17.メイド怪人メイディア(前編)
「へんしん!」
こはるがステッキを掲げる。
光が広がる。
服がふわりと宙に舞う。
パーカーが浮かび、
ショートパンツがほどけ、
スニーカーが離れる。
体がくるくる回転する。
そして――
お尻が丸見えになる。
くるっ。
また回転。
やっぱりお尻。
光が集まる。
ピンクのフリル。
黒いリボン。
細いベルト。
網タイツ。
腿リング。
腕飾り。
ヒールブーツ。
光が形を作り上げる。
ピンクと黒が混ざる。
魔法少女。
だけど――
かなり妖艶。
こはるはくるっと回る。
そしてポーズ。
光が弾ける。
完成。
魔法少女ピンクフリル。
プルンが嬉しそうに言う。
「決まったプルン!」
こはるは周囲を見回した。
公園の中央。
完全包囲。
黒い全身タイツの戦闘員。
ヌギー。
数は――
かなり多い。
「ヌギー!」
「ヌギー!」
「ヌギー!」
こはるは数える。
「……」
「さっきプルン、何匹って言った?」
プルンが答える。
「30匹プルン!」
こはるは肩を回す。
「まあいいや」
ステッキを軽く振る。
「ウォーミングアップにはちょうどいいわ」
ヌギーたちが一斉に突っ込む。
「ヌギー!」
こはるは跳ぶ。
「遅い!」
ぴかっ!
光弾。
ヌギー一体が吹き飛ぶ。
さらに。
ぴかっ!
ぴかっ!
ぴかっ!
連続魔法。
ヌギーが転がる。
こはるは軽やかに動く。
ジャンプ。
回転。
蹴り。
ばしっ!
ヌギーが飛ぶ。
プルンが叫ぶ。
「強いプルン!」
「ステッキ強化2倍プルン!」
こはるが笑う。
「いい感じね!」
残り十数体。
ヌギーたちはまだ突撃してくる。
「ヌギー!」
こはるがステッキを振る。
ぴかっ!
魔法弾。
次々に倒れていく。
数分後。
最後の一体が転がった。
「ヌギー……」
静かになる。
こはるは肩で息をする。
「ふぅ」
「終了」
そのとき。
ぱち。
ぱち。
ぱち。
拍手。
静かな拍手。
こはるが振り向く。
そこに立っていたのは――
白森めい。
図書館で会った少女。
落ち着いた表情。
眼鏡。
静かな笑み。
こはるが言う。
「……めいさん」
めいは軽く会釈する。
「こんにちは」
こはるは目を細める。
「やっぱり」
「待ち伏せ?」
めいは否定しない。
「ええ」
「少し試してみました」
こはるがため息をつく。
「30匹で?」
めいは淡々と答える。
「魔法少女の実力を見るには」
「ちょうどいい数でした」
こはるはステッキを構える。
「あなた」
「ドレスティアでしょ」
めいは少しだけ微笑む。
「ええ」
そして静かに言う。
「幹部」
「メイド怪人」
めいは一歩前に出る。
「メイディア」
こはるが言う。
「やっぱり怪人か」
めいは落ち着いている。
「あなたは」
「ヴェルヴェット将軍のお気に入りです」
こはるが眉をひそめる。
「は?」
めいは続ける。
「将軍はあなたの体のラインを」
「とても気に入っています」
こはるが真顔になる。
「……」
「それ嬉しくない」
めいは静かに言う。
「安心してください」
「壊さないように捕まえます」
こはるが怒る。
「誰が捕まるのよ!」
めいはポーズを取る。
「では」
「そろそろ」
めいの周囲に光が集まる。
黒い光。
柔らかな影のような魔力がふわりと広がる。
公園の空気が一瞬静まり返る。
次の瞬間。
黒い魔力が、静かに体を包み込んだ。
制服の布がゆっくりと宙へ浮かび上がる。
スカートがほどけるように広がり、
ブラウスのボタンが淡い光へ溶けていく。
くるり。
めいの体が回転する。
