48.最後の春休み
春休みの終わり。
高校を卒業してから、もう何日か経った。
でも――
まだ大学は始まっていない。
中途半端な時間。
大人になる前の、ほんの少しだけ残された自由な時間。
桃瀬こはるは、公園のベンチに座っていた。
いつもの場所。
噴水の前。
風が少し暖かい。
冬の冷たい空気は、もうほとんど消えていた。
「春だねぇ」
ぼんやり空を見上げながら呟く。
隣には、りりが座っている。
「そうだね」
短く返事。
静かな時間。
少し前まで、ここでは大騒ぎだった。
怪人。
魔法少女。
戦闘。
でも今は――
ただの公園。
ただの午後。
こはるは伸びをした。
「はぁー」
「なんかさ」
「終わったって感じするね」
りりが少し笑う。
「何が?」
こはるは肩をすくめた。
「いろいろ?」
「ドレスティアとか」
「怪人とか」
「変態紳士さんとか」
りり
「最後のはまだいる」
こはる
「たしかに」
二人は笑った。
そのとき。
ふわりと白い影が浮いた。
プルンである。
「平和プルン」
こはる
「そうね」
少し考える。
「まあ」
「悪くなかったけど」
プルン
「嫌だったプルン?」
こはるは首を振る。
「ううん」
「嫌じゃない」
少し考えて言う。
「むしろ」
「楽しかったかな」
りりが小さく笑う。
「魔法少女なのに?」
こはる
「魔法少女だから楽しかったの」
少し沈黙。
春の風。
噴水の音。
こはるが言う。
「でもさ」
「もうすぐ大学だよ」
りり
「うん」
こはる
「大人だよ」
りり
「まだ子供」
こはる
「まあね」
二人はまた笑う。
こはるは空を見上げる。
青い空。
雲がゆっくり流れている。
「最後の春休みかぁ」
りり
「そうだね」
こはる
「なんか」
「ちょっと寂しいかも」
りりは静かに言った。
「でも」
「また新しいのが始まるよ」
こはる
「だね」
そのとき。
プルンが突然言った。
「そういえばプルン」
こはる
「なに?」
プルン
「ポイントまだ残ってるプルン」
こはるが固まる。
「……」
りり
「いくつ?」
プルン
「二百五十ポイントプルン」
こはる
「……」
ゆっくり胸を見る。
少しだけ膨らんだ胸。
Aカップ。
そして。
こはるの目が輝いた。
「プルン」
「それ」
「使える?」
プルン
「あと五十ポイント足りればお胸強化プルン」
こはる
「五十」
考える。
そして。
立ち上がる。
「りり」
りり
「なに?」
こはるは真顔で言った。
「ヌギー探しに行こう」
りり
「まだやるの?」
こはる
「当たり前でしょ」
拳を握る。
「大学デビューまでに」
「もう少し成長したい」
りり
「どこを」
こはる
「ここを」
自分の胸を指す。
りりはため息をついた。
「ぶれないね」
こはる
「当然」
そのとき。
遠くで。
なにか黒い影が走った。
こはるの目が光る。
「いた」
りり
「ほんとだ」
こはる
「よし」
「最後の春休み」
拳を握る。
「狩るわ」
プルンが元気よく言った。
「頑張るプルン!」
春の空の下。
二人の少女は走り出す。
夢のために。
Aカップの、その先の未来のために。
そして。
その日。
ヌギーがまた一匹――
静かに犠牲になったのだった。
完。
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