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第4話 笑って、また死ぬ放課後

——教室は、妙な静けさに包まれていた。

いつもならガヤガヤうるさい3組の教室に、今だけは風の音すら聞こえない。




教卓の前で立ち尽くす教師の口も止まり、生徒たちはただ一点を見つめ、凍りついていた。




黒板の前。そこに立つのは、ひとりの女子生徒。

その右手には、“ボウガン”。




(……ちょっと待て。え、ちょっと待て!?)




心臓が跳ねるどころか、どこか変なリズムで踊り出してる。

汗が首筋をつたって、制服の襟をじっとりと濡らした。



あまねは机に手をかけたまま、震える視線を前に送る。

ボウガンを構えるその姿——隣の席の、真宵まよいだった。



細身の体に、切れ長の目。

目つきはいつになく真剣で、何かを“狙う者”のそれだった。



「静かにしてくれる?」

低く、落ち着いた声が教室に響く。

「……今、決着つけなあかんのよ」




(あっかんやつやコレーーーー!!!)





しかも“どこかで見たことある顔”とかやない。“相方の顔”や。

あまねの脳裏に『バラエティ番組で突然ブチギレる芸人ドッキリ』がフラッシュバックするけど、そんなレベルじゃない。




隣のまよいが、教室で、ガチめの武器を持ってる。




(うわああああ!!! これ通報案件やん!!)




しかも明らかに“マジ顔”。笑うに笑えん。

あまねはそっと席を立とうとするが、足が思うように動かない。




そのとき——





「先生、この的、どこ置いたらええ?」



(は??)



一瞬、時間が止まった。

……けど、先生が答える前に、まよいは勝手に動いていた。




ポケットから“紙皿”を取り出し、黒板の端にペタリと貼る。



「はい、本日の保健体育、『ストレス発散ボウガン体験』でーす♪」



「勝手に授業作んなやああああああ!!!!」



田島先生がようやく我に返り、教卓から前のめりに叫んだ。

クラス中がドッと笑いに包まれる。



でも、ツッコミ役のあまねは——


(いや、ほんまに心臓止まるか思たわ……)




「次、あまねの番やで」

「いやウチかい!てか、先生おるよ!?これ授業中やで!?」




田島先生が半眼になって、声を低くした。


「……真宵まよいさん。何回言えばわかるの?ボウガンは授業に持ってこないって、生活指導にも言われたよね?」



「前回はクロスボウやったから、これはボウガンで別物やと思ったんですけど」

「似たようなもんやろがい!!」



「でも今回のは“スッキリ感”重視のモデルで……」

「だからそれを学校で試すなぁぁああ!!!」



プリントを机に叩きつけて、田島先生の声が響く。

周囲のクラスメイトたちは爆笑。

もう慣れた空気感になってるのが、逆に怖い。


「次やったらほんまに没収するからね!?生活指導連れてくからね!?」


「じゃあ今回のぶんだけ撃ってから没収してください!」


「撃つ気満々やないか!!……もうええわ、君に言うても無駄や……」




田島先生は溜息をついて、プリントを机に置いたまま自分の席に戻ってしまった。

周囲の生徒たちは笑いながら、何事もなかったように授業準備を再開する。



(……え、授業やるん?この流れで普通にやるん!?)




もう、止まらない。

このまよいは“そういう生き物”や。




あまねは手渡された紙皿に、なぜか律儀に“怒ってる父の顔”を描いた。

まよいが「はいセッティング完了♪」と黒板横にそれを貼る。

そして、ついに——



「はいあまね、構えて構えて〜。いけるいける、シュートやで!」


「何が“いける”やねん!! ウチ今、“撃つのに向いてへんタイプ”やぞ!?」



けど仕方なく持ったボウガン。


狙う。腕が震える。笑うクラスメイト。



……のはずやのに、あまねの鼓動だけが、まったく笑えてへん。



パシュン。



矢が放たれる軽快な音。


でも——その直後、頭の中に“別の音”がこだまする。


ぐしゃ。

ズシュ。

ドクッ。



腐った空気。

石の床。

食われた腕。

腹に突き刺さる、鉄の熱さ。



「っ……ひ……!!」


気づいたら、あまねは膝をついてた。


震える手。心臓がバグったように痛い。





「えっ、ウチの的、そんなクオリティ高かった!?」

まよいが顔をのぞきこむけど、あまねは何も言えん。




「いや、なんか、変な記憶が……ゾンビ……?みたいな……」




まよいは笑ってた。

でも、その笑顔の奥が、一瞬だけ真顔になったように見えた。



ボウガン騒動の後、何事もなかったかのように授業が再開された。

あまねの心は、ちっとも落ち着いてなかったけど。



「ほんまに撃つ必要あったか、アレ……」



黒板の文字をノートに写しながらも、頭の中は“別の世界”の記憶でいっぱいだった。


夢やったんか、それとも現実なんか。


あのゾンビ、血の匂い、冷たい床の感覚——全部、やけにリアルやった。



(……なんでウチ、死んだ記憶あるんやろ)



シャーペンを握る手に、じんわりと汗がにじむ。

隣を見ると、真宵は普通に教科書を開いて、何食わぬ顔で板書を書いている。



(ほんまに“普通”って、こんなにありがたかったんやな)



でも、ふとした瞬間。

真宵がページをめくる手が止まった。



「……」

その顔に、笑みはなかった。



次の瞬間にはまた何もなかったように笑って、何か小さくメモを取ってる。

けど——あまねは見てしまった。



(いま、一瞬だけ“真顔”やったよな?)



胸の奥に、さざ波みたいな不安がじわりと広がっていく。

怖い。けど、まだその正体がわからへん。



チャイムが鳴った。昼休みの合図。

周囲がざわめき出しても、あまねの心は静まらないままやった。




(なんやろな、これ……)




いやな予感。

でも、それを考えるのが怖くて、笑ってごまかした。



——次回、第5話 『どこで間違えたんやろな』へ続く



放課後にボウガン持ち出す女子高生、普通にホラー。


今回は、ギャグに見せかけてちょっとずつ違和感がにじむ回でした。

「笑えるけどなんか怖い」がやりたくて、書きながら自分も「え、まよい何者……?」ってなりました。


後半では、あまねの“胸のざわつき”が強くなってきたかなと思います。

この日常がどこまで本物で、どこからズレてるのか——

次回で、その“境目”がはっきりしてきます。


あ、ちなみにボウガンの件はちゃんと田島先生が生活指導に報告してます。


ではまた次回、「ほんまにあった怖い話(学園編)」でお会いしましょう。



【作者の一言】

この前、スーパーで柿ピー買ってんけど、袋開けたら上に“柿の種”しか見えへんくてな。

「ウチはピーナッツ派やのに!」って思って、袋ふりまくってたら、

隣にいたおばあちゃんに「元気ですねぇ」って言われた。なんで褒められたんやろ。


ちなみに、ピーナッツはちゃんと最後に出てきました。正義。

——綾乃りよ

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