細い腰のライン。
背中のしなやかな曲線。
光の中で、一瞬だけ白い背中が露わになる。
肩甲骨から腰へ滑らかに落ちるライン。
無駄のない、静かで整った体つきだった。
さらに回転。
黒いレースが空中で形を作り始める。
胸元。
柔らかな曲線を包み込むように、
透ける黒い布が重なる。
レース越しに、ふくらみの立体的なラインが浮かび上がる。
決して露骨ではない。
だが――
そのデザインは、体の曲線を隠す気がまったくなかった。
腰には細いコルセット風のベルト。
きゅっと締まり、
くびれたウエストがはっきりと強調される。
その下。
黒いスカートがふわりと広がる。
しかしそれは普通のメイド服ではない。
透ける黒い布。
繊細なレース。
軽く揺れるフリル。
太ももにはガーター。
細いベルトが脚のラインに沿って食い込む。
引き締まった腿。
長い脚。
そこへヒールが形成される。
脚のラインがさらにすらりと伸びる。
最後に――
黒いメイドカチューシャ。
光が弾けた。
ぱんっ。
静寂。
そこに立っていたのは――
メイド怪人メイディア。
黒いシースルーのメイド服。
透けるレース越しに浮かぶ胸元の柔らかな曲線。
引き締まった腰。
なめらかに続くヒップライン。
そして長い脚。
メイドというより――
どこか妖艶な舞台衣装のような姿だった。
メイディアは静かに回る。
スカートがふわりと揺れる。
その動きに合わせて、胸元のレースがわずかに揺れた。
そして。
スカートの端を軽くつまむ。
優雅なお辞儀。
「ようこそ」
静かな声。
「魔法少女ピンクフリル」
こはるは顔をしかめる。
「趣味悪い」
メイディアは穏やかに微笑む。
「そうでしょうか」
「私は気に入っています」
そして顔を上げる。
落ち着いた視線。
冷静な瞳。
「では」
メイディアはゆっくり言った。
「お掃除の時間です」
こはるがステッキを構える。
「やれるものならやってみなさい!」
プルンが叫ぶ。
「幹部戦プルン!」
公園の空気が変わる。
魔法少女とメイド怪人。
次の戦いが
今
始まろうとしていた。
――しかし。
メイディアはすぐには動かなかった。
ゆっくりと手袋を整える。
指先まで丁寧に。
まるで本当にメイドが仕事の準備をするように。
こはるは眉をひそめた。
「……何してるの?」
メイディアは静かに答える。
「準備です」
「戦う前は、身だしなみを整えるものです」
そしてこはるをじっと見つめる。
その視線は冷静で、落ち着いている。
まるで実験動物を見る研究者のようだった。
「魔法少女ピンクフリル」
「あなたは確かに強い」
「ヌギー三十体を数分で処理」
「優秀です」
こはるはステッキを握り直す。
「褒めても何も出ないわよ」
メイディアは小さく首を振った。
「褒めてはいません」
「評価です」
そして、ゆっくり一歩前に出る。
ヒールが石畳を鳴らす。
コツ。
コツ。
公園に静かな音が響く。
「ですが――」
メイディアは微笑んだ。
「その程度では」
「幹部には届きません」
次の瞬間。
メイディアの背中の影が揺れた。
黒い魔力がふわりと広がる。
こはるは一瞬で構えた。
「来る……!」
プルンが叫ぶ。
「気をつけるプルン!」
メイディアはスカートを軽くつまむ。
優雅な礼。
しかしその目は――
完全に獲物を狩る目だった。
「それでは」
「お掃除を始めましょう」
その瞬間。
メイディアの姿が――
消えた。
「えっ!?」
こはるが振り向く。
次の戦いが
今――
本当に始まった。




