俺はどうしたい?
はぁ、めんどくさい。桜とはもう終わってるんだ。そう思う一方で、俺の中ではあいつの言葉が反芻していた。
―春木さんが今どうなってるか遠目でもいいからちゃんと見てくれ!!お前のことを何とも思ってないならああはならないぞ!!
桜は俺のことを何とも思っていないはずだ。だってそれは本人の口から聞こえたことだ。じゃあなぜ、あいつは顔を見ろ、などといったのだろう。あいつが嘘をついてるのか?それとも桜が嘘をついていたのか?あーもう頭の中がグシャグシャだ。
…まあ、遠目で顔くらいは見てもおかしくはないか。俺は誰が正しいのか判断するためだけに桜を観察するのだ。それ以上の意味はない。…誰に言い訳してるんだ俺は。
――
しかし、桜は午後、教室にはいなかった。体調不良で保健室にいるらしい。…まあ、モヤモヤするが、わざわざ保健室に行ってまでは見ることはない。
「~では、今日は終わりです。それでは、さようなら。」
「さようなら。」
帰るか。教科書やらをカバンに詰め込んで、さっと立ち上がろうとすると、肩をつかまれ
「ねぇ、空海君、ちょっとこの後いいかな?」
笑顔なのに妙に底冷えする声で、五月さんが話しかけてきた。…怖い。
――
俺と五月さんは人気のない体育館裏に来ていた。
「私が言いたいこと、分かるよね?」
最早憤りを隠そうともせず、五月さんは鋭い視線を俺に向けてくる。
「…春木さんのことか?」
「…そうだよ。よかった。とぼけられてたら殴るとこだったよ。」
茶化してはいるが空気はピリついている。俺はもう今すぐ帰りたくなっていた。
「…で、何が言いたいんだ?」
「何があったか全部話して。今すぐ。こうなった理由も含めてね。話さなきゃ…どうなるかわかるよね?」
じっと俺を見つめてくる。ダメだなこりゃ。…きっとこの子からは逃れられないと直感的に思った俺は、今回のいきさつを全て話すことにした。
――
「はぁーーーー。空海君。君、バカすぎ。」
話を聞いた五月さんは開口一番にそう言い切った。まあ確かに俺がしたことは自分勝手で断罪されるべきことなのは重々承知だが…なんかムカつく言い方だな。
「馬鹿って?俺は真剣に考えてこうしたんだけど。」
「誰のために?誰のためにそんなことしたの?」
見透かしたような上目遣いでグイグイ近づいてくるな。
「…そりゃ俺と春木さんのためだよ。」
「だからそこが違うの。少なくとも桜のためにはなってない。…この際だから言っちゃうけど、桜は君のことが大好きだよ。」
さも当然かのように言われた衝撃発言。少しも目を逸らさずにこちらを覗き込んでくる。なぜか嘘ではないように思ってしまった。一瞬ドキリとしたが、努めてすぐに冷静さを取り戻す。
「…それはおかしいだろ。桜はあの時…
「そんなの照れ隠しに決まってるじゃん。何年も幼馴染なのに分からなかった?…まぁ、あの時は桜もちょっと言いすぎかなってところはあったけど。」
「…。」
思わず絶句してしまう。あいつと似たようなことを言ってくる。しかも今回は桜の親友が言うことだ。桜は本当に俺のことが好きなのか?じゃあなんで桜はあそこで止めなかったんだ?俺の頭はもうグルグルで訳が分からなくなってしまっていた。誰が正しいんだ?俺は空回りしていただけなのか?俺はどうすればいいんだ?俺は…
「別に私の言ってることは信じなくてもいいよ。やめろって無理にも言わない。」
「…。」
「でも、君はどうしたいの?君は自分のために幼馴染をやめたって言ってたけど今はどうなの?それで満足してるの?」
ハッとした。俺はどうするべきかだけ考えていたが、俺自身がどうしたいかなんて一度も考えたことがなかった。俺は…俺は…。混乱する頭を抑えようと目を瞑る。脳裏に浮かんでくるのはどれも桜の顔ばかりで―。…なんだ簡単じゃないか。ははは、俺はやはり馬鹿なんだな。今更自分が本当にどうしたいか分かるなんてな。
「…どうやら答えは出たみたいね。」
「ああ。ようやくだ。五月さんの言う通り、俺は馬鹿すぎるな。」
「ふふっ。やっと気づいた?」
「ああ。笑えるくらいの馬鹿だ。」
五月さんは口元に手を当てて上品に笑っていた。気づけば俺もつられて笑っていた。腹の底からふつふつと力が湧いてくるような感じがして、どうにも楽しい。今なら何でもできる気がする。それこそ、自分勝手にやめてしまった幼馴染との関係の修復も。
「陸!!」
え?今の声は…。声の方向を見るや否や、桜は俺の胸に飛び込んでいた。
「陸…陸…。捨てないで…。」
ぎゅうぎゅう抱き着いてきて頭をすりすりしてくる。
え?何これ?どうなってんの?




