100 唯、契約する。
カエデの町、その入口まで数十メートルの距離…ゆっくりとコースを傾けて、安全な角度で着陸を試みる。
直線的に行っちゃうと…地面に突きささるという…悲劇が起きることを学んだ私。
―――うんうん…操縦、めっちゃうまくなった!
緩やかなカーブを描きつつ、ソフトランディングに成功。
実はじつは…子どものころにフライトアテンダントさんを題材とした映画の影響をもろに受け、パイロットさんに憧れてた私。
クレヨンで色までつけた紙ヒコーキ片手に、着陸と離陸のイメージトレーニングをしまくってた。
もちろん口で「ぶーん」とか言いながら。
―――途中で飽きちゃって…飛ばしまくってたけどね…。
最終的には友だちと一緒に、どれだけ長い時間飛べるか選手権とかやってたっけ。
「到着でーす…っと。」
最初はコースをまっすぐにするだけでも一苦労だったけど、今ではどんな複雑なコースもちょちょいのちょい。
ガーネット姫と一緒のときはしないけど、ぐるり一回転とかもできるようになった。
即席ジェットコースターは、見事に最強のアトラクション…じゃなかった、移動手段になりました。
えっへん。
「おふたりとも、ありがとうございました。おかげさまで助かりました。」
「いえ。何か方法が見つかると良いですね。」
「はい。王都にも足をのばして、いろいろとお話を伺ってみようかと。」
私もそれが良いと思う。
ギルドはもとの世界で言うところの「お役所」みたいな感じだし、場合によっては調査クエストみたいなのだって発布してもらえるはず。
「ご親切にありがとうございました。では、これで失礼します。」
そのままクララさんに手を振って、くるりと踵を返した私たち。
遠回りというか、同じ道を行き来することになっちゃったけど…人助けもできたし、よかったと思う。
―――アイテムも…たくさん手に入ったし…。ぐへへ…。
風魔法で吹っ飛ばし、右へ左へと屠りまくったモンスターの数々。
もちろんアイテムもたくさんドロップしたんだけど、拾おうにもさすがに手が届かない。
猫の手も借りたい…そこで登場、フリルさま。
お魚10匹あげるという契約のもと、アイテムの回収をしてもらっちゃった。
『ぴよよ』―――ユイちゃん…お魚、買ってね。
「…うん。そこのお魚屋さんで買ってくるね。」
ハナミズキ・タウンに着いてからで良いかな…って思ってたけど、フリルさまにくぎをさされちゃった私。
鶯遷の三鳥との取引…違えるわけにはいかないよね…。
再び踵を返して、カエデの町の中心街へと全力ダッシュ。
■
「ただいま!はい、どうぞ。」
『ぴよよー!』―――やったー!ありがと、いただきまーす!
フリルさまにお魚をうやうやしく献上して、近くのベンチに腰をおろした私たち。
ピヨピヨとテンションマックスなフリルさまはというと、お魚をくちばしで器用にくわえ、そのままパクっとまる飲み込み。
腕くらいのサイズのお魚たちが、次々と消えてく…。
―――もうちょっと…。
いや…えっと、飼い主サイドのエゴなのかもだけど…うん…なんて言うか…。
「あ、そうだ。ガーちゃん、お魚屋さんに聞いたんだけど、ハナミズキ・タウン産のお魚…やっぱり減ってるんだって。」
カエデの町から近いこともあって、ここら辺のお魚屋さんに並ぶのは…ハナミズキ・タウン産のものがほとんどだそう。
隣国から入ってくるお魚もあるから、即座に商売あがったりなわけじゃないそうだけど…。
―――困るよね。普通に。
漁師さんたちも困るし、お魚屋さんも困っちゃう。
おいしいお魚を楽しみにしてる人たちも困っちゃう。
「そうですか…。お魚さんがいないとは、不思議なこともあるものですね。」
右頬に軽く手を当てて、困り顔のガーネット姫。
もとの世界でも、大漁の年と不漁の年…とか聞いたことあるし、海流とか温度とかが関係してるのかな。
―――でも、急にってのは不思議だよね。
クララさんによれば、ある日を境に忽然と姿を消しちゃったらしい。
そんな急に生態系がひっくり返るみたいなことって、あるのかな。
うーん…わかんない。
「うん。お魚たのしみにしてたけど、今回は無理そうかな…。」
「ですね…。モンスターは普通に出るみたいですし、モンスターなら食べられると思いますよ。」
「そ、そだね…。」
そうそう、モンスターだってとっても美味しい。
見た目がちょっと…グロテスクというか、恐怖を感じるだけで…。
「フリルちゃんも、モンスター食べることになっちゃうかもね…あはは。…フリルちゃん?」
『ぴよよ…』―――ユイちゃん…なんだかイヤな予感がするよ。
お魚爆食いしてるのに、珍しくテンションの低いフリルさま。
食欲に勝る不安って…あ、口内炎かな。
「イヤな予感…?」
『ぴよ』―――昔、賢者さまから聞いたんだけど…モンスターが大量発生すると…お魚さん、逃げちゃうんだって。
フリルさまの知識は賢者さまゆずり。
ガーネット姫や魔法会議の先生よりも、もの知りだったりする。
「それって…。」
『ぴよよ』―――もしかしたら、海にいるモンスターが…大暴れしてるんじゃないかな…。
もしフリルさまの予想通りなら、なんとかしなきゃだよね。
―――お魚さん…待っててね!
食欲にまみれた責任感を抱きつつ、作戦を考える私。
ちなみに私、泳げない。
浮き輪の準備しなきゃ…。




