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【完結済】人生に正解なんて存在しない  作者: 空腹の汐留
本章
27/45

24.決断した女は早くて強い

なんとか更新できました。

初めての別れ話。


まさか自分がこんな経験するなど佳市は思ってもいなかった。彼女ができたことすら奇跡であり、それに自分は振られる身だと思っていたからだ。


「私のために笑顔になってください」


心美が佳市に告白してきた時の言葉。思えば最初から、佳市は何か蚊帳の外だったかもしれない。”初めて”を求められた時も、どこかそんな様子だった。思い描いていた光景とは違い、ひたすらに行為を迫られたことを思い出した。




「俺ってなんだったんだろ」


「───どうしたんですか?」


「えぇっ・・・?」


玄関脇の窓から、永遠がこちらを覗いて返事をしていた。内心ぞっとするが、直ぐにドアを開け、招き入れた。


「覗くつもりはなかったんですが、たまたま様子見にきたら、不用心にも窓が開いていたので・・・ごめんなさい」


永遠も少し申し訳ない表情で謝罪をし、台所へむかった。

彼女は恵理と話しをしてから、定期的に佳市の様子を見にこうやって足を運んでおり、また馬鹿なことを仕出かす可能性があるのと、貧乏飯の内容から栄養状態を考慮し、週に二日はご飯を作りに来る約束を佳市に取り付けていた。


「永遠、そんな無理してこなくても大丈夫だよ?」


「私がやりたくて来てるので、気にしないでください。それとも恵理さんじゃないとダメなんですか?」


前から知っている後輩から、こういった言葉を向けられると弱くなる。


「なんで遠山先輩が出てくるんだよ?」


「好きなんじゃないんですか?」


恵理から向けられる好意はハッキリと分かっていた。というか露骨過ぎて誰の目にも明らかなので、永遠もそれは分かっているはずである。だが自分はどうなのか?つい先ほど、心美と別れたばかりであり、次に移るには早すぎると思っている。


「まだハッキリはしないかな」


「あの彼女さんとはどうするんですか? 二股でもする気ですか?」


ジト目で佳市をみてくる永遠に、「しまった」と思い、軽率にも先ほどあったことを話してしまった。


「そうだったんですね・・・」


ちょっと気まずそうに、永遠は俯いてもじもじしてしまう。

心美との事を永遠に話す必要はなかったと、この時、自分の誤った行動に後悔をした。例え一歳違いでも後輩である。まだそういった事に疎いはずだ。


「ならセンパイは今、フリーってことですよね?」


「そ、そうだね。自分で振ってしまったアホなフリーターだね」


後悔からの焦りからか、よくわからない事を口にしてしまう。とりあえずこの話から逃げたいため、おどけて誤魔化すことに逃げた。


「じゃあ私も立候補します! 私、センパイのこと大好きです!」


「・・・え」


(別れて一時間で、後輩から告白!?アニメでもラノベでもなかなかないよ!?)


「恵理さんの気持ちも分かりますが、だからって前みたいにタイミングを逃したくないですから。あ、恵理さんも私の気持ちは伝えてあるのは安心してくださいね? あとセンパイありがとうございます。あんな女と別れてくださって」


(宇宙とでも交信でもしてるのかな?前みたい?先輩には伝えてあるの?別れてくれてありがとう?情報がいっぺんに・・・・)


「えへへ。じゃあ作りますので、待っててくださいね!愛情いっぱいで作りますので!」


ふんす! という擬音がどこかで聴こえてきそうなくらい気合を入れなおした永遠と、状況が把握しきれず、ただ呆然とする佳市。いびつな2人の光景がそこには広がっている。佳市は思考をほぼ停止してしまい、フラフラとなりながらテーブルの上のスマホを手に取った。


