108 唯、なんとかしてみる。
水面をのぞむジェットコースターにて一句。
こほん…「再計算 ミスだと思って 再計算 やりなおすたび 答えが変わる」。
―――数学って、答えひとつじゃなかったっけ…。
ペン回しにいそしみつつ、頭をかきかき。
どうも、数学というより算数で大苦戦…22歳…のはずのユイです。
「むぅぅぅ…。」
小説のアイデアを書き留めているノート、その1頁をまるまる使って考えたんだけど…難しすぎた。
海中に潜むモンスターを探知すべく、探知魔法「影の解析」の設定を頑張りまくった10分間…無念のリタイア。
一応ね、自己弁護しとくと…高校のときの数学の成績は4だった私。
5じゃないあたりが私らしいというのはさておいて、4年もたつと忘れちゃうのよ…これが。
―――加法定理とかもちゃんと覚えてたんだよ。単位円とかも書いてたんだから。
サインコサイン…なんだっけ…あ、タンジェント。
よし、保険かけまくりタイム終了。
「フリルちゃん…無理そう…。」
『ぴよよ…』―――こればっかりは…仕方ないかも…。
いつもなら毒舌とばしてくる頃だと思ったんだけど、さすがに私の10分間は認めてくれたみたい。
この辺は優しいフリルさま。
えへへ。
「見えないもんね…。」
海面をじっーっと見つめてみるけど、キレイだなって印象しか出てこない。
せっかくだしってことで、右腕を伸ばして海水に触れてみる。
―――ぬるい。
太陽さんさん、気温も絶好調に右肩上がりな今日この頃。
さすがに海面あたりは、ちょっと温かかった。
『ぴよよ…』―――ボクも海中までは…うまく探知できないんだよね…。
ショボンとアホ毛が垂れたフリルさま。
羽のあたりをよしよししてあげる。
『ぴよよ』―――ガーネットちゃんに…あ、そっか…魔法の力が足りないもんね…。
「やっぱり出てくるの待つしかないかな?」
『ぴよ』―――そだね。キルシェくんがいれば簡単なんだけ…あ、いや…なんでもないぴよ。
「…。」
ニヤニヤが止まんない止まんない。
それはさておき…ガーネット姫が漁師さんたちに伝えてくれてるはずだから、もう少し待つと船とかで来てくれると思う。
それから「影の解析」に再挑戦してみても良いし、漁師さんの知恵を借りるのもあり。
いずれにしても待つしか選択肢なさそう。
―――待つのは得意だもんね。
私のなかでは「待つ=睡眠」というなんちゃって方程式があるんだけど、それはさておき。
私の魔法の力、バグによって無制限、どれだけでも使えちゃう。
つまり氷のコースだってどれだけでも維持できる…はず。
「フリルちゃん。ガーちゃんたち来たら教えてね…すぴー、すぴー…。」
『ぴよ!』―――ユイちゃん!?ね、寝ちゃってる…。起きて、ユイちゃん!
「ほいほい!」
『ぴよ!?』
さすがに寝たふり。
食欲に関しては凄まじいと自負してるけど、睡眠に関しては結構…うん、ナイーブなところがある私。
気になりだすと眠れなくなっちゃうタイプ。
カナヅチな私、さすがに海の上ではぐーすかできない。
『ぴよよ』―――ユイちゃんって無限の力持ってるんだよね?
「魔法?うん。そうみたいだね。びっくりだよね。」
『ぴよぴよ』―――それならさ、難しい設定とかいらないじゃん。
「?」
フリルさまの言いたいことを察せない…鈍感な私。
それでも優しいフリルさま、ちゃんと説明してくれた。
『ぴよぴよ』―――何も考えなくて良かったんだよ。範囲指定なんかせずに、全世界対象で良いじゃん!
「…あ、そういうこと!」
わざわざ魔法の範囲を絞ったり、頭パンクしちゃいそうな計算をするのは…魔法の力には制限があるという前提があるから。
ところがどっこい、その制限がないバグ存在な私。
というわけで。
■
大きく息を吸い込む。
潮風の良い匂い。
「影の解析!」
範囲はもちろん探知対象すらも設定せず、全力で唱えてみた。
何かキュイーンとか異音がしてるけど、きっと大丈夫。きっと。
―――急にドカーンとかならないよね…?
待つこと数秒。
「うわぁっ!」
『ぴよ!』―――すごっ!
表示されたのは、文字通りこの世界の全てだった。
世界地図の上に無数のピンを落としたみたいな感じ。
町はもちろん、街道やフィールドまで…本当に全部のデータが出てるみたい。
―――や…やばすぎ…。
バグステータスもヤバかったけど、この魔法も常識を次元レベルで超えてた。
難しい設定とか変換方程式とか…そういうの全部パワーでもってなぎ倒しちゃったみたい。
「…。」
なんとも言えない表情になりかけた私だけど、今はびっくりの方が勝ってる。
とりあえずってことで親指と人差し指でもって拡大してみると…どんどんと詳細情報が表示されてきた。
『ぴよよ…』―――ボクのこともちゃんとのってる…。
「本当だ…。自分で使っててなんだけど…怖っ。」
この魔法にかかればプライバシーなんてないに等しい。
ステータス的な情報はちょっとしか表示されてないけど、今どこにいるかがピンポイントでわかっちゃう。
―――
【名称】プリンチペッサ・フリル
【種族】鶯遷魔法柱
【レベル】解析不可
【敵性】なし
【詳細】特別な魔法により「冬の魔法柱」が姿を変えた存在。「護の力」を持ち、その羽には氷結の加護が宿るとされている。物理攻撃はもちろん特殊攻撃にも高い耐性をほこり、「姫鳥あらわるるところに争いなし」との言い伝えがのこされている。現在は鶯遷の賢者ユイに仕えている。
―――
私のすぐ横に表示されてた水色のもふもふ、その詳細情報を見てみるとこんな感じになってた。
―――賢者ユイって…私、賢者扱いされているし…。
ツッコみたいところはいっぱいなんだけど、今はそれどころじゃない。
待っててね、お魚さん。
―――えーっと…このあたり…深さはこのバーだったよね。
ちょこっと操作して、海中の様子を見てみる。
おおざっぱにバーを上げ下げしていると、それらしい反応が見つかった。
『ぴよよ』―――あぁ、やっぱりモンスターだ。
「いっぱいだね…。」
画面にはパッとは数えれないほどの赤い点…モンスターをあらわす赤い光が輝いてる。
そのひとつに触れてみると、こんな感じで詳細が表示された。
―――
【名称】シヤーク
【種族】水属性モンスター
【レベル】10
【敵性】あり・使役
【詳細】温暖な海に広く出現する水属性のモンスター。鋭いキバと俊敏な動きが武器。レベル帯は低いが狂暴な性格のため、トラップなどを用いた丁寧な対処が求められる。群れることは少ないが、奇襲を警戒すべき相手とされる。諸説あるが、数千年前からその姿を変えていないと言われている。
―――
「シヤーク…?絶対サメだよね。」
『ぴよ?』―――ユイちゃん、よくわかったね。
「だってサメってシャークだもん。」
『ぴよよ…』―――ユイちゃん…すごい!
「…。」
なぜか感動してる様子のフリルさま。
…ちなみに英語の成績は…ちょっと言えない。




