こうして俺たちは幼馴染をやめた。
なぜか桜に抱き着かれてる。…本当に何故だ。理由を考えようにも好きな人に抱き着かれて頭は回らなかった。
「陸…陸…。捨てないで…。」
声の調子は普段からは考えられないくらいに弱弱しく、五月さんやあいつが言ったことが間違いじゃないという実感がようやく湧いてきた。
「捨てない。俺が桜を捨てるわけない!」
「うん…。ううっ…。」グスッ
泣いているのか?そうわかって、桜がいっそう愛しく思えて咄嗟に抱きしめ返す。桜の匂いがして心はドキドキするのに一方ですごく安らかになった。
…そうだ。まずは先に謝らなくちゃな。
「桜、ごめんな。俺本当にひどいことした。ずっと自分勝手なことして空回りしてた。…許してほしい。」
「…うん。私の方こそ今まで強く当たってきてごめんなさい。」
濡れた瞳がきらりと輝いてとてもきれいだった。やはりこの瞳に吸い込まれそうになる。不安げに上目遣いで見上げる桜がとにかくかわいい。
「いや、全然気にしてないよ。」
今回、悪かったのは全部俺だ。桜は何一つ悪いことはしていなかった。
「…ううっ。う~。」グスグス
ちょ、なぜまた泣くんだ!?また俺なんかやらかしたのか!?
「ちょ、桜、どうした?大丈夫?」
「だっでぇえ、私が…ぐずぐずしてたから…菫に…陸がとられちゃってぇ…。」グス
え?五月さん?どうして五月さんがそこで出てくるんだ?
「あのー、ちょっといいかな?」
後ろから五月さんの声がした。…そうだった、五月さん、まだいたわ。完全に忘れてた。それにしても桜、抱き着いたまま話聞く気なのか?…恥ずかしすぎるんだが。
「桜が何か勘違いしてるっぽいけど、私別に空海君と付き合ったりしてるわけじゃないからね?」
「え?」
え?て何だよ。そんなわけないだろ。桜を見ると本当にびっくりした顔をしていて…あ、今すごい嬉しそうな顔に変わったわ。
「えっ、あっ、そうだったのね。わかったわ。教えてくれてありがとう。」
「うん、また今度話聞かせてね。」
それだけ言って五月さんはどこかに去っていった。桜を見ると満面の笑みを浮かべている。
今さっき、この一連の意味を理解して嬉しさと恥ずかしさで俺の顔はとても熱くなっている。
…この流れならいけるよな。俺は唾を飲み込んで未だ抱き着いている桜を見据える。…そうだ、今こそ、俺が言いたかったことを。
「桜。」
「あっ、ごめん。えっ、あっ、なにかしら?」
現状をやっと理解したのか桜は真っ赤な顔をしてバッと俺から離れた。
「…桜が好きだ!俺と付き合ってほしい。」
手を差し出す。
「はい!」
温かい手の感触が返ってくる。桜はうるんだ眼を細めて俺を見ていた。…これで幼馴染も終わりか。今までの桜との記憶が一瞬でいくつもいくつも蘇ってきて、俺もなんだか感動で泣きそうになった。桜、今までありがとう。これからもよろしく。
―こうして俺たちは幼馴染をやめた。