そこには恵理からメッセージが届いていた。


from SNS

恵理:別れたんだ。そっか。頑張ったね。えらいよほんと

恵理:ほんと えらいよ あんたは

恵理:じゃあこれで彼女だねアタシ

恵理:いきなり浮気とか良い度胸だね。殺す。


たった四行のメッセージに、佳市はまた打ちひしがれる。自分の安寧は存在しないと受け入れるしかない。もう全ては知らないところで動いてしまっていると。


「永遠・・・早速誰かに言ったの?」


くるっとこちらを向きなおした永遠は、はちきれんばかりの笑みであった。


「はい!恵理さんにメッセージ送っておきました!」


うふふ。と笑うその姿は、佳市には首を狩りにきた死神にしか見えず、呆然から虚無へと変わってしまう。





一口しかコンロが無いはずなのに、レンジを使いながらテキパキと料理をこなしていく永遠の姿は、新婚生活で夫に夕食を用意する新妻に等しい。中学三年生がよくこんなに動けるな?と感心もするが、これから始まる恵理と永遠の狭間で振り回される自分を想像すると、今までは違った部分に嗚咽感を覚える。それが良い意味の物か、良くない物かは佳市には分からない。



一汁三菜という、佳市にとっては大富豪にでもなったかと錯覚する景色が広がった。


マグロのステーキ

根菜の吸い物

ほうれん草のお浸し

胡瓜の酢の物

白米


どれも申し分なく、佳市の舌を潤した。

味付けも貧乏舌の佳市を考慮したのか、少し濃いめにされており、箸はその動きを止めることを許さない。「あーん」はなかったが、終始ニコニコしながら永遠は佳市が食べる様を見つめていたが、佳市はわき目もふらず食べ続けた。


「ごちそう様でした」


「お粗末様でした」


「お皿は俺が洗うから、永遠はゆっくりしてて? あと先輩には内緒にしてもらえると嬉しいかな?


「ではお言葉に甘えます。ちなみに恵理さんには全て報告済みですので手遅れですよ?」


天使か悪魔か。

その笑顔に潜む、死神の存在を背に受けながら、洗い物に集中する。そうすることで、少しでも現実から離れ、自分だけの時間を感じれる。


(ん? 背中に違和感が? あーこれ あれだ あれ」


背中に感じる温もりに少しだけ、気を許してしまいそうになるが、さっきの今なので、これに甘えるわけにはいかない。


「ちょっと離れてくれるかな?さすがにさっき別れたばかりなんだから、こんなのはまずいって」


ちょっとだけ語尾を強めたつもりだが、永遠は動じず抱擁を続けた。


「私はずっと前から好きだったんですよ? 勉強教えてくれたり、アパートの草むしりとか誰にも言われてないのにやってますよね? 体育祭もカッコよかったですよ?50mとかぶっちぎりだったし。それも全然はなにかけず、いつも謙虚で。センパイを嫌ってた人にも優しく接していて、イタズラで体育館の片づけを1人でやらされてましたよね?クラスの人が黙って帰ったあとも、センパイは文句一つ言わず、汗びっしょりになって頑張って」


永遠ははじめこそ詭弁であったが、最後は涙声がまじり、震えてさえいた。


「あったね。50mとかクラスの人誰も見ていなかったのに、よく気付いたね? あと片づけ終わった後には、授業始まっちゃってて、ものすっごく怒られたんだけどね。懐かしいな」


「だから・・・大好きになっちゃったんですよ。センパイの事。誰にも見えないところで1人で頑張って。ちゃんと試験とかでは結果だして。熱が出ても誰にも言わないし。お爺さん亡くなってからは、どんなに辛くても休まずに学校に通ってましたよね?ずっと見てました。センパイのこと」


「そっか・・・恥ずかしいな。見られてると思ってなかったから」


嬉しいけど、少しくすぐったい。そんな感じが佳市の体を巡る。自分ができることはやる。それが佳市の精神だった。なまじ全部できるのが佳市の欠点でもあり長所でもあった。それを同級生男子には疎ましく思われていた。「貧乏なくせに」それだけで、尊敬から侮蔑へと評価を変える。それでも中学時代は先生達が佳市をしっかりと見ていた。そして評価していたのだ。


「センパイ、こっち向いてもらえますか?顔みたいです」


「うん?・・・・ンッ?!」


背一杯背伸びをした永遠の唇が、振り向きざまに重なる。

淡い羞恥心を押し殺した、優しく、ぎこちない。

痺れる様な熱情的なものではなく、触れ合うだけで全てが伝わるような、そんな柔らかい感触。ほんの数秒が、何分にも感じる。

そして、名残惜しそうに離れていく───


「・・・これは()()恵理さんには報告しません」


「ファーストキスです。センパイ。大好き」



そう言って、永遠は佳市の部屋から立ち去った。


明日は2話かな?

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