。
―――おいしすぎる!
ちなみに、マヨネーズ作ったのは私。
ここ重要。
「でも、不思議だね。こんなにおいしそうに焼けてるお肉、残していっちゃうなんて。」
「ですね。…ユイ、食べちゃダメですよ?」
「…さすがに食べないよ。」
サンドイッチが無かったら…ううん、なんでもないです。
『ぴよよ…』―――よっぽど慌ててたのかな?でも、お皿とかはなさそうだし…。
「だね。それに魔法で収納できるんだから、そのまま持って帰ればよかったのにね。」
私なら意地でも持って帰ると思う。
なんならくわえたまんま走るかも…お行儀はよくないけど。
「よっぽどの事情があったのでしょうか?」
『ぴよ…』―――それとも…一瞬でやられちゃったか…。
「…。」
お、脅かさないでよ…。
『ぴよよ…』―――この「漆黒の森」は昔…「帰らずの森」って呼ばれてたんだ…。
「…。」
『ぴよ…』―――どうしてだと思う…?
「入った人が…帰れなかった…とか?」
『ぴよぴよ…』―――うん…足を踏み入れた人間は…みんな…。
「…。」
この沈黙、無理。
必死にガーネット姫のそでをつかむ私。
服のびちゃったらごめん…でも、こうしてないと泣いちゃう。
『ぴよ!』―――この木の実の虜になっちゃうんだぁっ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…ぁぁあ?」
「この…木の実ですか?」
『ぴよ』―――そうそう。とってもおいしいんだって。おいしすぎて、みんな帰りたくなくなっちゃうんだって。
「…。」
抗議のジト目。
絶対、私を怖がらせるためだったよね。
フリルさま?
ちょっ、逃げないで。
『ぴよよ』―――ごめんごめん。いや、昔ね、賢者さまがさ、森は危ないから近くの子どもが入らないようにって、この話し方を教えてくれたの。
「そうだったのですか。やはり賢者様は、素晴らしいお方なのですね。」
「…。」
なんか納得いかないけど。
まぁ…それはさておき。
「コホン。それで、お肉が…ん?お肉…。」
思いついたことがひとつ。
こんなにおいしそうなものが、こんなに見やすい場所に置いてある。
お皿もなければフォークもない。
とすると。
「ねぇねぇ、これって『罠』じゃないかな?」
名探偵ユイ、参上。
キラーン。




