30.狂わされた男達
(無茶苦茶痛い・・・)
今、佳市は学校より少し離れた、建設会社の資材置き場で項垂れていた。
本当にこういったことってあるんだな、と、どこか俯瞰的に見えてきて、笑えてしまう。
体中のあちこちが痛い。
口内もいたるところが切れており、動かすたびに、痛みと血の味が五感を埋めつくす。
クラスの”一部の男子”に帰り際に声を掛けられ、ここまで連れてこられた。正直、こうなるのは声を掛けられた瞬間に分かってはいた。
ではなぜ付いてきたのか?
それは単に知りたかったから。
なぜこいつらだけ、目の敵の様に自分を侮蔑するのか?
その理由が知りたかった。
最初は単純な悪戯から、ハッキリとした敵意のある行為に内容が変化した。
その時期の境は心美と付き合い始めてからだった。
それまでは、クラスから敬遠される、物を隠されるなどの幼稚な内容であったのが、破壊まで発展したのは何かしらの理由に違いない。
そして理由は直ぐに分かった。まして実にバカバカしかった。
クラスの”一部の男子”の中に心美と中学時代に付き合っていた元カレがいた。
たったそれだけの事であった。
単純な嫉妬ほど、人を狂わせるものは無いのかもしれない。
時にはそれが原因で、殺人事件にも発展する。
嫉妬は激烈で下劣な狂気が潜んでいる。
それを身をもって体験した。
それに「心美とは別れた」という佳市の一言も油を注いでいた。
その言葉を皮切りに、佳市への暴行の幕が開いた。
奇しくも、自らゴングを鳴らしてしまった形だ。
佳市は決して仕返しをすることなく、じっとそれが終わるのを耐えた。殴られ、叩きつけられ、髪をつかまれ、腹部を蹴られる。耐え難い痛みが体を襲うが、何もせずじっと耐え、元カレを睨み続けた。
元カレの男も疲れてきたのか、暴行は尻すぼみになり、目の前で腰を下ろす。
取り巻きの男子たちは、始めは一緒に暴行に加わっていたが、次第に1人、また1人と見守る側に回っていた。
「てめぇ、何で佐々原と別れたんだ?」
男が急に佳市に問いかけてきた。
口に溜まった血をツバと共に吐きすて、佳市も応えた。
「自分じゃない自分を演出させられて疲れたんだよ」
一言ごとに、ヒリヒリとした痛みが走り、しゃべりにくい。
「てめぇ完璧野郎じゃなかったのかよ・・・」
男は空を見上げながら、昔の事を思い出すように呟いた。
「オレはなぁ? 佐々原にたった数日でゴミの様に捨てられた。全部を否定された気分だった。そんなあいつと毎日、楽しそうにしていた、てめぇが嫌いだった。だから追い出そうとした。嫉妬だ嫉妬。ダサいだろ?」
「あんたもあいつに狂わされたのか?」
「・・・だなぁ。狂っちまったかもな、あれ以来」
男は視線を佳市に合わせると、なぜだか笑っていた。
「てめぇ、分かっていた顔してんな?」
「なんとなくな・・・」
この頃には取り巻き達は、姿を消していた。
そこには心美に狂わされた2人の男だけが残される。
「てめぇにしてきたことは謝るわ。すまん。じゃ済まないだろうが。でも、殴った事は後悔してねぇ」
「俺も殴られたことは恨んでない・・・」
「んじゃ、今まで壊したものは俺が買い直すから許してくれ」
そういって、男は立ち上がり、制服の埃を払う。
その手には血がにじんでおり、相当の痛みがあるはずだ。
「オレ、【立花肇】だ。どうせ名前覚えてねーだろ? んじゃ。明日から学校こいよ?」
「取り敢えず、学校には言うわ・・・」
「まじごめんって・・・」
暴力はあきません。
今回は何となく暴力で書きましたが、彼との関係はなんでも良かったです。
経験上、喧嘩した方が男は早いので、こう書き表しました。
一方的な暴行ですが・・・。