26.そして純粋なり
「で、どうして、出て行こうとしたの?」
今、遠山家のリビングには、佳市、恵理、京香の3人が床に正座しており、妹の【樹理】1人がソファで胡坐をかいて座っている。
項垂れ、悲壮感に満ちた顔をする姉と母。どこか世の中の捻じれを背負いこんでいる男性。それを見下ろして見ると、「なんでこの人達は難しく感じているんだろう?」と樹理は思ってしまう。
誰しも「初めて」はある。不安であり、本当に自分がここに居て大丈夫だろうか?など考えてしまうものだ。知らないものを知る好奇心と、知らないものを知る恐怖心、それは表裏一体である。
中学生である自分ですらわかるのに、この”大人たち”は何を難しく思い、悩んでいるのか理解ができなかった。
「ケイイチさんは、ずっと1人で生きていくの? なにも知らずに? もっと知ろうともしないの? 知りたくないの? どっちなの?」
「知りたくないとかはないけど、何となくだけど、居てはいけない気がするんだ」
「こっちがいいよ? って言っているのに? ウチって男の人居ない家庭だから、正直、ケイイチさんが少しの間、この家に住むかもって聞いた時、少し怖かったよ? でも、ウチはお兄ちゃんが出来たらいいなって思ってたからオッケーしたんだけど、間違ってる?」
全く理屈になっていないが、その思い自体は十分に伝わってくる。妙な説得力を感じる。彼女のなんとなく永遠に似た純粋さが佳市には伝わってきた。
「別におねーちゃんの彼氏だったら何でもいいって訳じゃないよ? ケイイチさんの性格とかをお母さんとおねーちゃんから聞いて、それならいいかも? って思ってオッケーしたんだけど、ダメだったかな?」
「・・・まだ彼氏じゃ」
少し顔を紅潮させながら、小さく恵理が否定をする。
「今、そこじゃないから・・・」
「あら?もう彼氏でしょ?」
「お母さんも!」
この中で一番の年下が、2人を黙らせる。
佳市はその会話が面白くて仕方なかった。1人は高校生、1人は母親。それを中学3年生がたった一言だけで、消沈させていく様は、自分と永遠の関係のように思えた。
過去に佳市も永遠と口論になった際、ことごとく論破された経験があり、その時自分が感情で物事を言ってしまっていたと恥じた事があった。その景色が脳内に思い出される。
「俺が、意固地だったのかもしれない。ごめんなさい。結果ダメで出ていくかもしれないけど、ちょっと居心地が悪いだけで言いだすのは間違いでした。すいません」
「ドヤッ」とした表情で、樹理は恵理と京香を見下ろす。
京香は何も言えずに俯いたままだが、恵理はキラキラした目で「でかした!妹!」と顔で語っていた。
「冷静に考えたら、そりゃそうだよね。知らないんだから、怖くなってまた逃げ出そうとしてた。ダメな癖だね。もしかしたら、これから結婚とかして、家庭を築く可能性だってあるんだから、知らないとだめだよね?家族ってどんなものか、体験してみたいな」
「・・・結婚って・・・ばか・・・」
「別におねーちゃんとは限らないじゃん」
妹の余計な一言に、恵理は先ほどまでの眼差しから、「このクソ女。あとから覚えてろ」といった表情に変化していく。これもまた、佳市にとって新鮮であった。
「なんか、恵理の家族って楽しいね。こっちまで面白くなってくるよ」
「やっぱりー? ウチの家族って仲いいんだよね! ケイイチさん分かってるね!」
「あと、樹理ちゃんって、なんか真奈美先輩に似てるよね?」
恵理はなるほどそうかも、と思い樹理へまじまじと舐めまわす様な視線をおくる。確かにいつの間にか他人の懐に踏み込んでいる性格は真奈美に似ていた。だから恵理は真奈美が苦手だったのかと覚る。
「たしかに似てるね・・・ウザッ」
「はぁぁぁぁぁぁんんんんん!?」
いきなり始まった姉妹喧嘩に、京香が割って入るが、本気で喧嘩している訳ではないので、3人の女性がキャッキャッと戯れている感じである。
そのさなか、樹理があらぬことを口にする。
「ところでケイイチさんって、今日どこで寝るの?」
「・・・」
「・・・」
「────ゴム、要るわよね?」
今度は京香の余計な一言に、その場は凍りついてしまった。
私が頑張ってほのぼの書くとこうなります。
らしくないので、戸惑いますね。自分でも。
これでいいんでしょうか?わかりません。